ハジメテ(Ⅲ)
翌日。
「美月ちゃん遊ぼ?」
のんちゃん達が美月に声を掛けてきた。
「遊ボ?…ッテ何?」
「ぇ?」
「遊ぼってわからないのかなぁ?」
「日本語だからかなぁ?」
「英語で何て言うの?」
「わかんないよ」
「?」
美月は不思議そうな顔をする。
「のんちゃん達これからお外でブランコするんだ♪
「ブランコ?」
「うん♪だから一緒においでよ?」
ブランコの前。
「美月ちゃんこれがブランコだよ」
のんちゃんがブランコを指し美月に教える。
「ブランコ…」
「のんちゃんが後ろから押してあげるから美月ちゃん乗ってごらんよ?」
美月は訳が分からないまま女の子の言われるままブランコに乗る。
それが美月にとって初めてのブランコだった。
「美月ちゃん楽しい?」
「…楽シイ?」
美月にとって何でもない言葉ひとつひとつが新鮮だった。
美月の頭の中で文字が浮かび上がる。
【楽シイ……‘ワクワク’スルコト…】
「美月ちゃん?」
「うん…」
その言葉でのんちゃんは笑顔になる。
「ならよかった♪」
「…?」
でも美月はその笑顔の理由が分からなかった。
「ねぇ美月ちゃん?次は飼育小屋見に行かない?」
「飼育小屋?」
「動物さんがいっぱいいて、可愛いいんだよ♪」
再びのんちゃんに言われるまま飼育小屋まで連れて行かれる。
「うーちゃん♪」
美月は目を大きくさせて言う。
「美月ちゃんウサギさん好きなの?」
【好キ…‘ドキドキ’スルコト…】
「うん…」
「のんちゃんも♪」
美月は目で何かを追う。
そして指を指して言う。
「egg…」
「エッグってなに?」
「egg」
「?」
再び指を指し言う。
のんちゃんは不思議そうにその先を見る。
「ぁ!」
のんちゃんは驚いた顔をして先生を呼ぶ。
「先生~」
「のんちゃんどうしたの?」
その声で先生達や他の子供達が駆け寄ってくる。
「にわとりさん…」
先生はのんちゃんが言う方を見る。
「あら?あの卵…」
「動いてるわ!」
そう。まさに今、雛が産まれようとしていた。
卵が揺れ徐々に罅割れていく。
「ピーピー♪」
美月が指を指して言う。
罅割れた部分から雛が顔を出し始めた。
生き物が産まれてくる様を初めて目の渡りにする子供達。
それは感動的なものだったに気がいないだろう。
それは美月だって例外じゃない。
学校が終わり、迎えに来た時先生から聞いた事だった。
美月をここに連れて来てよかった。
そう改めて思った。
美月に、新しいものを沢山見せてあげられたから。
それから徐々に…少しずつだけど、
美月は楽しそうに生活している。
このまま何事もなく終われば…
そんな甘い事を、その時僕は想った。