三寒四温(20XX年〇月19日)
三寒四温(20XX年〇月19日)
~自分を大切にする事が他人をも大切にする理想郷~
一
東京の朝は、雨が降っていた。久しぶりの雨が降る朝を迎えた。仲野は、3年前まで住んでいた日本で、寒さを喜んでいた。中央区の区長として忙しい毎日を送ってきたが、今回団長として送り出され慰安を兼ねた日本行きであった。交渉については、強力なスタッフが用意されていた。団長をサポートする2名の局長クラスの男性スタッフ以外は、すべて女性で構成されていた。警護を兼ねてのスタッフが女性とは誰も思わない。これも共和国の狙いであり戦術であった。
宿泊しているホテルは、共和国の支援者が経営しているホテルである。昨日の夜は、昔の友人たちが招待してくれた夕餉に出かけた。どうもその時に何者かが、盗聴器を仕掛けていた。団長の仲野が、夕餉の集いから帰ってきた時にメモが置かれていた。仲野は、しばらく様子みることにした。
今日は、都庁を訪問して打ち合わせし、午後は沖縄の人達と打ち合わせである。どんな話が出てくるか期待していた。夕方には政界、財界関係者との夕食会とのこと、3年前では考えられなかったことである。多分女性中心のメンバは、甘くみられ大物は出てこないだろうと思っていた。お互いに探り合いをする場になるだろうと思った。
二
共和国交渉団は、都庁を訪問した。都庁では小泉知事が挨拶した。小泉知事はある面では過激な人物である。物事を率直に発言する。今回もそうであった。
「日本の憲法と同じでないか、独立することは日本がだらしないとみているのでないか、日本に帰属して政権をとったらどうか」などと側近がひやひやすることを言った。
「貴方がたの技術力は、どうも地球上の技術力でないとの意見がある。皆さんはエイリアンに踊らされているのでないのか。真の狙いは日本侵略、地球侵略をかんがえているのでないか」など乱暴な発言もあった。挑発的な発言に女性のメンバは、顔を曇らせ抗議をしようとする者もいた、それらを抑えて返礼の挨拶に立った仲野が笑いながら挨拶した。
「小泉知事から、ある意味では過激で乱暴な挨拶もありましたが、私どもは、叱咤激励として受け取らせていただきます。東京は、我が国に一番近い行政区であります。私も中央区の行政を任されている一人として、東京都で行われていて良いものは取り入れるなど参考にさせていただきます。皆さんとは、正式な国交が結ばれていない状況ですが、良き隣人として交流をしていければ幸いと思います。私どもの中には、以前東京都に住んでいた人が多くいます。今後とも友人・知人の関係が、継続していけるようにお互い協力していきたいと思いますのでよろしく」と挑発的な発言を受け流しながら協力、交流を全面にだした挨拶をした。都知事は、苦笑いをしながら握手を求めてきた。その後都の渉外局チームと打ち合わせを行った。都知事は、わざと怒らせるような発言をしたが、軽く受け流す仲野団長に親近感をもった。
三
マスコミは、共和国の交渉団を監視するように取材していた。取り分け女性メンバが多いことも取材人を多くしていた。結構美人のメンバがいた。それぞれの打ち合わせの後で記者会見を開いているが、共和国側は、男性の局長と美人女性職員が記者会見に対応していた。打ち合わせ内容については、日本側に聞いてほしいとのコメントに終始した。
四
午後は沖縄の人達との打ち合わせである。日本政府もどんな事が話し合われるか関心を寄せていた。
日本政府は沖縄の基地負担軽減を沖縄県民に約束していた。しかし、同時に日米軍事同盟を基軸とした防衛は必要であり、沖縄の役割は重要であると言い続けていた。日本国民の大半の人は、沖縄の米軍基地は必要と観ていた。
日本政府は、共和国と沖縄が結びつくことを好まなかった。アメリカ政府も同様だった。しかし沖縄県民の圧倒的な要望を前にすると、今回の会見をセッテイングしないわけにはいかなかった。この打ち合わせが、適度なガス抜きになってくれる事を期待していた。
会議の場所は、政府がホテルを斡旋して用意した。会議室でのマスコミの取材は、人数制限で許可されていた。密室での打ち合わせは両者とも好まなかった。取り分け政府が仲立ちしてもミーテイングである、オープンにする事が賢明な対応であった。
