第三十三話 星の煌めき
早く、今すぐにドゥーベと言う名の悪魔を殺さなければこの国の安寧を保つ事は出来ないとカーマインは理解した。
それはドゥーベの起こした惨状をみれば明らかであるだろう。
"今すぐに殺さなければならない"
殺すには100%の『陽光砲』を放つ他無い。
だが前隙の大きいこの技を放つにはドゥーベの足止めをする必要がある。
援軍は無い。
動員できる人間も居ない。
状況は圧倒的に劣勢だった。
「それでも……俺は負けられない……!!」
負けるわけにはいかないのだ。
「まだだ、まだ足りねぇ」
ドゥーベが獰猛にそう鳴いた。
渇きを潤す為に、全てを貪り尽くす為に。
「はあぁぁぁ!!」
カーマインの渾身の雄叫びが自分自身を奮い立たせる。
そして地面を力強く蹴り、その剣を大きく振り下ろした。
だがドゥーベはそれを拳で受け、弾き返した。
カーマインの身体が後ろに吹き飛ばさるも、剣を地面に突き刺し、距離が大きく離れるのを防いだ。
だがそれは間違った選択だった。
ドゥーベは地に罅割れを起こす程の威力で蹴り出し、吹き飛ばされるカーマインの身体についていった。
地面に着き、勢いを止めたカーマインの身体に当たるように大きく腕を出し、カーマインの胸にぶち込んだ。
「がっ……!?」
ドゥーベの腕が直撃したカーマインはその衝撃に悶え腕で胸を抑えた。
そのダメージはこれまでの比では無く、意識外からの攻撃という事もあり、少しの間倒れ込んだ。
ドゥーベは豪快に着地し、少しずつカーマインに歩みを進める。
ニヤニヤと笑みの浮かぶその表情は"悪魔"と形容するに相応しい凶悪な面であった。
カーマインはなんとか立ち上がりドゥーベを捉えようと顔を上げたが、ドゥーベの姿が無い。
足音の方向からドゥーベの大まかな位置は把握していた筈なのにそこには何もなかった。
「どこ……だ??」
嫌な予感を感じ、恐る恐る下に目を向けたときーー
「どこ見てんだぁ!?」
そう叫び、ドゥーベの拳がカーマインの鳩尾に突き刺さった。
カーマインの身体は大きく吹き飛ばされ、次々と周辺の建物を破壊していく、そこには逃げ遅れた国民の姿がチラホラと確認できる。
痛みに苦しむ中、カーマインは「これなら避難通告は出すべきだった」と後悔する。
だがその公開も束の間、カーマインの身体は地面に強く叩きつけられ、骨という骨が悲鳴を上げている事に気付いた。
「クソッ……!!」
勝てない。
そんな言葉がカーマインの頭を過った。
絶対に勝たなければならないのに、こんなところで負けていいはずがないのに。
「終わりか?」
ドゥーベがゆっくりと近づいてくる。
カーマインは頭から流れる血を拭い、ドゥーベを一心不乱に見つめる。
今度は絶対に目を離さないという強き意志のもとに。
ドゥーベはゆっくりと歩みを進める。
そんな絶望の中でもカーマインは剣を地面に突き刺し、立ち上がった。
風に靡く緋色の髪は勇気を象徴してるかのように明るかった。
「まだ立てるじゃねぇか」
カーマインはゆっくりと剣を振り上げ、踏み込み、ドゥーベに肉薄する。
剣と拳が混じり合い、ギシギシと音を立てて鬩ぎ合う。
国を背負う重責がカーマインを奮い立たせる。
どんな窮地に追いやられようと、決して屈しないその強固な精神は剣を握り、押し込む力を強くした。
ドゥーベとカーマインの鍔迫り合いは周囲の空気に緊迫感を孕ませた。
「はぁぁぁぁ!!」
腹から声を絞り出すカーマインの力は一時的にドゥーベに追いつくものとなっていた。
これは"熱"の影響ではない。
精神によるものだ。
だが依然として劣勢な状況に変わりはない。
このまま消耗戦に持ち込めば負けるのはカーマインだろう。
だからといってこの押し合いを放棄すれば次に待っているのはドゥーベの拳だ。
だんだんとカーマインの力が抜けていき、ドゥーベが押し込みだした。
「終わりか?」
そう語りかけるドゥーベの言葉はカーマインに重くのしかかる。
「んなわけねぇだろうが!!」
カーマインの力が再度ドゥーベに達するも、すぐに力が抜けてしまう。
どうしても力がはいらない。
原因は簡単だ。
疲労である。
心身ともに疲労しているのだ。
なにせ長時間ドゥーベとの戦闘を続けているのだ。
ーー刹那、ドゥーべの動きに異変が訪れる。
「あ?」
ドゥーべの身体が鈍くなっているのだ。
否、止まっているのだ。
カーマインはゆっくりドゥーべと距離を置いた。
すると背後から掠れた声が聞こえた。
振り向くとそこには全身がボロボロで足を引き摺りながらこちらに近づく透の姿があった。
どうやらライナをどうにか撒いてこちらに来たらしい。
「今のうちに……やってください!!」
透は掠れた声でそう叫んだ。
今しかない。
ドゥーベが動かない今しか!!
カーマインは剣を天に掲げ、叫んだ。
「『陽光砲』!!!! 100%!!!!」
ドゥーべは最後にニヤリと笑い目を瞑った。
直後、カーマインの身体から広がるように一本の光の柱が生まれた。
透はそれに触れるギリギリのところで今度こそ力尽き、倒れた。
轟音を響かせるその光の柱は国中の人を外へ導き目を引いた。
やがてその柱は消滅し、その爆心地には緋色の髪を靡かせる1人の騎士と身体がドロドロに溶け落ち、限界をとどめていない悪魔の姿があった。
その瞬間、夜空には星が幾つか煌めいていた。




