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婚約破棄された私、社畜スキルで異世界学園を物理納品!

作者: さこ丸
掲載日:2025/11/30

 

 婚約破棄RTAリアルタイムアタック、きたー!





 王立魔法学園の卒業パーティー。煌びやかなシャンデリアの下で、私の婚約者は高らかに宣言した。


「エリアナ・フォン・ファルケンラート! 貴様との婚約を今ここで破棄する!」


 金髪碧眼、王国の第一王子であるレオンハルト様がビシッと私を指差す。その隣には、ピンク髪のふわふわしたご令嬢(自称・聖女候補のマリーさん)がしなだれかかっていた。


 周囲の貴族生徒たちがざわめく。「まあ、エリアナ様が?」「あの魔力なしの落ちこぼれが?」「当然の報いですわね」


 ……うんうん、テンプレ通りの展開ですね。

 私、エリアナには前世の記憶がある。日本のブラック企業でシステムエンジニアとして馬車馬のように働き、過労で異世界転生した元社畜だ。

 この世界での私は、由緒ある伯爵家の娘だけど、魔力測定で針がピクリとも動かない「微魔力」判定。この婚約も、幼い頃に家の都合で決められたものだった。


 レオンハルト様は続ける。

「貴様のような地味で能無しな女は、次期国王たる私の隣に相応しくない! 真実の愛は、このマリーにあるのだ!」

「そ、そんなぁレオン様ぁ。エリアナ様が可哀想ですぅ(チラッ)」


 マリーさんがわざとらしい上目遣いで私を見る。勝ち誇った顔が隠せてませんよ。

 周囲は私が泣き崩れるのを期待しているようだ。


 私は静かにシャンパングラスを置き、深々と頭を下げた。


「承知いたしました。謹んでお受けいたします」

「……は?」


 王子の間抜けな声が響く。

 私は顔を上げ、満面の営業スマイルを浮かべた。


「いやー、実は私も荷が重いと思ってたんですよ! 王子妃教育とかマジ無理ゲーですし? これでやっと肩の荷が降りました! お二人の真実の愛(笑)を応援してまーす! それでは失礼!」


 私はドレスの裾を翻し、出口へとダッシュした。

 やった! 解放された! これで田舎に引きこもってスローライフだ!


「ま、待てぇぇぇ! なんだその態度はぁぁぁ!」


 背後で王子の絶叫が聞こえたが、私の退社(退場)スピードは誰にも止められない。RTAなら世界記録レベルの速さで、私は会場を後にした。



 翌日。私は学園の中庭で優雅にランチ(購買の焼きそばパン)を楽しんでいた。婚約破棄されたことは学園中に知れ渡り、ヒソヒソと白い目で見られているが、社畜時代の「上司の理不尽な罵倒」に比べればそよ風みたいなものである。


「よう、噂の『捨てられ令嬢』」


 ドカッと隣に座ってきたのは、騎士科の脳筋イケメン、カイルだった。赤髪短髪、筋肉質で、顔だけは良いが、魔法の授業では自分の杖をへし折るタイプの残念な男だ。


「捨てられたんじゃないよ。円満退社だよ」

「へえ、強がるなよ。泣きたい時は俺の胸筋を貸してやるぜ」

「暑苦しいから結構です」


 そこへ、もう一人。瓶底メガネをクイッと押し上げながら現れたのは、魔導科の毒舌女子、ミラだ。没落貴族だが、学園の裏情報を握り、購買部で独自の商売をしている強か者である。


「エリアナ、あんた馬鹿ねぇ。慰謝料を請求せずにサインするなんて、商売人として三流よ」

「ミラ、私は平穏が欲しいの。手切れ金がわりだよ」

「フン、甘い甘い。あのバカ王子とブリっ子聖女が、あんたをただで逃すわけないでしょ」


 ミラが予言した通りだった。

 放送委員のスピーカーから、王子の声が響き渡る。


『エリアナ・フォン・ファルケンラート! 昨夜の無礼な態度、許しがたい! 名誉挽回のチャンスをやろう。来週の『学園対抗魔獣討伐戦』に、カイル、ミラと共に出場せよ! もし無様な結果に終われば、貴様の実家を取り潰す!』


