順位戦
順位戦は、放課後に行われる。
演習場は昨日より人が多い。
噂は広がっている。
Eランク。
事故枠。
暫定一位。
どれも、俺のことだ。
黒の腕章が腕にある。
重い。
「形式は連続戦闘」
担任が告げる。
「上位十名による総当たり。制限時間はなし」
逃げ場はない。
観客席。
白衣。
眼鏡。
隈。
彼女は端末を構えている。
目は、俺だけを見ていない。
全体を見ている。
そのはずだ。
「第一戦」
名前が呼ばれる。
青ランク、五位。
水を操る能力らしい。
開始。
地面から水柱。
視界が遮られる。
足元が滑る。
転倒。
水が首に絡む。
圧迫。
息が詰まる。
死ぬ。
そう判断する。
恐怖はない。
世界が。
ずれる。
水がほどける。
青ランクの身体が、横に滑る。
水柱が制御を失う。
地面に叩きつけられる。
勝敗。
ざわめき。
「またか」
「何なんだ」
第二戦。
赤ランク、二位。
昨日とは違う男。
炎。
熱が迫る。
皮膚が焼ける匂い。
視界が赤く染まる。
逃げ場はない。
死ぬ。
世界が。
静まる。
炎が歪む。
中心がずれる。
赤ランクの足元が崩れる。
炎が自分を包む。
悲鳴。
止まる。
救護班が入る。
俺は立っている。
無傷。
第三戦。
第四戦。
回数が増えるほど、感覚がはっきりしていく。
発動の瞬間。
空気が沈む。
音が遠のく。
自分の周囲だけ、現実の位置がずれる。
最後。
金ランク、一位だった男。
瞬間移動。
視界から消える。
背後。
刃。
首筋に冷たい感触。
死ぬ。
そう判断する前に。
世界が、先にずれる。
刃が空を切る。
金ランクの身体が一瞬、空間に引っかかる。
位置が噛み合わない。
着地に失敗。
膝が砕ける音。
沈黙。
「……勝者」
担任の声が、わずかに遅れる。
「暫定一位、継続」
拍手はない。
恐怖と理解不能が、観客席を覆う。
俺は息を吐く。
疲労は少ない。
それが異様だ。
観客席。
白衣。
彼女は立ち上がらない。
端末を見つめる。
指が止まっている。
誰もいない瞬間。
小さく、呟く。
「適応している」
声は震えていない。
だが。
目の奥が、熱を帯びている。
演習場を出る。
背後で視線を感じる。
尊敬ではない。
敵意でもない。
距離。
理解できないものに対する距離。
階段の踊り場。
白衣が待っている。
「連続発動、六回」
事務的な声。
「負荷は」
「ない」
「そう」
眼鏡を押し上げる。
沈黙。
「あなた」
周囲を確認する。
誰もいない。
「昨日より、精度が上がっている」
「偶然だ」
「違う」
即答。
少しだけ近づく。
「これは進化」
小さい声。
「あなたは、事故じゃない」
胸の奥がわずかに揺れる。
事故ではない。
なら、何だ。
「私は観測する」
いつもの声に戻る。
「次は学年合同戦」
階段を上がる。
白衣が続く。
その足取りは、昨日より速い。
期待している。
隠している。
それでも。
分かる。
俺は一位だ。
だが。
頂点ではない。
まだ、何かが足りない。
世界は。
もっと、ずれる。




