侵入者の思い(20X×年○月9日)
侵入者の思い(20X×年○月9日)
~物は流れる人と人を繋ぐ物は明日を作る~
一
共和国の調査は、3日目になる。これまで調査したところの様子は、日本のメデイアに流されていた。日本においては、非常に驚きを持って報じられていた。あまりにもきれいで、映し出される映像は、未来の国の姿を見ていると報じていた。共和国を映し出された内容は、世界にも配信され、日本と同様な感想が上がっていた。しかし、共和国が脅威であるとの感想も報じられていた。車、鉄道は、日本にも存在していない電気で動いている。電力は、太陽、風力などで、全て賄われる。医療は、最新設備の医療環境のもとで、高齢者のリハビリの姿が、生き生きとして映し出されている。羨ましい未来の姿がこの島にあった。
日本で放送されたニュースは、共和国にも放送された。共和国の様子が、映し出された放送をみて、あの人を知っていると、各メデイアに問い合わせが殺到した。知っている人が、共和国の住人として生活していた。本当に、日本人が造った国だと認識されたのである。
二
北区の調査チームは、漁港と市場の様子を調べていた。大型船の接岸ができる港である。倉庫もそれなりにあった。市場も国の人口の割合からみるとかなり大きい。港は、大きく3つに分かれていた。漁船を扱う場所、貨物を扱う場所、旅客船を扱う場所に分かれていた。農林・水産省管轄のビルに、監視部門と、それぞれの運営部門を擁した人員が、配置されていた。例えば、漁船を扱う場合は、漁業関係者から人員が選ばれる。貨物は、貨物を取り扱う貿易業務や、船舶を持っている業者から選ばれ、旅客は旅客業務の中から管理・運営部門を選んでいた。監視部門だけは、違うようだ。港には、パナマ船籍とリベリア船籍の貨物船が2隻入港していた。すでに、物流の流れが確保されている。これに航空機での貨物のながれが、確保されるならば、この国を支える経済力は、測りしえない力を有するのでないかと思われる。まだ航空機で物の動きは出来ていないようだ。独立の承認が進み、各国と貿易協定が、結ばれるようになると、飛行機を使用した物の流が出来るのだろう。すでに、その道は、確保されているとみなしたほうがいいと思われる。
調査チームは、この国の物の流が、すでに確保されていると結論を下していた。この物流の流れを、食い止める事が出来るならば、この国を封じこめることが出来るのでないかと思った。
共和国内には、品物が豊富であった。今後、この国の経済力からみて、弱小国と言えなくなることが予想された。この国の今までの貿易は、密輸に抵触するのだろうか? 多分法律では、裁くことが出来ないだろう。まだ、この島は、国として認められていない。そこに品物が、運ばれただけなのだ。
貿易として成り立っていない。しかし、これだけの大掛かりな仕事を考え、準備した、この国の指導者たちの力量がある。
調査チームは、感動を通り越して、脅威を感じていた。夜の合同ミーテイングでは、毎回驚きと脅威が、話題となった。今日まで誰にも知られずに、これだけのことができる国である。
保守党の星野議員が
「山下さん。この国を日本の直属にしたいね。出来ないものかね」
「難しいでしょうね。この国の自立は、沖縄問題だけでなく、日米同盟に影響を及ぼすことになりますね。一般的に農業と漁業の小さな国として存在しているだけなら、簡単に日本へ帰属させることは可能でしょうけどね」とこのチームのリーダである、総務省出身の山下が言った。
「昨日、小川議員が言っていた“この国は、社会主義国家に近い、社会主義、共産主義の理念を持っている組織が、存在するはずだ”と言っていたことが、気になるね。東郷という主席は、神様なのかな」星野議員が、昨夜市民党の小川議員と話したことを喋っていた。
「ここの行政組織もすごいと、中央区チームがいっていたね」佐藤幹事が言うと
「この島を造るために、これだけ埋め立てたのだから、環境汚染や自然破壊が、おきているのでないか」星野議員の声に、カメラマンの平良が
「いまのところ、そのような場所はないようですよ」そんな会話がされていた。案内役の高橋がきて
「どうですか。そろそろ昼食でもしますか。お口に合うかわからないけど、市場の近くの食堂はおいしいですよ」話は中断した。高橋が、案内した食堂にぞろぞろと歩いて行った。
三
不法入国したメンバは、2人/1チームで動いていた。昼間は、顔つきが同じだから、動きやすいと思ったが、住民の日常生活に溶け込めないで、目立ってしまうことが判りやめた。ここの住民は、毎日やることが決まっているのか、散歩していても何かする。また、よく働く。それぞれが、何をするのか明確になっている。会話していても住民でないことが、自然と判ってしまう。調査団とまちがえられることで救われたが、活動に支障をきたしていた。建物内に入るのは、難しかった。身分証明書が、必要とされた。建物の調査は、夜にすることにした。行政区の建物は、夜でも明かりがついており、人が働いていた。工場と思われる場所は、夜は、警備する人たちだけとなっていた。
不法入国したメンバは、自分達以外にも侵入者がいることを感じていた。
