三十話 神速VS巨撃
〜スカー王国南部〜
倒した筈だった。
ーー否、倒していた。
なのに、なのに何故か……。
もう一人、同じ容姿をした男が拳を振っていたのだ。
ーーー
「決して許さない!!」
先程倒れたガルガンは目の前で血を流し、倒れている。
確実に殺した筈だ。
だがもう一人のガルガンがこちらへの殺意を煮え滾らせている。
魔族による新たな技術で分身を可能にしたという考えを頭を過ったが、すぐに整理がついた。
弟という発言、そして2人似た容姿に同じような声。
双子だ。
稀に2人同時に生まれると言われる双子だ。
この国では双子は神聖なものであり、片割れは神の子としてもう一人が一緒をかけて世話をするという伝統がある。
だがその制度は現国王がぶち壊した。
そんなものは無駄だと。
話は逸れたが双子というのは濃厚と考えられる。
ならば異能は近い、もしくは同じものになる。
異能は本来、同時に2つ存在することは無い。
持ち主が生を失った時、別の赤子に異能が宿るのだ。
だが双子は同一存在として扱われている。
双子が異能を持ったとき、同じ異能や似た異能を持つことが確認されている。
つまり、この大男は先程と同じように畳み掛けるのが正解、というかそれ以外に出来ることがない。
さっきとやることは同じ。
"簡単"な作業である。
なのになぜ足が竦むのか、なぜ腕に力が入らないのか。
この答えも"簡単"だ。
疲労だ。
一人目を倒す時にスタミナなんて使い切っていたのだ。
あの男を兄と呼んでいたのでこの深緑の肌を持つ大男を弟と呼ぶことにしよう。
弟の拳が眼前まで迫る。
あまりに素早い動きに、気の抜けた状態の俺は反応が遅れた。
巨岩の様な拳が肉薄する。
異能を解放してもその巨撃を回避する事は出来ない。
俺は寸前で身体を捩り衝撃を離散させる。
『転散』
だが受け身のみでその衝撃を逃がすなんて敵うはずも無く身体中の骨という骨がミシミシと悲鳴を上げる音を直に聞き、ぶっ飛ばされた。
そのまま民家に身を打ち、破壊し家の中に放り出された。
幸い住民は魔族や戦闘の砕音を聞き既にその家を捨て、中心へ向かっているようだ。
弱音を吐く足や腕に発破を掛け何とか起き上がる。
弟は重厚な音を立て、ゆっくり近づく。
恐らく"奴ら"の異能の正体は時間関連、もしくはーー。
「瞬間加速?」
「ッーー!」
ほんの僅か、微少であったが弟の深緑の表情が動いた。
瞬間加速。
なぜ瞬間のみ加速するのか。
俺のように加速し続けないのか。
そんなの簡単な話だ。
それは加速し続けることが出来ないからである。
その一瞬に全てをかけた一撃であるからその刹那の時間を素早く、光のように動くことが出来るのだ。
「やっと見つけた……長かったよ」
「?」
「お前、名前は何て言うんだ?」
「アルガン・ハルト」
「俺はアレフ・バレットだ、よろしくな瞬間加速」
「黙れ、会話になっていない。やはり兄を殺したお前は狂人だ、クズだ、ゴミだ、消え失せるべきだ」
汎ゆる罵詈雑言を纏めぶつけたアルガンはその拳を震わせズシズシと巨体を動かし、肉薄する。
彼の射程圏内に入った時。
案の定、加速した。
目で追うな。身体で理解しろ。
「お前、単純なんだよ」
アレフはその拳を意図も容易く回避し、その回避地点に穿たれた左拳も転散を成功させ打ち消した。
間もなく加速は途切れ鈍くなったその時だった。
「受け主体のカウンター型、俺はそんなに好きじゃないがお前を倒すのに最適なのはそれだ。何度でも言ってやる、お前は単純だ。気づくことが出来たのなら簡単に攻略出来る」
そう言い放ったその時、アレフは何故か走り出した。
逃がすまいとその背中を追うアルガンについていくなんて雑兵には敵わなかった。
ーーー
元の位置とは大きく離れ少し開けた場所。
国民の憩いの場として有名な広場だ。
真ん中に噴水が設置され、その周りを彫刻や椅子、叢に囲まれている。
アレフは信じていた。
自分に一途なアルガンを。
「小賢しい、逃げるな」
アルガンが来た。
信じた結果と同じであった。
任務など捨ててこちらを選ぶ。
当たり前だった。
「本当に単純でバカだよ、お前は」
なぜその場を離れ走ったのか。
単純だ。
それは雑兵の存在だ。
透が倒し損ねた雑兵が邪魔に入る可能性もある。
だから逃げたのだ。
より優位に勝負が傾くように。
「お前のお望み通りやってやるよ」
「やっとその気になったか、雑魚」
速度を司る2人のゴングがもう一度、音を響かせた。