「はああああ!? なんで実家まで巻き込むの!?」

「ほーら言った通り。完全に私怨ね」とミラが呆れる。

「おっ、面白そうじゃねえか! 俺の筋肉が唸るぜ!」とカイルだけがやる気だ。


 こうして、微魔力女、脳筋、銭ゲバという、学園の底辺トリオが結成された。



 そして迎えた討伐戦当日。学園の裏山に放たれた魔物を狩り、ポイントを競うイベントだ。

 王子とマリーさんのペアは、開始早々、強力な聖魔法と炎魔法で派手に魔物を倒していく。取り巻きたちが「さすが殿下!」「マリー様素敵!」とはやし立てる。


 一方、私たちは森の中でゴブリンに囲まれていた。

「くそっ、魔法が効かねえ! 俺の『ファイヤーボール』は種火レベルだ!」

 カイルが指先からライター程度の火を出して焦っている。


「私の計算によると、この数のゴブリンを相手にする勝率は3%ね。撤退を推奨するわ」

 ミラが冷静にそろばんを弾く。


 二人が私を見る。

「エリアナ、お前なんか隠し魔法とかねえのか!?」

「ないよ! 微魔力だよ!」


 ゴブリンたちが棍棒を振り上げて襲いかかってくる。絶体絶命。

 その時、私の脳裏に前世の記憶がフラッシュバックした。


 ――締切直前、仕様変更の嵐。バグだらけのコード。怒号が飛び交うデスマーチ。

 あの日々に比べれば、ゴブリンなんて可愛いものだ。


「……あーもう、うっさいなぁ! 納期は守れって言ってんでしょーが!!」


 ブチ切れた私は、近くにあった手頃な木の枝を拾い、思い切り振り回した。

 魔力強化? 身体強化? そんなものはない。ただの「気合い」と「殺意」を込めたフルスイングだ。


 ――ドォォォォン!!


 木の枝がゴブリンの群れを薙ぎ払い、衝撃波が木々をなぎ倒した。

 ゴブリンたちは星となって空の彼方へ消えていった。


「「…………は?」」


 カイルとミラがポカーンとしている。私の手の中の木の枝は炭化して崩れ落ちた。


「え、何今の? 物理?」とカイル。

「いや、今の衝撃値……上級爆裂魔法と同等よ。エリアナ、あんた何者?」とミラ。


「え? ちょっと気合い入れて素振りしただけだけど……」


 その後も、私たちは私の「気合い(物理)」で快進撃を続けた。

 王子たちが仕掛けてきた妨害工作(落とし穴や睡眠ガス)も、カイルが筋肉で蓋をし、ミラが風魔法で送り返し、私が物理で粉砕した。


「な、なぜだ! なぜあの落ちこぼれどもが勝ち進んでいる!?」

 遠くで王子の悔しがる声が聞こえる。ざまぁみろ。



 そしてクライマックス。私たちは山頂の祭壇にたどり着いた。

 そこには、王子とマリーさんが先に到着していた。しかし、様子がおかしい。


「ひぃぃぃ! こ、来ないでぇぇぇ!」

「で、殿下ぁ! 助けてくださいぃぃ!」


 二人が腰を抜かしている前には、封印から解き放たれた伝説の魔獣「エンシェント・ドラゴン」が鎮座していた。どうやら、マリーさんが功を焦って封印の石碑を壊してしまったらしい。


