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ハンドルの向こう側  作者:


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第4話 白い峠と、湯気の向こう

夜明け前、山道は一面の白だった。

 除雪車の通った跡をなぞるように、相原恒一は慎重にハンドルを握る。


「……滑るなよ」


 低いギアに入れ、速度を落とす。

 フロントガラスの向こうで、雪が横殴りに舞っていた。


 ラジオは、いつもの深夜番組から早朝ニュースに切り替わっている。

 淡々としたアナウンサーの声が、妙に心強い。


『本日、山間部では大雪となる見込みです。不要不急の外出は——』


「俺は、不要じゃないな」


 小さく笑って、恒一はつぶやいた。


 峠を越えた先に、古いドライブインが見えてきた。

 看板の文字は色あせているが、営業中の灯りがともっている。


 トラックを停め、雪を踏みしめて中へ入る。

 ストーブの熱と、出汁の香りが一気に身体を包んだ。


「いらっしゃい」


 カウンターの奥には、初老の男性が一人。


「温かいもの、ありますか」


「うどんか定食だな。今日はうどんがいい」


「じゃあ、それで」


 出てきたのは、素朴な鍋焼きうどんだった。

 湯気の向こうで、具材が静かに煮えている。


「……あったまる」


「この峠、若い頃はよく越えたよ」


 主人はそう言って、少し懐かしそうに笑った。


「今はもう、店を守る側だがな」


「走ってたんですか」


「ああ。何十年もな」


 それだけで、十分だった。

 言葉にしなくても、分かることがある。


 うどんを食べ終え、会計を済ませる。


「気をつけて行けよ」


「ありがとうございます」


 外に出ると、雪は少し小降りになっていた。

 空の色が、わずかに明るくなっている。


 トラックに戻り、エンジンをかける。

 ラジオからは、懐かしいフォークソング。


 思わず、声を出して歌った。

 峠を越えた先には、また違う景色が待っている。


 白い道の向こうへ、

 相原恒一は、今日も走る。

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