天国の島(20XX年〇月23日)
天国の島(20XX年〇月23日)
~長生きは宝物である生き字引が宝物だ~
一
冷たい雨が降っていた。昨日の深夜から雨になっていた。仲野は昨日の懇親会の後で民主会の長老達と秘密裏に会っていた。夢来人会のメンバである。寺門、伊藤、鈴木、川地、山本、佐々木、石田、岩垣、松田、森岡の10人衆である。双方が情勢分析のための話し合いである。昨日の拉致事件、マスコミの寺門会長出席要請、国防で防衛省に呼ばれた事など10人衆に報告した。取材は寺門、伊藤、鈴木に集中して他のメンバはまだ知られていなかった。ゴミ焼却場の基地は、すでにほとんど調べられていた。右翼や暴力団、中国、朝鮮・韓国の在日の一部が不穏な動きが見えている事、マスコミを使って妨害をしていることなどが知らされた。彼らを動かしている人物がまだ特定できていないようだった。アメリカ、中国、韓国なども動き出していて、最終的には力で攻撃してくる可能性が高いと話しがでた。
「他人に迷惑をかけない。理想社会の実現を目指すだけなのに何故妨害する。何故、協力し良い意味で競ったりしない。これが人間なのかと思います」仲野が言った。
「ロシア革命も中座した。中国革命も同様だ。頭で考えている理想など、簡単に吹き飛ばす営みを人間は長くやってきた。権力を持てば、利権をもてばずっと持続したいと誰しも思う。弱肉強食は人間の本能だ。貧富の差を見せつけるのも人間に対しての刺激で飴と鞭だ。権力思想は、長年人間をこの様に教育してきた。そして現実を見せつけてきた。我々が気をつけるのは、内に気持ちが行く事だ。理想のほころびもそこから始まる。献身の気持ち。働く事の喜びを外に向かって発散させる政策が必要だ。かつて誰もなしえなかった力を我々は持った。準備した。拠点を造った。そして我々は世界に向かって宣言した理想国家の実現を」伊藤が喋った。
仲野は謝った。予想した事だったが、外に出ると誘惑、妨害、攻撃、ねたみなど戦いの毎日だった。すぐに弱気になる。孤独感も手伝った。だから短絡的に力で世界をねじ伏せる事が出来るのに、何故やらないと考えてしまう。“見守るだけ”とするいら立ち、日本の現状を考えると、このいら立ちが増していた。これからが本番である。民主会の組織は洗い出されていた。ゴミ焼却を拠点としていた日本各地の拠点も洗い出された。世界のゴミ焼却ルートも洗い出されている。不正を働いている訳でないが、資金ルート・支援ルートなどの一部が洗い出しがされていた。謀略組織が動いていることから、でっち上げを含めて何を取り上げてくるか判らない。スパイを送り込むであろう。内部から破壊を狙うだろう。皆あらためて気持ちを引き締める必要性を感じた。しかし、全員歳をとった。後継者作りはやってきたが十分でない。その事がきがかりであった。東郷は10人衆を共和国に移す事を考えていた。その事を話すと伊藤が、緊張感のある前戦にいたいと言った。人生を理想に賭けてきた。やっと大きな村ができた。小さな村は作ってきた。この小さな村が伊藤らの活動の場であった。今後夢来人会の切り替えが必要になるだろう。それまでは頑張りたいと言った。
二
仲野達共和国代表団は、茨城空港に居た。茨城空港は新しく出来た空港である。韓国と中国の上海、国内の神戸を路線として持っている空港である。共和国は、この空港を定期便の空港に指定した。茨城空港側は願ったりかなったりで大歓迎と思われる。都心と遠く離れていることから不便といえば不便である。
共和国は、この近くに事務所と提携するホテルを確保するように残る伊藤局長に指示していた。
空港には、日本側の関係者とマスコミ、航空機をみたい一般の人達で混んでいた。飛行機が東の空から現れた。静かな着陸である。一斉にカメラの音が至る所からしていた。是非乗ってみたいと感嘆のため息が聞こえた。すでに別れの挨拶は行われており、代表団一行はバスにのり飛行機に近づいていた。搭乗口は後方の下側から乗るようだ。代表団一行が乗ると静かに飛び立った、本当に静かである。飛び立つときもカメラの音があちこちで聞かれた。海外のメデイアも共和国の航空機を撮っていた。この航空機が主力になる時は世界の航空機産業は大打撃を受けるだろう。また、航空会社にとっても経営を左右することになりかねかった。3時間でどこでも行けるなど夢の様な航空機だからである。
レンタルで貸し出す提案に日本航空は、興味を示した。燃料費など高等しているなかで経費の削減と旅客の確保が図れるならば経営問題に揺れている打開策となるかもしれなかった。共和国へ申し入れをしていた。
三
アメリカ政府は、日本政府が沖縄の海兵隊の訓練基地を明確にすることを濁しているのにいら立っていた。前政権とは合意していた移転基地に対して、沖縄県外にすることで支持を受けた現政権の迷走にいら立ちを覚えていた。
政権交代したことで沖縄県民の期待は高まっていた。そこに軍事基地を持たない国が、日本の近くにできた。米軍の抑止力でアジアの安定に貢献しているとの根拠を覆す事態である。
