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事務所開設(20XX年〇月26日)

事務所開設(20XX年〇月26日)


      ~早起きは三文の徳なり年寄りは早起き~


                        一


 伊藤、鈴木、川地、石田、森岡が東郷と一緒に散歩していた。年よりの朝は早い、5時半を指していた。空は、うっすらと陽がさしており、さわやかな潮風が中央区の公園まで届いていた。

 伊藤を始めとした長老メンバは、正式な渡航手続きをしないで共和国に来ていた。10年前に初めて訪れて、未完成だった島を視察した時を思い出していた。これが目指した島、国だと実物の姿を見た時、感動で震え、自然と涙がでた。

 あれから10年、久しぶりに見る島は当時の面影はあるが、全てに亙って一新していた。この島は、3年前から人数を増やしていった。当時は、皆不安な顔をしていたようだが、散歩ですれ違う人達は、ニコニコしてその面影はなかった。

「伊藤さん。皆朝が早いね。早起きは、年よりだけでないのだね」鈴木が言うと

「おいおい。俺達はまだ若いよ。年より扱いはごめんだね」川地が言った。森岡が

「でも孫が居るのだからね。それでも若いのかね」とからかった。皆一斉に笑いが起こった。本日から5日間、今後の戦略についての会議を開催する、そのために彼らは、この島に来ていた。北米、南米、アフリカ、中近東、西ヨーロッパ、東ヨーロッパ、東南アジアからも代表が来ていた。大和共和国の飛行場には、例の航空機が20機いた。


                       二


 日本に残った伊藤は、事務所の開設に忙しかった。一応航路の開設として申請した飛行場の使用が許可され、空港近くに事務所が確保された。夢来人会のメンバが事前に根回しをしてくれていた。各日本事務所には10名近くの職員を共和国から派遣する予定である。現地採用職員は、当面10名近くの職員を現地採用し、仕事量により採用人数を増やすことになる。

 伊藤が東京のホテルで食事している時、共和国の調査に加わっていたカメラマンと記者が突然訪ねてきた。

「伊藤さん。お願いがあってきました」訪ねてきた黒田記者が挨拶しながら言った。

「私達を雇ってくれませんか?」突然の申し入れに面喰って言葉が出ないでいると

「共和国での仕事をしたいのです。なんでもかまいません。どうでしょうか?」

「君達は、確かカメラを撮る仕事と記者の仕事をしていたね。どうしたのだね」

「私達は、共和国の調査に加わったあとよく話し合っていたのです。それで共和国の建設に協力したいと思うようになりました。そこで何らかの仕事をして協力できないかと思って、伊藤さんの所在を調べて強引に押し掛けてきました」伊藤は笑っていた。

「共和国の調査に加わったのなら、共和国の方針は知っておられると思いますが、我々はそれぞれの能力を基本として生きることを追求しています。それ故、貴方がたの能力である現在の仕事を無視して仕事をしてもらう訳にはいかない」

「共和国の基本は判っているつもりです。しかし共和国に役立つ仕事は何かが、判らないのです。だからなんでも良いと言ったのです。たとえば、現在伊藤さんが事務所の開設を進められています。その事務所のお手伝いでもかまいません。どうですか?」伊藤はじっと訪問してきたメンバを見た。平井、黒田、福西,平良、北里のメンバも伊藤をじっと見た。今準備している事務所は、日本での大使館的な役割を持ち旅行代理店も兼ねるものである。正式国交は開設されないが、日本国籍を所有している者に関しては、比較的自由にしようと日本政府とは協定を結んだ。大和共和国としては、共和国を訪れる人に対しては、共和国での宿舎が確保されている事、日本での住民票が確保されている事を条件とした。それらの仕事を彼らが出来るかどうか疑問である。日本の事務所の手伝いとしても、彼らの能力を生かせるとは思えなかった。給与条件も低い。あらためて面談することとして帰ってもらった。