同じ戸惑いを持って行動をする者が、見受けられたからである。入国することは、特に問題はなかった。海から簡単に侵入でき、無防備に近いように見えた。しかし、島内で動きまわるのには、問題がありすぎた。言葉や服装、顔つきだけでは、解決できない。この国の生活習慣を把握できていないため“よそ者”とすぐ見分けられた。観光客の渡航や経済交流が、進んでいけば、これらの問題は、解決されるだろう。今後、この国が、どの程度の脅威となるか、調査するために侵入したが、今のところ侵入は楽だが、調査は、表から調査したほうが楽だとの報告になりそうである。これでは、話にならないだろうと思いつつ、夜の調査の準備をした。
日本の調査団からの調査結果は、受けとれるように話はついていた。警備状況は、彼らからの報告では、期待できないと思っていた。裏調査しない限り、本当の警備状況は、わからないと思っていた。
この国は、軍隊を持っていないから、どの程度の防衛能力か調査しているが、今のところ不明だった。
外側の行政エリアは入り込めた。海から入り込めるエリアだからなのか、簡単である。中央区の行政エリアには、よそ者と判ってしまうため行けないでいた。
四
日本の調査団とは別に、日本の特殊チームが派遣されていた。調査団は、そのことを知らない。昼間の活動は、やはり他の侵入者と同様に、制約されていた。すぐ“よそ者”と判ってしまうからである。
夜の調査は、不便でなかった。必要なところには、明かりがあり、人通りは少なく、重要と思われる建物以外の警備は、ほとんど無かった。
この国は、治安が本当に維持できるのだろうか。色々な近代的設備のわりに、無警戒である。犯罪や反乱が起きたら、あっという間に破壊されてしまうもろさを感じていた。軍隊、軍事力を持たないで、国民を守ることができるのかと、伊賀大蔵は思った。現に、我々以外の侵入した調査チームが、この国に入り込んでいた。特殊チームは、何の妨害もなく簡単に入りこめた。周りが海に囲まれていることは、国防上での優位性もあるが、簡単に入り込める防衛上の難点を持っていると感じた。
日本に不法入国者が、後を絶たないことを見ても、広い海岸線の警備は、容易でないことが伺える。
これだけの近代設備力をもっている国である、周辺国は、何らか形で関与してくるだろう。
中国は、台湾をかかえ、1国2制度として台湾の独立を認めないでいる。日本も沖縄の基地問題を抱えている。ロシアも北方領土で、日本と長年の懸案事項を持っている。
日本政府は、1国2制度を現実的な対応とするのでなかろうか。アメリカは、周辺にマーシャル諸島、ハワイなど、隣接している島を管轄している。この地域で、アメリカの意に沿わない国を認めることは、ないと思われる。日本に、米軍基地を配置している国である。
日本国憲法に類似した国を認めるのは、抵抗があるだろう。日本国民の軍事同盟に対する意識の変化を恐れるであろう。韓国においては、北朝鮮と一触即発の状態が、長年発生しており、周辺での緊張は喜ばない。日米同盟が、そこなわれると、韓国の在韓米軍にも変化がでてくることが予想される。
とりわけ北朝鮮が、この国を承認する声明をだしたことで、対応に苦慮していた。
伊賀大蔵は、軍備をもたない国の存在自体、許せない気持ちでいた。国民を守る事を放棄していると思っていた。理想を掲げて何になる。理想では現実的な武力圧力には対応できないと思っていた。一緒に回っている部下に言った。
「全員集合かけろ。撤退する。迎えをよこすように連絡をしろ。それと絶対問題を起こすなと伝えろ」
「わかりました。A地点24時で、大丈夫ですか」これ以上裏調査しても、意味がないと伊賀は判断した。問題を起こす前に撤退することにした。日本政府は、ここまで来たら承認に向かってすすむだろうと思った。どのような形で国交を結ぶか、日本の今後が、大きく変わる予感がした。
五
不法入国したチームは、もう一ついた。同じように2名1組で調査していた。その2名1組が北区の大きなお寺を参杯していた。面白いことに、正面右側が男性の僧侶、左側に女性の僧侶が寝泊りしていた。裏には、庭と、武道場を抱えていた。警官の修練場をかねている。お寺は、各行政区にあった。神社は、中央区にあった。仏教国かと思えば、教会やイスラム寺院らしき建物も各行政区にあった。
武道場を覗いてみると、柔道・剣道・中国拳法らしきものを修練していた。修練している人達の動きは、すばやかった。参拝している振りで、様子みていた不法入国者2名は、その場を立ち去っていった。
「中国憲法は、そこそこな腕前だな。僧侶なのだろ。少林寺をまねているのかな」
去って行ったのは、中国チームのようだ。中国の特殊チームは、いつか闘いたいものだなと思っていた。但し、重火器などでなく素手で闘えるならば、お手合わせしたいと思った。彼らも、この国に同朋が活躍している事に躊躇していた。総理大臣になっている張は、中国人である。中国に危害をかけるのでなく、平和的な手段で独立しているだけである。戦いたくない相手だった。
六
伊賀大蔵が、部隊の引き上げを指示した。
「全員そろったか、あまりにも無警戒なところは不気味だ。罠かもしれない。これ以上いても調査団以上の成果は得られない。撤退する」
南の島から見る空に、流れ星が流れた。静かな夜である。このまま平和な町、島、国でいてほしいと思った。敵としてここの国の人達と戦いたくないと思った。