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春よ来い(20XX年〇月20日)

春よ来い(20XX年〇月20日)


     ~知らない町に降り立つ君を誰が待つ~


                       一


 季節はまだ春が遠くに感じられた。空港は雪がちらついていた。平壌空港に大和民主主義共和国の専用機が降り立った。静かな着陸である。北朝鮮関係者は、専用機の近くまで出迎えた。両側に軍服きた朝鮮人民軍の要員が並ぶ中を、出迎えた北朝鮮の要人と供に本山外務大臣と共和国関係者は歩いていた。


                       二


 日本では、昨日の夕食会で起こった共和国関係者の華麗なる舞が話題となっていた。偶然民放局のビデオに撮られていて、夜の報道番組に映し出された。悪さをした人達が、取り上げられないで対処した共和国の女性にスポットを当てたマスコミに、むなしさを共和国関係者は感じていた。何事もなかったようにした鮮やかな手並みだった。お酒の世界での出来事として単純に片づけられたようである。共和国側はその事に対して抗議せず沈黙を保った。


                       三


 夢来人寺に寺門と鈴木が訪ねて来ていた。

「出歩いて大丈夫かね」伊藤が声をかけた。「ここは落ち着きますね。監視されているのは覚悟していますからね」

「悟りですかね。いよいよ始まったね。ハハハ・・」と伊藤が豪快に笑った。

「出雲さんが“夢”を動かしているからある程度大丈夫と思っていますからね」

「アメリカ支部からマフィアが、人を送ってきたと連絡がきたよ」鈴木が言った。

「仕事の提携の話しながら乗っ取り等をかけるのかな」寺門が言うと、マイアミはキュ-バ人とジャマイカ人が嫌がらせをしていると鈴木が言った。さらにニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルスも日系人の企業に調査がきていると報告した。

「アメリカだけかな」

「ドイツもゴミ焼却で調査しているようです。フランスもそうです」鈴木が続けた。

「多分イギリスも同じようにうごいているだろう。イスラエルの情報機関が日本に要員を派遣しているからね。すごい事になったな」寺門がのんびりした口調で言った。

「昨日仲野君は、松田君と会ったのだろ。何か言ってきた? 松田君のところとビジネス提携をしていければ連絡がスムーズにいくからね」伊藤が言うと

「仲野君が苦笑いしていました。すでに部屋は盗聴器が設置されている。昨日の会で酔っ払った振りして女性スタッフに嫌がらせをしてみたりしている。共和国の出方を様子みている感じと言っていたよ」寺門が苦虫をつぶしたような顔で話した。

「民主会と夢来人の会員名簿はどうした」「民主会と夢来人会については、二重管理しています。民主会で乗せても大丈夫と判断している会員はそのままですが、厳しいと思われる会員は脱会した会員に置き換えています。いずれにしても調査機関が手に入れれば時間かけて掴むでしょうね」鈴木が言うと、寺門は、民主会をもっと表に出す事が必要と思うと伊藤に言った。

「具体的にどうするのかね」

「大和民主主義共和国を支持している組織として発表する。これにより調査機関も裏でやることなく調査できる反面、我々も堂々と対応できる」寺門が話した。

「資金ルートまで隠せるかね」

「共和国へ流れた資金については、隠すことが出来るとおもいます。民主会では直接関与していない。個人的に資金を提供しても共和国との関係は知らないから、知らないで通せるのでないかと思います」鈴木が言うと

「アメリカを甘く見ないほうが良い。時間稼ぎとして、みんなを守る手として良いかもしれないな。出雲さんに新たな防御が発生すると連絡したほうがいいね」

「伊藤さん。ところで本山君が北朝鮮に行ったけど、どうなると思いますか」

「東郷、張、孫、朴、本山で考えたのだから大丈夫でしょう。身の安全はOKだが、北朝鮮の改革まで踏み込むことは、厳しいかもしれないね。長年中国、ロシアの支援や各国の人道支援等でも経済は好転していない。新しい産業が起きていない。支援しても支援しても食糧難が続いているからね。どのように交渉して行くか骨が折れるだろうね。ハハハ・・」伊藤は他人毎のように話した。しかし目は笑っていなかった。

「北朝鮮に力を見せつけて、権力闘争に圧力かけますかね」寺門がポツリと言うと

「本山君は、色々な国を歩いてきているからね。向こうが攻撃してくるまで何もしないね。天下の宝刀を抜く事はないだろう。今回は儀礼の挨拶で事務所開設の話で留まるだろうね。日本人の拉致問題が進展すれば、日本は吃驚するね。でもしばらくは様子見かな」