「グォォォォォ!」

 ドラゴンが咆哮し、灼熱のブレスを吐きかける。王子たちは結界魔法で防ぐが、すぐにヒビが入る。


「エ、エリアナ! 助けてくれぇぇ! 婚約破棄は取り消す! お前を正妃にしてやるからぁぁ!」

 なりふり構わず命乞いをする王子。見苦しいにも程がある。溺れるものは藁をも掴むってやつか。


「どうするエリアナ? 見捨てるか?」とカイル。

「助ける義理はないわね。損得勘定で言えばマイナスよ」とミラ。


 私はため息をついた。確かに見捨ててもいい。でも、目の前で人が死ぬのは寝覚めが悪い。それに、このドラゴンを倒せば、間違いなく優勝だ。


「……しゃーない。残業手当、弾んでもらうからね!」


 私は二人の前に躍り出た。ドラゴンが私を睨みつける。

 デカい。硬そう。魔法も効かなそう。

 でも、関係ない。


 前世の私は、どんな無理難題なプロジェクトも、バグだらけのシステムも、気合いと根性とカフェインでねじ伏せて「納品」してきたのだ。

 この世界の理不尽なんて、あの頃のデスマーチに比べれば児戯に等しい!


「お客様ァ! その仕様は! 承っておりませぇぇぇん!!」


 私は再び、気合いを込めた拳をドラゴンの鼻先に叩き込んだ。


 ――バキィィィン!!


 空間が歪むような音がした。

 ドラゴンの巨体が、まるで紙屑のように吹き飛び、山肌に激突してクレーターを作った。ドラゴンは白目を剥いて気絶している。


 静寂が訪れた。

 王子とマリーさんは、開いた口が塞がらない。


 その時、ミラのメガネがキラーンと光った。

「……分かったわ。エリアナ、あんたの『微魔力』の正体が」


「え、何?」


「あんたの魔力、測定器の針が一周回って『ゼロ』の位置に戻ってただけだわ。本当は測定不能レベルの規格外よ」


「は?」


「しかも、あんたのその力……ただの魔力放出じゃないわね。前世の『理不尽をねじ伏せる社畜精神』が、この世界では『因果律を物理的に書き換える能力』として発現してるのよ。つまり、あんたが『殴れば倒せる』と思ったら、どんな相手でも物理で倒せるようになっちゃってるの」


 ――まさかの、社畜パワーがチート能力に変換されていた説。


「な、なんですってぇぇぇ!?」

 王子が絶叫する。「そ、そんな……ただの落ちこぼれじゃなかったのか!?」

「嘘よぉ! そんなのずるいですぅ!」とマリーさんが地団駄を踏む。


 私は自分の拳を見つめた。なるほど、これが「納品スキル(物理)」か。


「さて、王子様」

 私はニッコリ笑って王子たちに向き直った。


「今回のトラブル対応費用、および精神的苦痛への慰謝料。きっちり『納品』させていただきますね?」


 私の背後に、気絶したドラゴンよりも恐ろしいオーラが立ち上った(らしい)。

 王子とマリーさんは、泡を吹いて気絶した。



 その後、学園は大騒ぎになった。

 王子はドラゴンを目覚めさせた責任を問われ、王位継承権を剥奪されて地方へ左遷。マリーさんは聖女候補の資格を取り消され、実家の修道院へ送られた。ざまぁみろである。


 そして私はというと――。


「エリアナ様! ぜひ我が騎士団へ!」

「いいえ! 魔導研究所こそが彼女の居場所だ!」

「エリアナちゃん、次のクエスト一緒にどうかな?(チラッ)」


 規格外の力がバレたせいで、平穏なスローライフどころか、国中からスカウトが殺到する超有名人になってしまった。カイルはことあるごとに筋肉アピールをしながらデートに誘ってくるし、ミラは私の力を利用した新ビジネスを画策している。


「あーもう! 私は定時で帰りたいだけなのに!」


 私は今日も、山積みの依頼書クエストを前に頭を抱えている。

 けれど、まあ悪い気はしない。隣には、頼りになる(?)脳筋騎士と、がめつい毒舌メガネがいるのだから。

「さーて、今日もいっちょ、物理で納品しますか!」

 私の異世界社畜ライフは、まだまだ終わりそうにない。


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