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心傷のマカブレア  作者: もにもに
事故は、二度起きる
5/18

波紋

 一位。


 その二文字が、学園中に広がるのに時間はかからなかった。


 朝。


 廊下を歩く。


 視線。


 昨日までの嘲笑はない。


 代わりにあるのは、警戒。


「本当にEだったのか?」


「測定ミスだろ」


「いや、あれは……」


 小声。


 俺は何も言わない。


 灰色の腕章は回収された。


 代わりに渡されたのは、黒。


 暫定一位の色。


 重い。


 教室に入る。


 空気が違う。


 昨日、肩をぶつけてきた男は目を逸らす。


 前の席の金ランクは、無言。


 席に座る。


 担任が入ってくる。


「昨日の結果は正式に承認された」


 ざわめき。


「編入生は本日より暫定一位。異議は受け付けない」


 静まる。


「ただし」

「能力詳細は依然不明。観測継続対象とする」


 視線が窓際へ向く。


 白衣。


 眼鏡。


 隈。


 端末を持つ女。


 彼女は何も言わない。




 昼休み。


 屋上。


 扉の音。


「逃げ場所にしては分かりやすい」


 振り向く。


 白衣。


「別に逃げてない」


「そう」


 風が吹く。


 彼女は端末を操作する。


「昨日の歪曲。範囲は約三メートル」


 事務的。


「意図的か」


「違う」



「発動条件は」


「分からない」


 沈黙。


 彼女は眼鏡を押し上げる。


「恐怖を感じていない」


 指摘。


「普通は、死を前にすれば心拍が上がる」


「上がってるかもしれない」


「データ上は安定している」


 見られている。




「俺は何なんだ」


 初めて、口に出す。


 彼女は少しだけ間を置く。



「特異点」


 短い。


「この学園の中で、唯一理論に当てはまらない」


 視線が合う。


 普段は冷たい目。


 今は、違う。


「あなたは例外」


 小さな声。


「ずっと探していた」


 風が強くなる。


 彼女はすぐに視線を逸らす。


「……観測対象として」


 付け足す。


「俺が暴走したら」


「止める」


 即答。


「私が」


 その言葉は、研究者の声ではなかった。




 屋上の扉が開く。


 数人の生徒。


「一位、こんなとこにいたのか」


 空気が変わる。


 彼女は一歩下がる。


 無表情に戻る。


「私は観測を続けるだけ」


 事務的な声。


 生徒たちが近づく。


「次の順位戦、出るよな?」


 順位戦。


「一位が本物か、確かめないと」


 挑発。


 俺は空を見る。


「出る」


 静かに言う。


 ざわめき。


 生徒たちは去る。


 屋上に残るのは二人。


「順位戦は連続戦闘」


 白衣が言う。


「負荷は昨日の比じゃない」


「死ぬかもしれない」


 沈黙。


「その時は」


 彼女が言いかける。


 止まる。


「……データが取れる」


 冷たい言葉。


 だが。


 指先がわずかに震えている。


「安心しろ」


 なぜか、俺が言う。


「多分、死なない」


 根拠はない。


 だが。


 世界がずれる感覚は、昨日より鮮明だった。


 彼女はしばらく黙る。


「そう」


 小さく頷く。


「なら、観測する」


 その目は。


 他の誰よりも。


 俺を見ていた。

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