 伊藤は寺門会長に連絡入れた。共和国調査に参加していたカメラマンと記者たちが来て仕事を手伝いたいと言ってきた話しをした。

彼らの真意を調査してほしいと連絡しながら事務所を確保した事を連絡した。それと現地採用として夢来人会と希望の会から職員を出してもらえないかと打診した。

「伊藤君。記者達の真意については山本君に調査させる。それと現地採用職員については、佐々木君が準備手配しているので確認して書類を送付するようにする。岩垣君が研究施設の準備状況について近近そちらに行くとおもうのでよろしく。書類は佐々木君が持って行ったほうがよいかな」

「判りました。本日から会議が始まっていますので研究施設については、報告できるようになっていますか」

「森岡君が報告することになっている。松田君の息子が東京事務所を面倒見ることになったから、彼を使ってくれ。関西人で気が合うと思う」民主会は、それぞれ世代交代の時代となっていた。


                        三


 アメリカ国務省は、大和共和国から渡航申請された件を検討していた。核軍縮会議に参加したいとして東郷、本山他計10名の申請が出ていた。大和共和国を認めていないことから申請について迷っていた。アメリカも政権が変わりアメリカ大統領は、プラハで核兵器の廃絶を呼び掛けていた。日本に対して気を使っていたのである。しかし、以前に台湾の李総統の訪米を認めた関係もあり、認めていない国でもビザを発行していた。国務省内では、アメリカを訪れるといっても、アメリカ政府と交渉するわけでなく、核軍縮会議でニューヨークへの渡航であることから認めても良いのでないか、そうなれば日本への一定の配慮が図れるのでないかとの意見が出た。それと東郷主席を見てみたいとの思いも重なった。但し国賓でないから特別待遇のSPを付けないことで認める事とした。


                        四


 アメリカ政府は、大和共和国を先進国においては、驚異と感じており、後進国においては歓迎されていると分析していた。アメリカを含めて先進国が一番嫌ったのは、軍隊を持たない国、戦争放棄を宣言した国を全面に出して、最先端の科学技術力を有している事だった。一般的には歓迎すべきことだが、先進国と称している国々は驚異として一様に大和共和国に対して警戒をした。

 独立を支持した国は、ロシア、フランス、スペイン、イタリアや北欧の諸国であるが、支持しても脅威は感じていた。急速に発展してきた中国やインドなどは支持していなかった。経済封鎖などを考慮する動きもあったが、その理由がなかった。彼らは不正や反乱を起こしていないのである。孤立させることも厳しかった。今では、共和国を利用することで彼らの国力を弱めるなど消極的な対策しか思いつかなかった。

 共和国が不利なのは、出来たばかりの国の宿命で、国際社会での対応が弱点である。国際社会のルールに乗せる指導をして行く事が、必要だと各国は思っていた。日本の足元を脅かさないで行けるように、監視指導をしていく必要があると思っていた。上からの目線である。


                        五


 アメリカ政府は、大和共和国が示した航空機、電気自動車にたいして対策が必要と思っていた。電気自動車は今アメリカを始めとして各国が力を注いでいる産業である。すでに各国は開発をしていた。航空機にたいしてはアメリカ、ロシア、イギリス、フランスと影響がでる産業である。これに対して注目していた。また、石油、ガスなど地下資源を有している国にとっては、早すぎる電力エネルギの開発が、大和共和国で行われている事に関心を持っていた。これは原子力エネルギを売り込もうとしている国に、おいても同じであった。この様に大和共和国が有している技術力は、今後の経済の行方を左右することになる物であった。当然各国の保守勢力をはじめとして、色々な利権を持っている経済界や権力者の地盤がくずれていく可能性をもっており、危機感があった。

 日本が、この技術力を持っているのであれば問題なかった。日本から分離、独立した国が、技術力を持っている事が問題であった。どこも大和共和国を制御できないのである。

 唯一日本だけである。日本政府にその力はなかった。アメリカにコントロールされている日本は、飼いならされた猫みたいな者である。アメリカは地団太踏んでいた。中国政府も今後の対応に窮していた。大和共和国の技術力は、欲しい物だらけであった。

