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心傷のマカブレア  作者: もにもに
事故は、二度起きる
14/18

選択実験

 翌日。


 訓練場の空気は、妙に静かだった。


 いつもなら自主練の声や衝撃音が響いているはずなのに、今日は違う。


 視線が集まっている。


 中央。


 簡易演習フィールド。


 そして、その上段。


 白衣。


 隈の濃い眼鏡。


「本日の特別演習を開始します」


 放送が響く。


「対象は――一年、Eランク、神代 湊」


 ざわめき。


 隠す気はないらしい。


 俺は中央へ歩く。


「内容は簡易迎撃試験」


 白衣の女――観測員が、淡々と続ける。


「同時多発射出。迎撃、あるいは回避」


 嫌な予感がする。


「なお」


 一拍。


「フィールド内には補助対象を配置」


 視線が動く。


 俺の背後。


 五メートル。


 七瀬が立っている。


 拘束はされていない。


 だが、位置が絶妙だ。


 俺が避ければ、流弾が届く可能性がある。


 七瀬は無言だ。


 ただ、俺を見ている。


 責めるでも、期待するでもない目。


 選べ、と言っている。


「準備」


 複数の射出口が開く。


 左右、前方、上。


 合計六。


「開始」


 同時。


 金属片が放たれる。


 速度は速い。


 軌道は交差。


 回避は可能。


 だが――


 俺が左へ飛べば、右後方の一つが七瀬へ向く。


 前に出れば、背後が空く。


 完全回避は無理だ。


 心臓が跳ねる。


 時間が、遅くなる。


 いや。


 遅く感じているだけか。


 六つの軌道。


 重なる未来。


 その中で。


 “誰かが傷つく”線だけが、強く浮かぶ。


 七瀬の肩。


 脇腹。


 足。


 いくつもの可能性。


 俺は踏み出す。


 前へ。


 一歩。


 さらに。


 無理やり、軌道の交差点へ体をねじ込む。


 衝撃。


 一発。


 二発。


 三。


 息が詰まる。


 だが、背後は無傷。


 金属片が床に転がる。


 静寂。


 俺は膝をつく。


 痛い。


 だが、致命ではない。


 七瀬の足音。


「……なんで」


 昨日と同じ言葉。


 だが、今度は震えている。


「避けられただろ」


「避けたら当たる」


 短く答える。


「私に?」


「可能性があった」


 ざわめきが広がる。


「まただ」


「自分は食らってる」


「マジかよ」


 上段。


 白衣は動かない。


 記録端末に何かを打ち込んでいる。


「演習終了」


 放送。


「対象、負傷確認」


 医療班が来る。


 担架はいらないと断る。


 立てる。


 まだ。


 観測室。


 応急処置が終わった後。


 白衣の女が正面に座る。


「三度目」


 静かな声。


「検証成功」


「……何を」


「あなたの能力条件」


 眼鏡の奥が、わずかに光る。


「自己被害は許容。他者被害は拒絶」


 言語化される。


 はっきりと。


「再現性あり」


 Eランクの根拠が、崩れる。


「昇格ですか」


「いいえ」


 即答。


「危険度上昇」


 その言葉は冷たい。


「制御不能な利他性は、組織にとって扱いづらい」


 扱いづらい。


 便利ではない。


 使いにくい。


「あなたは命令より優先して“他者”を選ぶ」


 否定できない。


「だからEランクのまま?」


「暫定保留」


 彼女は立ち上がる。


「ですが」


 一瞬だけ、個人的な色が混じる。


「あなた自身は?」


「……何が」


「自分が傷つき続ける未来を、選び続けるのですか」


 答えられない。


 選んでいる自覚はない。


 ただ、そうなる。


 それだけだ。


 観測室を出る。


 廊下の先。


 七瀬が待っていた。


「ばかじゃないの」


 開口一番。


「死んだらどうすんの」


「死なない軌道だった」


「分かるの?」


 沈黙。


 七瀬は歯を食いしばる。


「……私、守られてるみたいで嫌」


 その言葉は鋭い。


 正しい。


 俺は、守っているつもりはない。


 ただ、拒絶しているだけだ。


 “誰かが傷つく未来”を。


「次は」


 七瀬が言う。


「私が前に出る」


 胸がざわつく。


「やめろ」


「選ばせない」


 強い目。


「あなた一人に、選ばせない」


 遠くで、警報音が鳴る。


 短く。


 異常検知。


 放送が割り込む。


「訓練区域Bにて事故発生」


 事故。


 四度目。


 俺と七瀬は同時に走り出す。


 観測室の窓の向こう。


 白衣の女が、こちらを見ている。


 その目は、初めて――


 わずかに、焦っていた。

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