三十二話 再熱
「ライナ、僕はあの悪魔を止めに行く。君は透を死守しろ」
緋色を髪を靡かせ、カーマインはそう宣言する。
彼の背中には失われた"熱"が取り戻されているように感じられた。
ライナは静かに「わかりました」と告げ、透を抱き下がっていった。
髪と同じ緋色の目に闘志を、"熱"を籠もらせ、カーマインは歩く。
その行先は中心へ向かうドゥーベの元であった。
ーーー
ドゥーベの元へ走るカーマインの足が突如止まった。
それはドゥーベ発見を意味するものであったが、そこに生まれた感情は異常そのものだった。
「何を、して……は?」
ドゥーベが貪っていたのだ。
血を、肉を、骨を、人を。
血を浴びたドゥーベの肉体は紅く染め上げられ、肉を引き裂いたその腕は逞しく、骨を打ち砕いた拳にはまだ興奮が残っており、人を貪ったドゥーベの身体はさっきまで焼け爛れていた肉体とは程遠く、胸にある眼の紋様まで完全に再生していた。
人を殺める快楽に溺れ、恍惚とした表情を浮かべるドゥーベが横目でカーマインに気づいた。
すると悪辣で威圧的な笑みをこちらに向け、口を開いた。
「そろそろ来ると思ってたぜ……やるか?」
ドゥーベは待ちきれんと言う様に拳をカーマインに構える。
カーマインはそれを見て深呼吸をし、剣を向けた。
両者の間に緊迫した空気が流れる。
カーマインが一撃で終わらせようと剣先を天に向け、全身に"熱"を込め、滾らせたその刹那ーードゥーベがカーマインの視覚外に周り、拳を突き上げた。
カーマインは咄嗟に『陽光砲』を止め、拳を避けようと身体を捻った。
ーーゴンッと鈍い音が身体から響いた。
ドゥーベの拳は避ける間もなくカーマインに届き、鳩尾に突き刺された。
「ウグッ……!!」
カーマインは吹き飛ばされ次々と家屋を破壊した。
明らかにドゥーベの攻撃の速度、威力が増していることにカーマインは気づいた。
苦悶に歪むカーマインの顔を見て、ドゥーベは更に悪辣な笑みを浮かべる。
「お前も気づいたんじゃないか? 俺がさっきよりも更に力を増している事に」
カーマインは絶望や嫌悪、怒りの入り混じる表情を浮かべる。
カーマインは薄々気づいていたのだ。
ドゥーベの速さや一撃の重さが増していることに。
「ああ、気づいていたさ……ところで何人殺した?」
「あ?」
「あ? じゃねぇよ……お前が何人、罪無き人間を殺したか聞いてんだ!!」
再度、ドゥーベが悪辣で、悪魔的で、傲慢な笑みを浮かべた。
「知らねぇし、興味もねぇよ」
カーマインの表情が怒りに染まる。
そのまま剣をドゥーベへ向け肉薄する。
「お前の罪は今ここで裁かせてもらおう!!」
ドゥーベも負けじと拳を引き応える。
「やってみろやあ!! やれるもんならなあ!!」
ドゥーベの拳が空気を断ち、カーマインの顎に吸い寄せられた。
それをカーマインはギリギリで流し、その勢いのままドゥーベの胸を斬り裂いたーー否、寸前でドゥーベが後ろに引き、避けた。
カーマインはその隙を見逃さずにドゥーベが引くという判断をした瞬間に剣を天に掲げ、熱を全身に込めた。
だが『陽光砲』が身体から天に昇ろうとした瞬間、ドゥーベの踵がカーマインの脇腹に刺さった。
「がぁ……!!」
カーマインの『陽光砲』は中断され、側方に吹き飛ばされる。
だがカーマインは瓦礫の山から這い上がり、緋色の瞳をドゥーベに見せつけた。
「まだ立てんじゃねぇか……!!」
ドゥーベはこの状況を楽しんでいるかのように笑った。
この悪魔を殺さないと地獄は終わらないと、
カーマインは理解した。




