合同戦
学年合同戦。
二年だけではない。
一年。
三年。
全学年。
演習場は拡張されていた。
障害物。
高低差。
可動壁。
実戦を想定した空間。
「形式は混戦」
放送が告げる。
「制限時間三十分。最後に立っていた者を勝者とする」
単純。
俺の腕章は黒。
暫定一位。
目立つ。
視線が刺さる。
三年の金ランクが笑う。
「二年の特異点、だっけ?」
噂は上まで届いている。
開始の合図。
爆音。
一斉に能力が解放される。
土が盛り上がる。
雷が走る。
風が裂ける。
俺は動かない。
まずは様子を見る。
横から突風。
避ける。
背後から雷。
死ぬ。
そう判断する。
世界が、ずれる。
雷が地面を撃つ。
発動が早い。
意識より先に反応している。
「囲め!」
声。
複数の気配。
前方から氷。
右から炎。
上から落下攻撃。
逃げ場はない。
死ぬ。
静寂。
空気が沈む。
世界が歪む。
三方向の攻撃が、噛み合わない。
炎が氷を溶かし、
落下した生徒が炎に巻き込まれる。
爆発。
粉塵。
俺は立っている。
ざわめき。
「範囲が広がってる」
誰かが言う。
俺も気づいている。
五メートル。
拡張している。
視界の端。
白衣。
観客席の一角。
眼鏡の奥の目が、細くなる。
記録。
冷静なはずだ。
そのはず。
三年の金ランクが前に出る。
「俺が相手だ」
重力操作。
身体が沈む。
膝が地面にめり込む。
骨が軋む。
立てない。
重い。
内臓が潰れる。
死ぬ。
呼吸が止まる。
世界が、揺れる。
重力の向きが、わずかにずれる。
圧力が逃げる。
金ランクの足元が逆に沈む。
体勢が崩れる。
「な……」
俺は立ち上がる。
一歩。
距離が縮まる。
空間が軋む。
金ランクの身体が横に滑る。
地面に叩きつけられる。
動かない。
沈黙。
周囲の戦闘が止まる。
誰も近づかない。
理解できない。
だから距離を取る。
残り時間。
十分。
誰も仕掛けてこない。
俺も動かない。
時間だけが過ぎる。
終了の合図。
「勝者」
放送が一瞬詰まる。
「二年、暫定一位――神代」
静寂。
歓声はない。
ただ、恐怖。
演習場を出る。
廊下。
足音。
「範囲拡張、最大七・二メートル」
白衣。
いつもの声。
「無意識下で制御が進行」
「勝手に広がってるだけだ」
「違う」
即答。
周囲を確認する。
誰もいない。
彼女は一歩近づく。
「あなたは、環境に適応している」
声がわずかに低い。
「刺激が強いほど、精度が上がる」
「戦えば強くなるってことか」
「単純化しすぎ」
だが否定は弱い。
沈黙。
彼女は眼鏡を外す。
隈が濃い。
「三年の重力操作を歪ませた瞬間」
小さく息を吸う。
「一瞬だけ、あなたの周囲の座標が固定された」
「固定?」
「世界があなたを基準に動いた」
理解できない。
「それは」
彼女の声が、ほんの少し震える。
「理論上、あり得ない」
「だから」
小さく。
「面白い」
すぐに眼鏡を戻す。
「観測継続」
事務的。
だが。
隠しきれていない。
階段を上がる。
背後で、生徒たちの声。
「化け物」
その言葉は、小さく。
はっきり聞こえた。
化け物。
否定はしない
俺はまだ、自分が何か分かっていない
ただ。
世界は
確実に、俺を中心にずれ始めている。




