第二十七話 騎士の誇り
「あんたが本気? 笑わせないでちょうだい。ゴミがどれだけ頑張ろうがゴミのままよ」
エルは嘲笑する様に言い放った。
手に持つ黄金の鎖がチャラチャラと威圧的に音を立てる。
二本の手斧を握るラジャイ、剣を握り機会を伺うヘレン。
緊迫した空気が流れている。
「まあ期待を込めて、私も本気で行くことにするわ」
「『嵐輝流』」
エルは黄金の鎖を握る手に力を込めて頭上に上げ全力で回す。
それは刃を散らしながら旋回し、風圧で圧倒される程強く巨大であった。
「あれは……私でも近づけない、というかあの女の鎖は私とは相性が悪い。異能も判明していない今、状況は最悪だ」
ヘレンの言う通り、彼女の異能はあの鎖と相性が悪い。
鎖を回していない状態なら近づくことは可能だが、彼女は体術を心得ている。
距離を取り隙を狙おうにも鎖をああやって回されていてはそもそも近づく隙がない。
そして鎖を弾くパワーも無い。
「俺がやるしか無い……!!」
「あんたに何が出来るわけ? そんな斧で勝てるとでも? 馬鹿じゃないの? さっきの剣みたく折れるのがオチよ」
エルの挑発が続く。
だがラジャイの表情は変わらない。
固く、強い意志でその闘志は燃え盛っている。
「折ってみろよ、出来るものならばなあぁぁ!!」
ラジャイは手斧を構え、肉薄する。
それをエルの鎖は引き裂かんと打ち込まれる。
ラジャイは短剣や鎖の中腹を弾き、回避した。
ゆっくりと距離が詰められる。
「くっ……あんたそんなに近づいていいわけ?」
「焦っているのか?」
「心配してあげてるのよ。私の鎖、あんたが私に近づく程勢いが増すのよ」
「また適当な事……っ!?」
エルの言葉を流しつつ距離を詰めていた時、ラジャイは異変に気づいた。
エルの言葉は正しかった。
近づけば近づく程、黄金の鎖と短剣の猛襲は確かに勢いを増した。
それはラジャイの鎧に傷をつけ、それを貫く程に。
皮膚ギリギリを穿つ鎖と短剣は近づくことを憚れる程に強力な連撃を放ち続ける。
「あんた、やっぱり雑魚よ。本気を出したところで意味無いじゃない」
エルは余裕を取り戻した。
それはラジャイの表情から焦る感情に勘付いたからであった。
エルは立ち止まるラジャイから少しづつ距離を取る。
次第に鈍っていたラジャイは動きを取り戻し、すぐに背後に下がった。
「駄目だ、隙が無い」
そう呟いた時、ヘレンが叫んだ。
「諦めては駄目だ!! カーマイン様も未知の相手と戦っているのだ!! こんなところで諦めてはいけない!!」
ヘレンに発破をかけられたラジャイは気づいた。
自分の本気を過信していた訳では無い。
でもそれが簡単に打ち砕かれたのだ。
悔しかった。
でもそれを弱気になっていた自分を気づかせてくれたのだ。
「私も人のことは言えない。弱気になっていた。でも、それでも戦わなければいけない!!」
ヘレンは叫ぶ。
心からの訴えを。
「私達はーー騎士だから!!」
自然と手に力が入る。
俺は騎士だ。
誰が何と言おうと、剣を捨てようと。
騎士なのだ。
俺を信じてくれた。
それだけで嬉しかった。
だからこそ応えなくてはならない。
ーーだって、騎士なのだから。
「ここが正念場だぁぁぁ!!!」
ラジャイは斧を握る。
その力は強く、今までに無い程であった。
手が麻痺する程に。
そして振る。
素早く身体の周りを守る様に。
「うっさいわねぇ!!」
エルの鎖が無秩序に振り回され、ラジャイを切り裂く。
ラジャイはその全てを弾き、距離を詰める。
エルの鎖は更に素早くなり、ラジャイを襲う。
「死ねよアホがぁぁぁぁ!!!」
エルの言葉遣いが荒くなり、鎖を振る手も乱暴になる。
一見力が増し強くなった様にも見えたが、ラジャイは気づいた。
エルが乱暴に振るほど鎖の精度が下がるということに。
ラジャイがそれを逃すわけが無かった。
「ここだぁぁぁぁ!!!」
ラジャイが鎖を弾き肉薄する。
目の前の鎖は全て弾かれ一本の道が切り拓かれた。
ラジャイは咄嗟の判断で斧を投げる。
人が走るよりも圧倒的に速くその斧はエルを襲った。
「残念!! 私は体術も出来るのよ!!」
エルは大振りに回転し、斧を蹴る。
片足立ちになり斧がその場に落ちーー。
「……さよなら」
無防備なエルの背には人の影が生まれていた。
それは音も無く、気づけばその場に現れた。
手には剣を握りエルの首を狙う。
その刃はエルの首筋を撫でた。
首からは鮮やかな赤が飛び出し、金色の鎖を染めた。
エルは手に握っていた鎖を落とし、切り裂かれた首筋に手をやる。
「あ? え? 嘘……嘘よ!!」
膝から崩れ落ちたエルの前にはラジャイの姿があった。
「あんた……謀ったわね?」
「ああ、手強かったよ」
「クソ……クソクソクソクソクソ!! そんな、おかしい!! 私が負けるわけが無い!! 何かの間違いだ!! お前ら!! 何をした!! ズルしやがって!! 殺してやる殺してやる殺して……」
その場で言葉は途切れた。
ラジャイの斧が口煩いエルの首と胴を断ったのだ。
断面からは鮮血が噴き出し、辺り一帯が真っ赤に染まった。
「俺達の勝ちだ……」