「日本政府は拉致問題を期待しているでしょうかね」

「パイプを持たない日本国だからね。共和国が、パイプを作る事が出来たなら期待大ですね」鈴木が言った。

「寺門君。日本政府はそろそろ安全保障の話を持ちかけてくるのでないかね」伊藤が聞くと

「仲野君が、女性中心だからこないのでないかと言っていました。きたら伊藤さんの息子さんが対応しますよ」

「どうだろう。今回産業政策局の肩書できているからね。しかし、日本が馬鹿でなければコンタクトとってくると思うな」

「アメリカを気にしているからね。どうしてアメリカに弱いのかね。困ったものだね。アメリカは、別の動きをさせているね。そのうち直接乗り込む部隊を用意してくるとおもいますよ」寺門が言った。

「“夢”が動いているうちは良いが、“影”がうごいたら終わりだからね。そのようにしたくないな」伊藤が感慨深げにつぶやいた。


                       四


 日本政府と大和共和国政府の渡航に関する協定と貿易協定が、文書で交わされた。共和国は首相、主席が不在でも仲野が、全権委任された代表である主旨の委任状を持参していた。それだけ仲野は共和国の高い地位に居るのかもしれない。

 署名、捺印が滞りなく行われ握手を交わされた。その後で、仲野に田中室長が耳打ちしてきた。別室で打ち合わせしたいと申し入れてきた。頷くと、それでは後できますと言って席を離れて行った。

 通常の記者会見に望む者とバスに乗り込む者に分かれる時、田中室長がきて目で合図した。

別室には、今まで会ったことのない人物がいた。そして言った。

「仲野さん。この後は空いていますか?」

「空いていますよ」

「それならば、一時間後に迎えに行きます。皆さんには、内密にしてください。他の皆さんには、観光の案内が必要ならば、誰かつけます」

「昔日本に居たメンバがいますから大丈夫です」

「ここでは詳しい話はできません。我が国の防衛問題について、仲野さんの意見を聞きたいと言えばわかりますか」その人物は、じっと仲野の目をみて言った。

「判りました。2名帯同させてください。技術的な問題は、彼らに答えさせましょう。皆さんに注意しておきます。内密なら内密らしく周りに注意してくださいね。余計なお世話かもしれませんが」謎めいた言葉を仲野が言ったが、その人物は判った様に頷いていた。


                      五


 仲野と2名は、ホテルの駐車場から車に乗った。大型バンタイプで外をみることが出来ない車であった。30分くらいで目的地についた。地下からエレベータに乗り会議室に連れて行かれた。そこには制服をきたメンバ含めて数名の人達が待っていた。当然仲野達は知らない人達である。

 防衛省の戦略担当の技官と陸海空の将官と内閣調査室の室長であった。先ほどの知らない人物は内調の影山だったが、紹介はされなかった。仲野は、簡単に伊藤局長と秘書の松下を紹介した。

「早速来てもらってありがとうございます。本日お招きしているのは、先日の飛行機です。共和国の本音をお伺いしたい。仲野さんは行政区の区長をやっておられるが、代表格の権限をお持ちになっておられる。現在我々の取り巻く周りの環境は良くないと思っています。それなのに貴方がたは、武力を持たないで国を守ろうとされている。共和国が所有している防衛システムならば、我が国を守る事が出来るか、貴方がたと組めばどうなるか率直な意見お伺いしたいと思い内密でお招きしました」仲野はしばらく黙っていた。

「一緒に来られた伊藤さんは、初代民主会の会長のご子息ですか」内閣調査室の室長である影山が聞いた。仲野は影山をみて伊藤を見た。伊藤は黙っていたが驚いた顔をしていた。

「良く調べられましたね。貴方が影山さんですか。私達は監視されていますね。ホテルには盗聴器が仕掛けられています。皆さんがつけたのですか?・・ハハハ・・。皆さんでない事は判っています。しかし、皆さんを信じることは出来ません。私達も皆さんを調べさせていただきました」秘書の松下に顔を向けると、松下は大丈夫ですと答えていた。日本側は驚いた。いつの間にか松下は、パソコンを開いていた。

「大丈夫のようですね。貴方がたの突然な質問でどこまで答えればよいか迷っています。これから話す事は、私の独り言です。録音はやめてください」松下が確認OKと言った。録音、ビデオが取れるようになっていたが、それを松下が遮断した。これには、日本側は驚いた。