 この様に各国は、それぞれ事情が違うが、共和国との付き合いを、どの様にするか模索していたのである。


                        六


 日本サッカー協会は、ワールドカップ日本代表候補として予定していたが、共和国へ移籍を望んだ3選手を代表対象外とした。今まで、日本代表としてチームに選ばれた事はなく、3選手が居なくても問題ないと発表した。今後、各方面で大和共和国志望の人達が、出てくる事が予想される事件だったが、サッカー協会の発表でひと段落した。

 まだ、共和国は、受け入れるとの声明は出していない、移籍希望したスポーツ選手に対しても、何のコメントはしなかった。


                        七


 共和国への渡航希望者について、共和国は来月1日に第一陣を認めると発表した。すでに申請されている旅行業者、貿易業務事業者、電力産業などの申請者と面談し渡航費用など条件を確認して渡航を認めると発表した。

 逆に、100名近くの大和共和国職員の日本への派遣を申請した。就労ビザも含めての申請だった。

日本政府は、当面観光として受け入れるとした。3か月毎に滞在の更新を行う事を要求した。さらに日本外務省は、日本と大和共和国の交流のために、交流協会を作る要員として第一陣の渡航メンバを申請した。

大和共和国外務省は、日本政府が要求した、派遣職員の日本滞在ビザの更新期間について了解と返事した。さらに、共和国側に窓口を開設する準備の要員受け入れを許可すると発表した。

 日本と大和共和国の国民が、協定通りに進めて行くためには、お互いに準備が不足していた。取り分け日本の対応は、これから窓口機関の開設のための準備に、着手するなど動きは遅かった。


                        八


 内閣調査室の影山は、警察庁、防衛省から派遣されたメンバに注意を与えていた。

「皆さんは、高々大和共和国のために何故集められたのかと、疑問に思う人がいるのでなかろうか。そう思う人は、率直に手をあげてください」誰も手を挙げなかった。

「結婚している人は、手を挙げてください」

警察庁出身10名、防衛省出身7名が手を挙げた。警察庁と防衛省から30名ずつ派遣されていた。女性が10名いた。影山のところには、実行部隊30名と机上組10名いた。

「影山さん。増員メンバは60名です。不足ですか」防衛省出身の村上が言った。

「村上君と言ったかな。余計な事を喋ると命を落とす。人数でない、君達が仕事が出来るかだ。第一の質問は、君達の覚悟を。第二の質問は、君達の作業体制を組むためだ。今日から君達の所属はここだ。昨日までの所属に戻る事はできない。嫌ならば、第三の質問だ、手を挙げろ」静かだった。誰も手を挙げなかった。

「今日本は、非常に窮地にある。対応も全てに亙って遅れている。それでも我々は、日本を守って行かねばならない。情報戦だけでなく、現実的に実践も始まっている。先日、共和国の人達を昼間に関わらず拉致した人間がいた。その集団と支持した人間は、誰か判らないが、完膚無きたたかれた。今でも震えて喋る事が出来ないでいる。共和国の人間がやったと思えないが、日本においてこの様な事件が起きている。まだまだ、共和国をたたこうとしている勢力は活発な動きをしている。

我々は、共和国を守ろうとしているのでない。日本で不法な行動を起こされては、日本を守る事が出来ない。そのために君達に来てもらっている。

アメリカが、先日各国の情報機関と情報交換したとの話があった。日本をさておいて行われている。何がどうなるか判らないが、不穏な動きがあるのは確かである。日本を巻き込もうとする動きもある。皆さんの身の安全は保障できないこともある。そのつもりで仕事を励んでほしい」皆引き締まった顔をした。

「共和国は、警察力だけの国でないのですね。共和国の人達を拉致しようとした人達は、警察病院で預かっていますが、何も言えないで震えていますからね」新宿で暴力対応の刑事をやっていた桜井が言った。