「私達は、沖縄が長い間米軍基地に占有されている現状を打開するために、率直なアドバイスになるものをお伺いしたい。出来たならば、皆さんのところと交流を深めていく姉妹都市なども県や市に提言できるようにしたいと思っています」県議会議長である島袋が挨拶した。これに対して仲野が挨拶した。
「日本政府は、我が国、大和民主主義共和国を認めていませんが独立した国です。私達の基本は全ての国と対等・平等そして内部干渉しないを外交の基本に据えています。沖縄の基地問題については、日本の内部問題であり日本国民が解決するものだと認識しています。かつて私は、日本国民でした。しかし今は、共和国の人間です。立場が変わったので、皆さんの苦しみには同情しますが、コメントは控えさせて下さい。ただ言える事は、日本政府が、沖縄の基地負担軽減を打ち出し、県外移転を表明されていますので、信じる事だと思います。日米ですでに決まった事だとされていますが、政権が変わったこともありますが、一番は皆さんの意思だと思います。居住している皆さんが嫌がる事を続ける事は出来ません。この事は、日本政府もアメリカ政府も同じです。皆さんが発言され、訴えて行けば必ずその事は実現出来ると思います。交流については、私達も小さな島国であります。是非こちらからもお願いしたいと思っています。姉妹都市としての交流は賛成です。お互い進めていくための実務者を派遣し合って協議していきましょう。私達は、先日日本政府に石垣島の空港の使用を要請しました。是非皆さんからもお力添えをお願いします」沖縄県の有志が聞きたいことを軽く受け流した。沖縄の人達は、半分は沖縄問題に対して、アドバイスを期待していた。しかし、日本政府に気兼ねした挨拶は、してくるだろうなと思っていた。それでも、何故軍事力を持たないか等の防衛問題について突っ込んだ質問があった。
「微妙な問題なので皆さんのご期待に応えられる回答はできません。私達は、憲法で戦争放棄を定めています。日本も同様だと思います。私達は話し合いを原則として、国と国の争いを回避する事にしています。外交交渉での解決です。これが私達の戦略です。皆さんが不安視されている侵略された場合を仮定した場合ですが、仮定に対してはあまり話したくありませんが、少しだけお話できるとしたら侵略するには何らかの目的があり理由があります。その目的が正当なものかどうかを問うことで戦い方がかわります。世論を味方にして不法な侵略と戦います。抑止力としての武力ですが、日本政府の考え方と違うかもしれません、私達は武力を持たないことが抑止力です。国民の団結が抑止力です」仲野が語ると
「きれいごとですね。現実的に最初から外国人の基地が存在し、我々を守るため、地域・周辺の国々の安全と安定を図るために必要だと言って米軍の抑止力の必要性を言われています。何故沖縄なのだとの回答はありません。皆さんの所では軍事基地は、必要としてない。我々も必要と思わない。どうしたらいいですか?」今話題となっている名護市の市長がいった。
「我々は無力です。戦後ずっと基地問題、地位協定と取り組んできたのです。その都度政府はなんとかすると言ってきました。しかし何の進展もありません。そんな時に皆さんが武力を持たない国として登場したのです。同じ日本人が造った国です。多分沖縄に住んでいた人もいるのでないでしょうか。皆さんは日本を捨てて、我々を捨てたのですか。捨てることが出来るだけ幸せです。でも我々は、この現実の中で生活していく方法しかありません。そんな我々に何かアドバイスはないですか。きれいごとでは解決しないのですよ」
仲宗根という市議が発言した。シーンとした。涙を流している人もいた。
ジョイナというアフリカ出身の女性が発言した。彼女は、共和国の貿易関係を取り仕切る実務者として参加していた。
