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心傷のマカブレア  作者: もにもに
事故は、二度起きる
8/18

余波

 暫定総合一位。


 その文字は、掲示板に残ったままだった。


 評価欄は変わらない。


 E。


 未分類。


 未制御。


 再現性不明。


 整合しない情報が並んでいる。


 教室の空気は、重い。


 誰も俺に話しかけない。


 だが、見ている。


 露骨に。


 あるいは、隠しながら。


 俺は席に座る。


 机の木目を眺める。


 指先でなぞると、わずかに震えた。


 俺のせいかどうかは、わからない。


「なあ」


 斜め後ろの席の男が声をかけてくる。


 短髪。目つきが鋭い。


「お前、何をした」


「何も」


「ふざけるな」


 低い声。


 怒りというより、不安に近い。


「重圧が反転した。あれは能力だ」


「そうらしい」


「自覚は?」


「ない」


 男は舌打ちする。


「気味が悪い」


 正直だ。


 否定はしない。


 その通りだと思う。


 前方で椅子が引かれる。


 七瀬が立ち上がる。


 白いワンピース。


 無表情。


「やめて」


 それだけ言う。


 声は小さいが、教室は静まる。


「今は味方」


 誰も返事をしない。


 味方。


 その言葉は、軽い。


 だが、俺の隣に来て座る。


 距離が、近い。


「あなた、平気?」


「問題ない」


「そう」


 彼女はそれ以上聞かない。


 沈黙が落ちる。


 扉が開く。


 白衣。


 隈の濃い眼鏡。


 観測員。


「全員、演習場へ」


 感情のない声。


「順位変動後の再測定を行います」


 ざわめき。


「またやるのかよ」


「今度は俺が当たるかもな」


 立ち上がる。


 廊下を歩く。


 視線が背中に刺さる。


 期待ではない。


 疑念。


 恐れ。


 計算。


 演習場は広い。


 血の跡は、まだ薄く残っている。


「今回は一対一」


 観測員が告げる。


「能力の発現条件を確認します」


 俺の名前が呼ばれる。


 相手は一年。


 能力は火炎。


 手のひらに赤い光が灯る。


「悪いな」


 そう言いながら、火球を放つ。


 速い。


 避けられない。


 熱が迫る。


 死ぬ。


 そう判断する。


 視界が揺れる。


 次の瞬間。


 火球が、弾ける。


 爆ぜた炎が逆巻き、放った本人を包む。


 悲鳴。


 焼ける匂い。


 皮膚が焦げる音。


 地面に転がる。


 消火。


 医療班が走る。


 生きている。


 だが、腕の皮はめくれている。


 俺は、立ったままだ。


 無傷。


 観測員が端末を見る。


「反転確認」


 淡々と呟く。


「外的攻撃に対する自動応答。死亡予測時のみ発動」


 俺を見る。


 ほんの一瞬だけ。


「制御不可」


 それだけ言う。


 周囲がざわめく。


「やっぱり危険だろ」


「味方にいたら最悪じゃねえか」


 七瀬が一歩前に出る。


「巻き込まれてない」


 事実だ。


 攻撃は、攻撃した本人に返る。


 選んでいるのかどうかは、わからない。


 俺は何もしていない。


「次」


 観測員が言う。


 再び名が呼ばれる。


 今度は二年。


 能力は切断。


 空気を裂く斬撃。


「運で一位か?」


 笑う。


 刃が振られる。


 速い。


 見えない。


 死ぬ。


 そう判断する。


 空間が歪む。


 斬撃が、反転する。


 男の肩が裂ける。


 血が噴き出す。


 腕が落ちる。


 絶叫。


 地面が赤く染まる。


 医療班。


 止血。


 腕は回収される。


 繋がるかは知らない。


 俺は、まだ立っている。


 息も乱れていない。


 歓声はない。


 沈黙だけが広がる。


 観測員が言う。


「本日の測定は終了」


 端末を閉じる。


「評価は据え置き。暫定順位のみ維持」


 Eランク。


 一位。


 矛盾したまま。




 演習場を出る。


 七瀬が隣に並ぶ。


「怖い?」


 彼女が聞く。


「何が」


「自分」


 少し考える。


「わからない」


 本音だ。


 俺は自分の能力を知らない。


 ただ、死なない。


 それだけだ。


「私は」


 彼女が言う。


「あなたが死なないなら、それでいい」


 理由は聞かない。


 彼女も言わない。




 校舎の上。


 白衣の観測員が立っている。


 こちらを見下ろしている。


 無表情。


 だが、視線は逸らさない。


 誰もいないことを確認してから。


 小さく、息を吐く。


「やはり」


 呟きは風に消える。




 俺は歩く。


 暫定一位。


 Eランク。


 未分類。


 事故は、まだ続いている。

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