隔離
翌朝。
掲示板から、俺の名前は消えていた。
暫定総合一位。
その表示だけが、削除されている。
評価欄はそのまま。
E。
未分類。
未制御。
再現性不明。
教室に入ると、空気が違った。
昨日よりも、静かだ。
距離がある。
露骨な敵意はない。
代わりに、避けられている。
触れれば跳ね返るものとして扱われている。
席に座る。
机は無傷だった。
七瀬が隣に来る。
「消えたね」
「ああ」
「一位」
「らしいな」
事実だけを交わす。
担任が入ってくる。
「本日より、一部生徒は特別管理下に置かれる」
教室がざわつく。
「対象者は後ほど呼び出す」
呼ばれる前から、わかっている。
一時間目が終わる。
放送が鳴る。
「一年、――」
俺の名前。
「観測棟、隔離区画へ」
ざわめきが走る。
「隔離?」
「危険指定かよ」
立ち上がる。
七瀬が袖を掴む。
「大丈夫?」
「わからない」
本音だ。
観測棟。
地下に続く階段。
空気が冷たい。
扉の前に白衣がいる。
隈の濃い眼鏡。
「入って」
感情はない。
中は白い部屋。
椅子が一つ。
壁は厚い。
「形式上の隔離」
彼女が言う。
「危険度再判定のため」
「危険か」
「不明」
端末を操作する。
「君は意図的に発動できない」
「ああ」
「しかし致死予測時にのみ確実に反転する」
画面に昨日の映像が流れる。
火炎の逆流。
斬撃の反転。
血。
「制御不能は、学校にとって最も扱いづらい」
「追放か」
「まだ」
わずかに間がある。
「データが足りない」
俺を見る。
視線は冷たい。
だが、奥で何かが動く。
「質問」
彼女が言う。
「君は本当に“死ぬ”と確信している?」
「判断しているだけだ」
「恐怖は?」
「ない」
沈黙。
「感情が閾値ではない」
独り言のように呟く。
「純粋な確率予測」
俺は黙る。
「試す」
彼女が告げる。
天井から機械音。
壁が開く。
無人機が現れる。
銃口。
「非致死設定」
言いながら、発砲。
弾丸が迫る。
軌道計算。
当たる。
致命傷ではない。
だから。
何も起きない。
弾が肩を貫く。
衝撃。
血が滲む。
痛み。
だが、生きている。
観測員は瞬きもしない。
「発動せず」
淡々と記録する。
次。
出力が上がる。
「これは?」
「致死率七割」
発砲。
弾丸が眉間を狙う。
死ぬ。
そう判断する。
空間が歪む。
弾が反転する。
無人機の中枢を貫く。
火花。
爆発。
煙。
静寂。
「確認」
彼女の声が、わずかに低くなる。
「やはり」
俺の肩から血が落ちる。
止血もされない。
「痛覚は?」
「ある」
「恐怖は?」
「ない」
彼女は近づく。
包帯を巻く。
手つきは慣れている。
「隔離は継続」
そう言いながら、小さく息を吐く。
「だが、報告は私が上げる」
「内容は」
「危険だが、有用」
包帯を結ぶ。
手が一瞬止まる。
「君は攻撃者だけを殺す可能性が高い」
「味方は」
「現時点では対象外」
確証はないはずだ。
だが、言い切る。
「私が保証する」
その言葉は、規定外だ。
誰もいない。
二人きり。
彼女の声は、ほんの少しだけ柔らかい。
「君は、壊れていない」
昨日と同じ言葉。
「だから、壊させない」
視線が合う。
すぐに逸らす。
「戻っていい」
扉が開く。
廊下に出る。
血の匂いが残る。
階段の上に七瀬がいる。
「待ってた」
「隔離だろ」
「うん」
俺の肩を見る。
「撃たれた?」
「ああ」
「死ななかった」
「まだ」
彼女は頷く。
「よかった」
その言葉は、軽くない。
教室に戻る。
視線がまた集まる。
だが、昨日とは違う。
恐れが、はっきりしている。
俺は席に座る。
包帯が白い。
Eランク。
未分類。
隔離対象。
それでも。
俺はまだ、ここにいる。
事故は三度目を待っている。
静かに。