「私はジョイナと申します。私の故郷はコンゴです。国では内戦の結果多くの命を失いました。いつも弱者は、子供、年寄りそして女性です。今では世界一と言えるほど女性に対して暴力被害を受けている国です。私は日本人に助けられました。そして教育を受けました。いつの日か、コンゴを女性が一番住みやすい国にしたいと思っています。私は、日本語の教育を受けながら大和民主主義共和国の基となる理想社会に興味をもちました。最初は、皆さんと同じ、きれいごとでこの戦乱の世の中を変えることは出来ないと思っていました。現実のアフリカの戦乱の中に飛び込むと良く分かります。自分を守るためにも、親兄弟、友人、知人を守るためにも戦う必要があるからです。でも未来は戦乱の無い社会の実現です。武器を持たないで生活できる社会です。その社会は話し合いを原則とします。無抵抗主義でありません。武器は、武力は必要とする場合はあります。抑止力としての武力でありません。自分達が意識して、自分達の手で制御出来たならば武器は、必要としないときにいつでも手放せます。私達の国は、私達自身で造り守ります。だから粘り強く訴え、仲間を募り話合いをして行くしかありません。半世紀以上皆さんは、苦労されているのですから必ず願いは報われると思います。私の話は皆さんの回答になっていないところもあります。私達は、逃げ出したのでありません。皆さんを見捨てたのでありません。私達の姿を見て、皆さんが賛同し、皆さんも理想郷を作っていただければと願うばかりです。これからは、交流してお互い勉強していきましょう」流調な日本語で、精一杯の発言だった。独立しろともいえない。米軍基地は不要だともいえないもどかしさが共和国側にはあった。沖縄の人達は、理想郷を理想教と解釈していたのかもしれない。共和国は、宗教的な色彩を持つ側面があるのだなと思った。
世界中に、共和国を立ち上げるために活動していた人達がいる事を始めて知った。基地問題等の話しは、そこで終わった。その後は、沖縄出身者はいるのか、共和国に行くためには条件があるか、貿易はどうするのか等の質問があった。それについては、それぞれの担当者がその都度回答していた。
共和国に移住するための条件はあるかとの質問に対して
「共和国は、100万人ほど自給自足できる
キャパシテイはあります。我が国に参加する条件は、日本語の読み書きと、話せることが条件です。当然なことに憲法を認めることもあります。“働かざるわ、食うべからず”の精神で働きたくない人は、受け入れません。現在は移住の条件は厳しいです」
打ち合わせは、予定より長引いた。マスコミは、打ち合わせ中は静かに聞いていた。
日本政府は、どの様に沖縄の人達を説得するか悩んでいた。気持ちとしては、米軍基地の撤去であるが、北朝鮮の問題、近年中国海軍が尖閣諸島を中心に出没している状況などから米軍の抑止力が必要としていた。何故沖縄なのかについては、米軍基地の大半の機能が沖縄にあり、日本本土への移転は、頭から考えていなかった。共和国と沖縄の有志達の話合いが過激な方向に進まなかったことに安心しつつも、これからの基地問題の対応は目途がついていなかった。その点共和国が羨ましかった。
五
夕方からは、政界、財界人との夕食会である。民主会系の企業人も参加することになっている。民主会の会員については、仲野だけが知っていた。他のメンバは知らなかった。
共和国はプレゼン用のビデオを用意していた。急遽用意された夕食会であるが、一流ホテルの大広間が用意された。参加希望者が予想をはるかに上回ったためである。主催者判断でそれでも参加者を選別したが、300名近い規模の大パーテイとなった。あふれた希望者については次回に設定することで断りをいれて行った。
経済産業大臣の沢登が挨拶した。与党から大沢幹事長が出席していた。政界は若手の政治家が出席していた。女性が多い共和国側に併せて、女性議員が目立った。財界では東京都商工会議所の会長が出席して挨拶した。
共和国は、産業政策局長の伊藤が挨拶した。ビデオで共和国の技術協力が可能な物として紹介説明を始めた。説明者は柳井という美人スタッフであった。インフラ技術や環境技術が主体の宣伝ビデオで、その他については商品一覧で示す短いビデオだった。産業界の人達は物足りない感想を挙げていた。懇親を深めていく中で、事件が起きた。酔っ払った振りして共和国の美人スタッフに絡みつく人間がいた。女性が軽く受け流しよけた時、絡んでいた男性が大げさに転んだ。4、5人の男性が近寄ってきて困らせようとした。どうも最初から因縁をつけるきっかけを狙っていたようである。対策室のスタッフは飛んで行こうとした。その時、舞を舞うとはこの様なものかと思うような華麗な妙技が繰り広げられた。