アメリカは、世界戦略の見直しが必要となる事件だった。最初は甘く見ていた。誰にも気づかれないで構築された事は、油断と見ていた。報道などで共和国の実態が判ると誤りであることに気付いた。止めは航空機をみたことだった。対策と言っても有効な手立ては見つからなかった。軍事力で共和国を抑えるには時期を失っており、日本に圧力をかけ、日本が共和国を制御する考え方が、今や主力であった。中国や韓国、ロシアも共和国が国際部隊に乗り出してくる事を望んでいない事が救いだった。ヨーロッパの国々も同様だった。アメリカは各国に共同で対処する打ち合わせを提起していた。
四
中国政府は、かつての同朋が共和国の幹部で姿を現したのだからより一層共和国の進出を望まなかった。どのように対応するか手立てを検討していたが友好な手立てが見つからないでいた。そこにアメリカ政府から共同対策の申し入れがあった。中国は今や経済大国に上りつつあった。貧富の差は拡大する一方である。しかし、社会主義制度は崩していなかった。中国の友好国として、北朝鮮がいる。色々な問題を抱えているが経済的にも精神的にも色々と支援していた。そこに共和国は訪問していた。金正日は体調を悪くしている。後継者問題で3男を指名しているが体制固めが出来ていなかった。北朝鮮は核開発で力を誇示しようとしていた。それを防ごうとして6カ国協議が進められていたが今は中断している。さらに内部体制を強化するために不穏な動きもしていた。経済政策の失敗や後継者問題がスムーズに行かない事を世論からそらすためにも使おうとしていた。軍部のコントロールは、金正日の制御が聞かなくなっていた。共和国は、そうした時期に訪問して窓口を開設させようとしていた。さらに共和国は、台湾にも訪問して貿易窓口を開設することに成功していた。台湾の独立を願う人達にとっては大歓迎であった。共和国側の動きは、中国をいら立たせる行動を取っていた。そのためアメリカからの申し入れはタイミング的にもよかった。
五
日本政府は嵐のように過ぎ去って行った共和国代表団の後始末に揺れていた。開港を求めていた地方空港との接続については基本的に認める方向でいた。さらに貿易協定や渡航協定については協定通りすすめることとしていた。電力問題については、今後日本の成長産業推進していくインフラ整備の一環として渡りに船として捉え、民間で進める環境作りを支援していくこととした。問題は、沖縄問題である。対応が後手、後手となっている防衛問題である。日米の根幹をさすもので大いに揺れていた。前政権は、海兵隊の移転に関する協定を結んでいた。アメリカはその事を示唆していたが、住民の了解を執れとも言っていた。お互い政権が変わっていた。防衛省からの報告では、沖縄県民の希望は、米軍基地不要であった。そこに共和国が現れ県民の願いは増大した。さらに共和国が防衛省と打ち合わせした内容は、日米軍事同盟を破棄する事に発展する内容であった。また、共和国が提起した銃・刀・麻薬等を監視するシステムだけでも米軍基地の存在を否定することになる問題であった。監視システムは、米軍基地を丸裸にする事にもなるシステムであった。財源不足を考えるならば、大幅な削減が図れる提案であり、導入を前向きに検討しても良いものであった。
経済界の圧力、アメリカの圧力、保守勢力からの圧力は、強くなってきており、初めて政権を運営する与党陣営は未熟さが至る所に出ていた。自分達の主張は、政権を運営して行く中で埋没して行った。面と向かって物が言えない政権であった。今までの政権の財政運営の附けが財政を圧迫しており、打ち出す戦略が後手に回っていた。さらに政治主導と言いながら官僚、財界、アメリカに対応できないでいたから、圧力に立ち向かう政策は打ち出せなかった。主だった閣僚は、現状維持政策に傾き、山鳩総理は孤立して行った。
六
民主会は、共和国が独立宣言した事で、共和国のメンバと関係があると見られており、政党からも話しを聞きたいと、打ち合わせを求められていた。今まで寺門は、鈴木と一緒に与党陣営と懇談会を持った。さらに野党となった保守党、協明党とも懇談会にまねかれて打ち合わせをもった。寺門は、積極的に政党との打ち合わせに参加した。
今年は国政選挙が予定されていたから、各党とも共和国対応を利用しようとしていた。
共和国の考え方の真意と東郷主席の人物像、そして防衛問題を聞いてきた。
寺門は、共和国の真意は共和国の人間でないから判らないと話していた。東郷主席の人物像については、話せる限り民主会当時の話しをした。
各党とも共和国と民主会の繋がりについては、寺門の説明に納得していなかったが、東郷主席については興味を見せた。
七
革新党は民主会の長老、石田、森岡、山本と会っていた。寺門会長との対話を望んでいたが寺門会長から、3名を推薦指名してきていた。3名は、石田、森岡、山本であった。
