表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
心傷のマカブレア  作者: もにもに
事故は、二度起きる
9/18

隔離

 翌朝。


 掲示板から、俺の名前は消えていた。


 暫定総合一位。


 その表示だけが、削除されている。


 評価欄はそのまま。


 E。


 未分類。


 未制御。


 再現性不明。


 教室に入ると、空気が違った。


 昨日よりも、静かだ。


 距離がある。


 露骨な敵意はない。


 代わりに、避けられている。


 触れれば跳ね返るものとして扱われている。


 席に座る。


 机は無傷だった。


 七瀬が隣に来る。


「消えたね」


「ああ」


「一位」


「らしいな」


 事実だけを交わす。


 担任が入ってくる。


「本日より、一部生徒は特別管理下に置かれる」


 教室がざわつく。


「対象者は後ほど呼び出す」


 呼ばれる前から、わかっている。


 一時間目が終わる。


 放送が鳴る。


「一年、――」


 俺の名前。


「観測棟、隔離区画へ」


 ざわめきが走る。


「隔離?」


「危険指定かよ」


 立ち上がる。


 七瀬が袖を掴む。


「大丈夫?」


「わからない」


 本音だ。


 観測棟。


 地下に続く階段。


 空気が冷たい。


 扉の前に白衣がいる。


 隈の濃い眼鏡。


「入って」


 感情はない。


 中は白い部屋。


 椅子が一つ。


 壁は厚い。


「形式上の隔離」


 彼女が言う。


「危険度再判定のため」


「危険か」


「不明」


 端末を操作する。


「君は意図的に発動できない」


「ああ」


「しかし致死予測時にのみ確実に反転する」


 画面に昨日の映像が流れる。


 火炎の逆流。


 斬撃の反転。


 血。


「制御不能は、学校にとって最も扱いづらい」


「追放か」


「まだ」


 わずかに間がある。


「データが足りない」


 俺を見る。


 視線は冷たい。


 だが、奥で何かが動く。


「質問」


 彼女が言う。


「君は本当に“死ぬ”と確信している?」


「判断しているだけだ」


「恐怖は?」


「ない」


 沈黙。


「感情が閾値ではない」


 独り言のように呟く。


「純粋な確率予測」


 俺は黙る。


「試す」


 彼女が告げる。


 天井から機械音。


 壁が開く。


 無人機が現れる。


 銃口。


「非致死設定」


 言いながら、発砲。


 弾丸が迫る。


 軌道計算。


 当たる。


 致命傷ではない。


 だから。


 何も起きない。


 弾が肩を貫く。


 衝撃。


 血が滲む。


 痛み。


 だが、生きている。


 観測員は瞬きもしない。


「発動せず」


 淡々と記録する。


 次。


 出力が上がる。


「これは?」


「致死率七割」


 発砲。


 弾丸が眉間を狙う。


 死ぬ。


 そう判断する。


 空間が歪む。


 弾が反転する。


 無人機の中枢を貫く。


 火花。


 爆発。


 煙。


 静寂。


「確認」


 彼女の声が、わずかに低くなる。


「やはり」


 俺の肩から血が落ちる。


 止血もされない。


「痛覚は?」


「ある」


「恐怖は?」


「ない」


 彼女は近づく。


 包帯を巻く。


 手つきは慣れている。


「隔離は継続」


 そう言いながら、小さく息を吐く。


「だが、報告は私が上げる」


「内容は」


「危険だが、有用」


 包帯を結ぶ。


 手が一瞬止まる。


「君は攻撃者だけを殺す可能性が高い」


「味方は」


「現時点では対象外」


 確証はないはずだ。


 だが、言い切る。


「私が保証する」


 その言葉は、規定外だ。


 誰もいない。


 二人きり。


 彼女の声は、ほんの少しだけ柔らかい。


「君は、壊れていない」


 昨日と同じ言葉。


「だから、壊させない」


 視線が合う。


 すぐに逸らす。


「戻っていい」


 扉が開く。


 廊下に出る。


 血の匂いが残る。


 階段の上に七瀬がいる。


「待ってた」


「隔離だろ」


「うん」


 俺の肩を見る。


「撃たれた?」


「ああ」


「死ななかった」


「まだ」


 彼女は頷く。


「よかった」


 その言葉は、軽くない。


 教室に戻る。


 視線がまた集まる。


 だが、昨日とは違う。


 恐れが、はっきりしている。


 俺は席に座る。


 包帯が白い。


 Eランク。


 未分類。


 隔離対象。


 それでも。


 俺はまだ、ここにいる。


 事故は三度目を待っている。


 静かに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