倒れた男性は、いつの間にか起こされていた。因縁をつけるために近寄ってきた男達の目の前をグラス、皿、フォーク、ナイフが飛び交い、いつの間にか果物が切られてお皿の上に並んだ。飲み物が注がれたグラスが男達の前に出され、にっこりと笑顔でどうですかと言われていた。問題を起こそうとした男達は、何がどうなったのか、判らなかった。一瞬での出来事である。転んだ男性、因縁つけようとした男性達は、皆の注目の中ですごすごと引き下がって行った。拍手が起こった。遠くから仲野が見ていた。対策室長の田中は、仲野に近寄って行った。
「仲野さん。御嬢さんたちは、武道を嗜むのですか」
「ハハハ・・。どうもそのようですね。お転婆の娘達のようです」冗談には、冗談で応えていた。そろそろお開きする時になったと思った時に、ニュースが飛び込んできた。
共和国が北朝鮮に明日訪問するとのニュースが、北朝鮮のニュースとして報じられた。ざわついてきた。ざわついた原因が仲野に知らされた。記者達が飛んできた。対策室の室長が助け舟をだすように、仲野に最後の挨拶に促した。記者達は気勢をそがれた。仲野はゆっくりと壇上にあがり挨拶した。
「本日はありがとうございました。日本と大和民主主義共和国が末永く良い関係を続けていける事を期待しています。今、突然のニュースで皆さんも驚き、私どもも驚いています。しかし、私達は北朝鮮に訪問することを要請していましたので、それが明日と決まっただけです。私どもはそれ以上の事は判りません。本日はありがとうございました」と簡単な挨拶をしながら、記者達を牽制した。
六
アメリカ中央情報局のアジア部局担当官のケネデイは内調の影山と会っていた。
「あの国は中々底を見せませんね。影山さん日本も本音では日米軍事同盟の解消を願っていますかね」影山は答えないで笑っていた。「あの国をこのままの野放し状態は、我が国や日本にとっても得策でない。封じ込めを諮る必要があると思いますがどうですか」
「経済的封鎖を考えているのですか」
「支援者を洗い出し、圧力をかける手はどうですか」
「アメリカ国内にも支援者がいるのでしょ。大丈夫ですか」
「マフィアと不法移民の者を使って、支援者に圧力かけさせます。それとあの国に我々の息がかかったメンバを送り込みます」
「そんな事を私に話ししても良いのですか?洗い出しには、時間がかかりますね。直接攻撃する作戦はどうですか」
「影山さんも挑発しますね。日本は協力しますか、同じ民族ですよ。それより民主会の会員名簿を入手できますか」
「入手しますが、本当の会員名簿なのか判らないかもしれませんが、入手したらどうしますか」
「影山さんに処理をお願いするかもしれません。やってくれますか?」首を切る真似をした。
「脅迫するのですか。アメリカ政府は認めているのですか」
「認めるわけがありません。別です。日本政府も手を染めないでしょ!」
「他の国も動いていますね。日本を前線基地にしてほしくないですね。今来日している共和国メンバに、手をだしてほしくないですね」
「軽くジャブを打つように、夕食会に問題を起こす様に仕掛けたのですけどね」
「私も貴方も政府の職員ですからね。危害が日本国民に及ぶ場合は対応しますよ。気を付けてください」
「ところで、彼らはあの国の条件として、日本語を条件としていますね。何故ですかね」話題を突然変えた。
「それが何かきになりますか?」
「いや。日本語はきれいな言葉ですが、特殊ですからね」
「奥歯に挟まった言いかたですね。流暢な日本語を話す貴方から言われると気になりますね」
「ハハハ・・。気にしないで。またそのうち会いましょう」ケネデイは出て行った。お互いこの世界で生きている会話である。手の内をさらすように見せてお互いの情報を探り合っていた。影山は、アメリカはすでに色々な事を実行しているなと感じた。彼らは日本人を使って行動をする。発覚しても元が判らないのである。既に中国、ロシア、イギリス、フランス、韓国、北朝鮮と諜報機関が動いている事を影山は掴んでいた。日本においても防衛省と各陸海空の情報機関も対策を検討していた。
雨はやんでいた。三寒四温で春の到来を迎えていた。桜前線はまだ北上していない。今年は遅れるのであろうか