「私達は、60年安保を戦ったメンバです。当時共産党の対応に反発したものです。70年の時もそうですね。じれったく感じました。懐かしい思い出ですね。ハハハ・・」石田が笑いながら話した。
「私達と話したいことは、大和共和国についてですかね。それとも民主会の話しですか」森岡がゆっくりと喋りながら聞いてきた。
「両方ですね。私達が目指しているものと共和国は共通的な要素があると思っています。私達は日本に責任を持って変えようと思っていますが、違いはそこだけでないでしょうか。しかし、皆さんは独立国という、途轍もない事を簡単に実現してしまっています。参考になるならば聞かせてもらいたい。それと防衛問題です。軍隊を持たないでアメリカと渡り合っている。まだ本音というか実態を隠し持っている感じがします。その点もお聞かせねがえませんでしょうか」革新党責任者の石井が言った。
「我々は共和国の人間でないですよ。それでも聞くのですか」笑いながら山本が皮肉をいった。苦笑いしながら“そうです”と石井が言った。石田、山本、森岡は顔を見合せながら石田が言った。
「最終的には、日本も変わってもらわないといけない。革新党が一番筋を通している事と面と向かって言う事が出来る唯一の政党である事に敬意を表して話しましょう。但し、話せない事もあります。その点はご承知下さい」革新党は中央委員会の主だったメンバが出ていた。しかし、前回共和国の調査に参加した議員は出席していなかった。民主会は政冶団体でない。会員相互の親睦団体である。60年安保直後は、学生主体に60年安保で傷ついた同志を癒す事を目的で作った。学生から企業へと旅立つために戦いで傷ついた心を癒すために故郷の親睦会を作った。卒業して企業戦士になる。学生気分の決別が必要だった。しかし止まり木は必要だった。そのために定期的に集まる場を作った。止まり木は止まり木であった。年とともに気持ちも違ってきた。止まり木の役割は終えようとした。70年の中ごろに民主会に変化が起きた。理想を実現する組織が立ち上がった。夢来人会、希望の会である。そんな歴史があることは話さないでいた。民主会の会員自身は、共和国建設に携わっていると思っている人間は少なかった。しかし、共和国の人達には民主会の親睦で知り合った人達が多数いた。
石田は共和国について話をした。革新党は矛盾だらけだと指摘してきた。まずは誰も知られないで人工的な島を造った力、インフラ整備している技術力、軍事力をもたないで防衛出来ると国を支えている哲学、理想を掲げるだけで人間をまとめる事ができるのか等、質問してきた。
日本人だけでなく世界中から人間を集めている事にも疑問があった。東郷主席にそれだけのカリスマ性があるのか疑問だといった。
「共和国の島は、50年前から作り始めています。2000年を目標に始めています。世界中に日本語教育を通じて知り合った仲間を共和国建設に参加させています。そのためには献身的な部隊が必要です。その役割に民主会のメンバが関係しました。技術的な面では能力に応じた技術者、科学者、医者、弁護士などの集団を組織しました。オウム真理教が高学歴な人達の集団を集めたのと同じです。彼らが有名になった時、我々の仲間だったメンバがいるのでないかと思いました。
はっきり言って我々の仲間は、革新党にもいます。既存の宗教団体にもいます。共和国が持っている科学力や技術力については、世界の最先端でしょう。それについて我々は、理想実現に利用する事だけに集中しています。どうやって生み出されたか等は、関知しません。教える事も出来ません。
国防問題については、共和国が考える問題だが、世界最強の国民だと言うことでご理解いただきたい。軍事力をもたないから、理想的な非暴力を訴えることできます。気に入らないと言って、共和国をつぶすとするならば外部から破壊はできません。内部から破壊することです。
東郷は、カリスマ性はないと思います。内気な人物です。しかし、人の能力を見抜き仕事をあてがう能力は抜きんでています。つまり適材適所の人材配置です。彼は左翼的な思想と右翼的なナショナリズムを併せ持った人物です。現在それが有効に働いています。一歩間違えば過激思想の持ち主ですからね。ハハハ・」と山本が今までの話しを補足した。革新党は驚いた。民主会がそこまで活動していた事に脅威を感じた。民主会の様な、無思想組織が、政治闘争もしない組織が、国を造ったことが信じられなかった。歴史は革新党のほうが長い。日常活動もし、組織化もしている。それでも国を動かす政権まで行っていない。何が違うのか判らなかった。判ったことは、現地に行き共和国と直接話し合うことが早道だと言う事だった。共和国訪問の支援を革新党は依頼した。
各政党も同じだった。話をきいても信じられない話となり、疑問が増えるばかりだった。
謎を秘めた島は、今や世界の中心となっている様だった。理想の国、空想は空想を呼び
天国のような島になっていた。