「共和国の伊藤は、民主会の初代会長である伊藤の息子だ。彼が昨日、影山さんに韓国の哨戒艦の爆破は北朝鮮の仕事だと言ってきた。この様に彼らの情報網は早く、広範囲な収集が出来る。今各国も彼らの実態が判らないでいる。国を造ることをやった人達だ。表の顔は見えて来ているが、裏の顔は不明だ。拉致した人間を叩いた組織は、多分裏の顔を持った人たちだろう。その実態が誰もつかんでいない。先日、彼らは防衛省に招かれたが、そこで彼らが何を話したか、皆知っていると思うが、それだけの実力を持っていると思ったほうが良い。日本を守るためには、彼らの協力が必要であると思っている。利用すべきだと思っている」内調の課長である石葉が言った。防衛省で話された内容は、増員されたメンバには知らされていなかった。皆の反応を観て影山が説明した。信じられない内容だった。一瞬皆ざわついた。

「その話しは本当ですか、先日テレビで言っていた事は本当だったのですね」防衛省から出向した海原が言った。

「本来、この話は秘密であるべきである。どこで漏れたか判らないが、日本の秘密を守る意識が弱い事を露呈している。各国は、日本を牽制するか、圧力をかけるだろう。つまり信用されなくなる事だ。その事を肝に銘じておいてほしい」その後石葉が、作業体制を話した。増員されたメンバは、これほどと思っていなかった。ある程度理解しているつもりだったがそれ以上であった。

「恐ろしくなったと思うが、この話を聞いた以上、脱落はなしだ。女性も妻帯者も関係ないと思っている。予算は無制限で使ってよい、但し常識を弁え。誘惑に負けるな。仲間を殺したくない」

内調の真田がみんなに止めを刺した。


                        九


 影山は、増員に女性が入っているとは思わなかった。状況が判っているのかと思った。しかし、皆手を挙げなかった。課長の石葉が、入ってきた。ここで飲まれていると思って、準備してきましたよと資料を渡した。

 影山は、飲みながら資料に目を通した。

「少し心配が和らぐのでないですか。各省庁もそれなりに考えているのですよ。これからを背負っていく連中ですから死なせたくないですね。ところで、遅くなったが共和国にメンバを送る手配はどうしますか」

「仲野、伊藤の二人からは、了解が出ている。但し、その他の国に知られない要員にしたほうが日本にとって良いのではと余計な事まで言っていたよ」

「朴副主席の了解がでているようですね。懐が深いのか、当然なことだと思っているのかどちらですかね」

「情報戦は、避けられない。メンバの善し悪しにかまっておれない。犯罪を起こさない限り問題ない。そんなところだろう」

「前回調査に加わったメンバから1名、新規メンバで女性3名、10勇士から1名用意しました」

「明日茨城空港に向かうようにしてほしい。共和国のメンバが来るので、その帰りの便に乗せてもらうように手配している」

「えっ!明日ですか。判りました」石葉は出て行った。既にメンバには話してある、しかし明日からとは言っていない。まだみんな帰っていなかった。派遣メンバを会議室に集めた。10勇士から筧、前回調査に参加した海原、そして女性は、本谷、米塚、武藤が呼ばれた。

「明日10時に茨城空港に集合だ。出張の用意してくるように、リーダは筧君に執ってもらう。朝が早いので遅れないように、飛行機は共和国の飛行機に乗る。どんな乗り物か、感想を送ってくれ」

「そんな急でないですか」女性達は、準備が出来ていないなど言っている。

「以上解散!」

「待って下さい。何を持っていけばよいのですか?」そんな声に石葉は無視して会議室を出て行った。残されたメンバは唖然としていた。海原が言った。

「筧さん。いつもこうですか?」

「いつもそうだけど、今回は特別だな。仕事用品だけは忘れるな、その他は現地調達するぐらいの気持ちでいることだ。だけど相手の飛行機に乗せてもらえるなんてすごいね。良く手配できたな。明日厳しい者は、連絡くれ、今日中に移動する」筧が言うと、みんなぶつぶつ言いながら部屋を出て行った。筧は、自分の机に戻るとパソコンを観た。メールに連絡事項が来ていた。


 寒さが吹き飛ぶ、桜を観たかったと思う暇は無かった。明日から南国いり。南十字星が見れると思うと心が弾んだ


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