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サムライヘブン

掲載日:2026/05/24

 僕は西田時彦。中学二年。異世界に来た。厳密には違う世界線、黒船が来てから幕府が倒れず今までやれてこれた、西暦2026年だ。


「分かったから!負けで!参った!参りました!」


 与えられたチートスキルは、その時代に存在する農学をすべて理解する力。だけど今、僕は午前試合に引き出されて、順当に殺されかけている。


「臆病者が!興産など認められるか!」

「はあ!?じゃあもう、地面に這いつくばって命乞いしてる少年を殺すのが武士の魂なんですか!?死にたくないです!」


 第一試合の展開に、観客席がざわつく。国技館より更に和風なでかいアリーナは、日本がどうであれ世界の時間は回って行って、しっかり技術は輸入していた証拠だ。


「降参を認める!勝者、真田藤兵衛嘉矩!」


 しっかり負けた。しっかり武士だった。誰とも目が合わないように立ち上がると、礼をして後ろを向く。


「ふん、幕府が失われた日本の者と聞いたが、軟弱よのお!」


 いや無理ですって。あんた強いじゃん。長い努力をガキに否定されるような人生じゃないじゃん。背中を丸めて、選手入場口まで戻ると、僕が世話になっている武家の人々が待っていた。


「不甲斐なく降参しました。僕は死ねませんでした」


 勝たなければ家の断絶とまで言われて頼まれて、一応出るだけは出たけれども、これでは何の助けにもなっていない。異世界でまで、現実かよ。しかし、当主の元田成川の言葉に驚いた。


「構わん。そもそも、貴殿を騙していたのは我らの方だ」

「なんです?」

「升席を取っている。そこで、試合を見ながら話そう」

「僕に何の話があるんですか?」

「本当の事を話そう」


 升席に行く途中、ガラの悪い町人に「役者だなあ!よっ、元田屋!」とヤジられた。元田家の面々は、商人のように言われても、何も表情を変えない。


「貴殿に落ち度はない。むしろ、期待した通りだ」


 僕は返事をしなかった。第二試合は佳境に入っていた。


「負けは揺るがないのに、まだ意地を張る気か。先程の少年のように、命乞いをしたらどうだ?」

「ほざけえ!」


 決死の一撃がかわされ、後ろから首を刎ねられた武士の頭が地面を転がる。歓声が上がる。一方、遠目にもいくらかは悲しい顔をしている。


「私達の輸出産業は、今でも"サムライ”だ。軍略に長け、武に誇りを持つ。君の世界でも同じ、スイスのように」

「はい」

「君のいた日本は、平和だろう。我々の日本も平和だ。だが、今でもスポーツの様に命を懸ける事が最高の美徳の一つだ」

「はい」

「私はそれを変えたい」


 返事は出来なかった。


 第三試合。今回は、会場に搬入可能な重量であれば、巨大ロボットの使用が許されている。柳生左衛門博嗣に対し、巨大ロボットを持ち出してきたのは、天文方の木安隆宗。どちらも、元田家の求めに応じた僕の様に、スポンサーの求めに応じて出場した選手だ。


「ふん。我が剣の前には、ガラクタよの」


 この大会において、飛翔体や爆発を用いる武器の使用は認められていない。卑怯だからとかではなく、そういう競技が別にあるからだ。50tの戦車を戦闘不能にした猛者が当然のようにいるらしい。自分も飛翔体や爆発物を使えれば、問題ないという論理だ。


「くそ、私はこれでも、武士だ!」


 隆宗は刀を抜いた。素人目にも、あまり手練れには見えない。勢いよく振りぬいた刀の重さに負けて、体全体がふらついている。博嗣が、隆宗に向かって刀を片手に持ちながら突然に疾走した。


「な!な!」

「はあ!」


 真正面から斬りかかると見せかけて隆宗を避けてすれ違うと、正面から来ると身構えて反応できない隆宗の背中を、刀で打ち付ける。


「安心せえ。峰打ちじゃ」


 会場にどよめきが響く。確かに、すごい技だと思った。


「これで、ようございましたな。旦那様」

「ああ」


 奥様と成川の短い会話に、何の事かと見ていると、奥様が仰った。


「貴方が無様に命乞いしなければ、隆宗さまは、殺されていました」


 僕は息をのむ。奥様が話を続ける。


「武士の誇りなど馬鹿馬鹿しい、このご時世に。そう思う人々は増えていました。時彦さま、有難うございます」

「これも神仏のお取り計らいよ。わははははは」


 気づくと、僕は部屋のベッドの上で天井を見ていた。すごい夢を見たと思って体を起こすと、床に、達と脇差が無造作に置かれていた。僕が使った奴だ。確か、藩の上様から賜った家宝と言っていた奴。


 いや、いらないっす。

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