第3話 午前二時の自動販売機
午前二時。
高速道路のサービスエリアは、昼間の喧騒が嘘みたいに静まり返っていた。
相原恒一はトラックを駐車スペースに滑り込ませ、エンジンを切る。
遠くで大型車のアイドリング音が低く唸っているだけだ。
「……さすがに腹減ったな」
自販機コーナーへ向かうと、蛍光灯の白い光がやけに明るい。
カップ麺、ホットコーヒー、栄養ドリンク。
恒一は少し迷ってから、天ぷらそばのボタンを押した。
機械の中で湯が注がれる音を聞きながら、ベンチに腰を下ろす。
ラジオは、いつもの深夜ドラマ。
『あなたが選ばなかった道も、きっとどこかで続いている』
その一言に、手が止まった。
——選ばなかった道。
ふと、昔のことを思い出す。
若い頃、地元を出る前に付き合っていた人がいた。
結婚の話も、出ていたと思う。
けれど恒一は、ハンドルを選んだ。
「後悔、してないけどな」
そう言い聞かせるように呟き、そばをすする。
少し濃いめのつゆが、夜の体に染みていく。
隣のベンチに、若い男性が座った。
作業着姿で、スマートフォンを見つめている。
「……寒いですね」
突然、声をかけられた。
「ですね。夜はまだ」
「トラックですか?」
「ええ。そっちは?」
「配送です。まだ慣れてなくて」
そう言って、彼は苦笑した。
「正直、向いてるのか分からなくて」
恒一は少し考えたあと、答えた。
「分からないまま走る時期も、必要ですよ」
「……そういうもんですか」
「そういうもんです」
それ以上、言葉はいらなかった。
若い男は、深く頷いた。
それぞれが、それぞれのカップを空にする。
時計を見ると、もう二時半だった。
「じゃあ、お先に」
「気をつけて」
男は軽く頭を下げて去っていった。
恒一は自販機で缶コーヒーを買い、再びトラックへ戻る。
エンジンをかけると、ラジオから懐かしいロックナンバーが流れ出した。
「……よし」
思わず声が出る。
窓を少し開け、恒一は小さく口ずさんだ。
国道でも、高速でも、
迷いながら走る人間は、きっと同じだ。
トラックは闇の中へ、再び走り出した。




