移送
朝は早かった。
説明は少ない。
署名。指紋。網膜。
形式だけの同意。
車に乗せられる。
手錠はない。
だが、自由でもない。
「暫定Eランク」
前席の男が言う。
「未分類。未制御。再現性不明。最低評価だ」
E。
最下位。
「明日の実技測定で確定する」
順位。
価値。
山道に入る。
鉄柵。
二重ゲート。
監視塔。
白い校舎が見える。
隔離施設の方が近い。
門が閉まる。
音が重い。
「ここからは学園の管轄だ」
男は降りない。
車は去る。
静寂。
「ようこそ」
声。
振り向く。
白衣の女。
眼鏡。
目の下に濃い隈。
徹夜明けの顔。
端末を抱えている。
「私は観測担当」
声は平坦。
「あなたの」
「危険度、不明だから」
「俺はEランクらしい」
「暫定。測定までは最低評価」
感情はない。
事実だけを並べる。
彼女は歩き出す。
俺は後を追う。
廊下は白い。
足音が小さく響く。
「この学校は順位で全てが決まる」
白衣の背中が言う。
「寮。設備。発言権」
「分かりやすい」
「合理的」
教室の前で止まる。
「二年C組」
扉が開く。
視線。
二十数人。
腕章の色が違う。
金。
赤。
青。
俺の腕は灰色。
「編入生だ」
担任が言う。
「暫定Eランク」
ざわつき。
「E?」
「初めて見た」
「事故枠か」
笑い。
俺は何も言わない。
「席は後ろ」
歩く。
肩がぶつかる。
「悪いな、E」
悪くなさそうな顔。
席に座る。
前の席の男が振り返る。
金の腕章。
「何ができる?」
「分からない」
「は?」
「俺にも」
沈黙。
窓際。
白衣の女は端末を見ている。
こちらは見ない。
昼休み。
廊下に出る。
「なあE」
三人。
「試していいか?」
早い。
「明日が測定だろ」
「待てない」
赤い腕章の男が手を上げる。
空気が震える。
衝撃波。
避けられない距離。
死ぬ。
そう判断する。
恐怖はない。
世界が。
わずかに、ずれる。
衝撃波が逸れる。
壁が抉れる。
粉塵。
沈黙。
「……今の」
赤い腕章の顔が固まる。
俺は立っている。
無傷。
足音。
白衣。
彼女が近づく。
「廊下での私闘は禁止」
淡々。
赤い腕章たちは散る。
彼女は端末を見る。
「空間歪曲、再発」
小さく記録する。
「再現性は」
「分からない」
「……そう」
眼鏡を押し上げる。
沈黙。
周囲に誰もいない。
彼女は一歩近づく。
「あなた」
声がわずかに低くなる。
「昨日より、安定している」
「そうか」
「ええ」
「やっぱり」
小さい声。
端末に視線を落とす。
すぐにいつもの顔に戻る。
「明日、全員の前で測定」
事務的な声。
「そこで順位が確定する」
「Eのままかもしれない」
「それはデータ次第」
彼女は背を向ける。
「私は観測するだけ」
それだけ言って歩き出す。
だが。
角を曲がる直前。
一瞬だけ。
こちらを見る。
期待している目だった。
すぐに消える。
廊下はまた静かになる。
明日、順位が出る。
Eのままか。
それとも。




