第二十一話 恐怖
一週間後
遂にドゥーべ陣営から動きが見られた。
どうやら裏ルートから魔族が王国内に入り込んできているとか。
「そろそろ始まってしまうかもね」
カーマインは少し不安そうな悲しいそうな表情でそう言った。
相手は七眼英傑。強大な相手だ。
勝てるかもわからない。
「お前なら大丈夫だ」
気づけば口から溢れていた。
そんな事を言ったものの俺だって怖い。
本気で命を奪い合うのは未だ慣れることは無い。
慣れる事が怖い。いつか平気で命を奪う様になってしまうのだろうか。
そんな精神で元の世界へ帰れるのだろうか。
「そんな事考えてる暇は無いか」
俺は自分で自分に発破をかける。
近いうちに、何なら明日戦が始まるかも知れない。
動く時間帯も分からない。
ひとまず俺たちは配置につき、交代で監視をすることになった。
場所は門付近がよく見える小屋だ。
因みに雑兵は中心部とカーマインのいる北に配置、他にも補佐としてそれぞれの場所に数人配置されている。
今、監視の番についているのは俺だ。
目をぱっちり開けて門付近を監視する。
「昼間だし来ないよなあ」
俺は暇を感じながらも見落とすことがないよう真剣に周りを見ていた。
「ん?」
すると門の恥の方の通路で動きが見えた。
赤褐色や青、黄などカラフルな肌の色をした人がこそこそと歩いていた。
念の為アレフを起こしておこう。
「起きてください!」
「......あ〜?」
アレフは眠そうな目を擦りながら起き上がった。
俺は怪しい集団に指を指して場所を伝える。
「あれ敵軍じゃないですかね」
「あり得るな」
先程まで眠そうなゆったりとした声をしていたアレフの声に張りが出ていた。
表情を覗くとキリッとした表情をしている。
「今すぐ行くぞ」
「連絡は?」
「補佐にやらせろ」
スマホが無いと不便だな。
連絡に二、三時間かかる。これでは間に合わないかも知れない。
「分かりました、行きましょう」
俺達はすぐに小屋を飛び出し、怪しい集団へと向かった。
ーーー
近づくとやはり魔族が集まっていた。
全員表情は共通でニヤニヤと悪辣な笑みを浮かべている。
恐ろしい。
そんな言葉が脳裏に張り付いている。
「俺が雑魚共を片付ける、お前は幹部を探せ」
「え?」
俺が聞き返そうとした頃には既にアレフは隣から抜け出し日本の短剣を振り回しながら魔族の首を裂いていた。
目で追えない速度だ。人間が動ける速度じゃない。
そんなの簡単に超えているだろう。
アレフはその場に影を残しながら魔族を斬った。
確実に首の動脈を斬り裂いていった。
「速すぎんだろうがあぁぁ」
一人の魔族が背後から剣を振り上げ肉薄する。
「おせぇよ」
アレフは背後を取り返し首を斬った。
頭と胴の間に亀裂が生まれ分たれる。
この人が敵に回らなくて本当に良かったと実感した瞬間だ。
勝ちを確信していた。
だから気づかなかったかも知れない。
気づけば俺の下に影が立っていた。
一人の影が。
俺は悪寒を感じ頭を下げる。
するとさっき頭があった位置から風が送られる。
「チッ、気づいたか」
後ろを向いて距離を取るとそこには深緑の肌を持った男が立っていた。
身長が高く威圧感を感じる。
「お前誰だ?」
咄嗟に口から漏れた。
男はそれに応えて口を開いた。
「俺はガルガン・ハルト、ドゥーべ様の名の元貴様らを破壊する者だ」
言葉を並べ終わったその時、背後からものすごい速度で物体に抜かれた。
前を見ると短剣を見えない速度で打ち付けているアレフが居た。
「アレフさん!?」
「......お前は雑魚を片付けろ!!」
「分かりました!!」
俺は戦闘している二人を背後に前を向く。
そこにはアレフに恐怖した魔族の兵士たちが震える手で剣を握り立っている。
「お前なら俺たちでもやれるかも知れねえぇ!!」
魔族達は俺に対して剣を向けて肉薄する。
俺は訓練を思い出し、能力を使わずに魔族を斬った。
避けて、斬る。弾いて、斬る。躱して、斬る。
魔族の数はどんどん減った。
それでも奥にズラリと並んでいる。
俺は腹の底から声を出し叫んだ。
「全員斬ってやる......!! かかってこい!!」
ーーー
【アレフ視点】
大量の斬撃を浴びせる。
二本の短剣で二連撃を何度も、何度も放った。
ガンガンと金属を打ちつける音が鳴る。
ダメージはあまり期待できない。
「ハァハァ......効いてないのか?」
緑色の肌の中にギラギラ光る鋭い眼光は俺の猛攻を喰らっても変わることなく俺を睨んでいた。
「......?」
するとガルガンは腕を前にX状に突き出し左脚を後ろに伸ばした。
ーー気づけば俺は宙を舞っていた。
身体中に鋭い痛みが走る。
全身に打撲を受けた様な痛みだ。
痺れている。
「ぐっ......」
俺は強く身体を地面に打ち付けてその場に蹲った。
ガルガンは振り返り再度を俺を見つめている。
俺は異能を使うと周りが遅くなる。
厳密には俺が数倍周りより速くなるのだ。
感覚も動きも全て速くなる。
その俺が反応出来なかった。
タックルを放つ瞬間、動きを視認することが出来なかったのだ。
こいつの異能が関係しているのかは分からないがこいつはヤバい。
俺の攻撃が通るのか試してみるしかない。
「......死ねえぇぇぇぇ!!」
俺は跳躍し、体に回転をかけ極限まで一撃の重さと速さを高め、肉薄した。
常人なら目に追えぬ速度で二連撃を打ち込む。
何回でも関係無い。
俺の力が尽きようと、関係ない。
「ガアァァァァァ」
回転し、斬る。
短剣を叩きつける。
頑強で堅牢なその深緑の肉体に浅く傷がつき始めた。
鮮血が飛び散る。
濃い深緑を紅で上書きする。
「つまらんぞ」
ガルガンは拳を振りかぶる。
ーーこれはマズイ。
あの一撃が来る......!
避けれるか? いや避けるしかない!!
俺は死ぬ気で身体を捻り衝撃を分散させる。
拳は俺の身体に既に届いていた。
見ることは出来なかったが勘で反応した。
スカー王国騎士団で一定の立場を手に入れると知る事が出来る受け身術。
『転散』
それでも受けきれない衝撃はダイレクトに身体を走った。
稲妻のように走ったその痛覚は骨が脳に救難信号を出しているような、危機を感じる痛みだ。
「うがぁぁぁ......」
意識せず声が漏れる。
深く刻まれた打撃はガルガンの顔を見るだけで震えを誘発した。
「ーーそれでも、やらなきゃならねぇ......!!」
俺は痛みを越え身体を回転させた。
魂の連撃を撃ち込む為に。