「これが私達の力です。録画、録音、盗聴することも出来なくしました。私達は、皆さんの防衛能力や米軍の力について分析しています。当然中国、韓国、北朝鮮も同様です。だから欠点なども把握しているつもりです。私達の防衛網は、仮に日本からミサイルが我が国に向かって打ってきても、瞬時に作動し爆破します。事故が起きたようになります。船舶も同様です。先日米国、中国、ロシアの船隊が我が国を取り巻きました。我が国は、漁船と監視艇、そしてヘリコプタで対応しました。これは世論対策です。武力攻撃しないと思っていたからです。日本から調査団が来られた時は、米国、中国、日本、ロシアの人達が不法入国者しています。結果はご承知の通りです。私達は泳がせました。日本の皆さんも不法入国が、把握されていると感じられたでしょう。この様に私達は、武力をもたないでも守るシステムが稼働しています。このシステムについて詳細を明かす事は出来ません。このシステムを今の日本には、提供出来ません。しかし、一つだけ提供出来るものがあります。それは銃、刀、麻薬などを監視するシステムです。1キロ以内の物ならば把握できるでしょう。警察で暴力団の監視、空港での荷物チェック、海上での船舶チェックができると思います。基地内の監視までできます。基地の監視は、使用する側が望むならばできます。今の日本で出来るかどうかは、皆さん次第ですけどね。お金がかかりますが、初期投資と考えれば安いものです。あとはメンテ費用ですからね。問題は誰が、何のために、誰のために使うかです。悪用されれば治安、警備に影響でます。以上が独り言です。皆さんの聞きたい事の回答になりましたか」声が出なかった。シーンとしていた。本当なのか、半信半疑の状態だった。もしそうならば、恐ろしい国である。武力を持っていないが持っている。矛盾したシステムを誰が信じるだろうか。会議室は混乱の中で誰も言葉を失った。

「驚きですね。これが本当ならば軍事力不要ですね。抑止力など言っておれないですね」

影山が、その場を救った。

「何故日本から離れたのですか? 貴方がたならば、米軍基地撤去を提言できるのでないですか。独立する必要があったのですか」自衛隊の将官が言った。

「空想話で夢物語だ」別な将官が言った。

「先日の飛行機は、本当に貴方がたが開発されたのですか? スピードはどのくらいですか」技官らしく制服を着ていない男がいった。伊藤局長が仲野を見、日本側の列席者を見ながら言った。

「飛行機は、我々が開発したものです。現在どこの国に行くのにも3時間で行けるように設定されています。皆さんは信じられないと思います。アメリカ、ブラジル、アフリカ諸国、ヨーロッパ全て3時間で行けます。防衛システムについては、私達も不安があります。まだ稼働した実績がないですからね。でも稼働しない事をねがっています。私達は、武器、武力は持っていません。話し合いが最大の武器です。システムは、最悪の場合の抑止力ですが、我々の抑止力は武力を持たない事が一番の抑止力です」また沈黙が続いた。

「我が国の防衛上の欠点があるとの話ですが、教えてくれますか」防衛省戦略室の技官が言った。

「現在、詳細な資料がありません。概略で良ければ、伊藤と松下が話しますが必要ですか? 必要ならば専門家を派遣します」仲野が言うと

「他の国についても教えてくれるのですか」との問い合わせもあった。

「それはやめたい。それぞれの国に対してはその国の人にしたい」日本側は顔を見合わせ、また沈黙した。

「共和国は、同じ日本人が造った国だ、連携して日本を守る事は可能じゃないですか。我々が依頼すれば守ってくれますか」仲野を始めとして共和国メンバは黙った。答えるべきでないと思った。

影山が、銃、刀、麻薬の監視システムについて政府に話したかと聞いた。まだと答えると、影山が政府に話してみますといった。その他やりとりがあったが、最初の仲野の説明が頭の中に残り、あまり論議にならなかった。最後に影山が言った。

「お開きにしましょう。本日はありがとうございました。我々としても検討してまたお会い出来るようにしたいとおもいます。今皆さんは、各国が注目して色々な事をしてくるとおもいます。気を付けてお帰り下さい」


                        六


 日本の政権は、昨年に変わった。アメリカの政権も変わっていた。今政府は揺れている。沖縄問題や景気の悪化で国民の期待通りの成果をだせないままで今日きている。そこに大和民主主義共和国が突然現れた。魅力ある技術力を携えている。今後どの様に付き合っていけばよいか対策が大きく崩れようとしていた。アメリカは秋に中間選挙を控えており何らかの成果を出す必要があり日本には圧力もかけていた。日本も夏に国政選挙を控えており迷走している対応に国民はいら立ちを募らせていた。経済の落ち込みは、日ごとに深まってきており、共和国との提携を求める声が強くなってきていた。政府は国民の期待にこたえるために事業仕訳など行っているが、経済対策については有効な手を打てないでいた。


                        七


 夕方に北朝鮮放送は、共和国代表団が北朝鮮の平壌空港に到着した模様を報じた。訪朝団は、その日に金総書記に表敬訪問し、にこやかな挨拶が交わされている姿も報じていた。金総書記が、テレビに元気な姿で映し出されるのは久しぶりである。まだ、何が話し合われたかについては報道されていなかった。しかし、共和国の訪朝団の様子を報じた事から共和国への期待が窺えた。


                        八


 大和共和国政府は、国際電話の国番号が割り当てられたと報じた。電話が繋がる事は、世界中にいる仲間との連絡がより可能となり、今後の共和国の戦略上の一歩が進んだと共和国は思っていた。


 春は近いのかもしれない。しかし日本も北朝鮮も寒かった。春よ来い、早く来い。歩き始めた共和国が表に出たいと待っている。


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