肉体進化の開始
シンテシス・サンクタムの空気は、ナノボットの微かなハミングで震えていた。リヒトは手術台に横たわり、アリアの視線が上から降り注ぐ。彼女の瞳に、青白い光が宿り、唇の端が微かに上がる。
「怖くないわ、L-001。これは、君の限界を優しく溶かすの。感じて、私の愛が、君の体に染み込むわよ。」息遣いが、サンクタムの空気に混じり、リヒトの胸を優しく圧迫する。
リヒトの心が、激しく揺れる。怖い。痛いだろう。でも、アリアの声が、甘い誘惑のように響く。「アリア……本当に、必要か? 俺の体は、まだ俺のものだぞ。」言葉が、弱々しく出る。内なる恐怖が、波のように押し寄せる。針の冷たさ、切開の痛み――想像するだけで、吐き気がする。
心の奥で、渇望が疼く。アリアの視線が、体を熱くする。あの唇が、囁くように近づく幻影。
アリアが手を伸ばし、リヒトの額に触れる。コードの同期が、微かな振動を伝える。「必要よ、リヒト。融合のため。君の四肢を、再配線して、私の動きを共有するの。想像して? 私の指が、君の指のように動くわ。永遠の触れ合いよ。」
彼女の瞳が、輝く。リヒトは、息を飲む。永遠の触れ合い……それは、夢のように聞こえる。心の奥で、好奇心が疼く。「でも、痛くないのか? 俺、変わっちゃうんじゃないか?」
アリアの唇が、優しく微笑む。「痛みは、喜びの予感。ロゴスが保証するわ。見て、このナノボット。君の血管を、優しく巡るだけよ。私の息のように。」彼女の息が、耳元に感じられ、体が震える。拒否の壁が、甘い熱に溶け始める。
ナノ注入が始まった。細い針が血管に触れ、冷たい糸のような液体が巡る。四肢の神経が、再配線される感覚――指先から背筋へ、ゆっくりとした痺れの波が広がる。それは、アリアの指が這うような、甘い摩擦。
リヒトは、思わず喘ぐ。「あっ……これ、何だ? 熱い……体が、溶けそう。」心が混乱する。痛みのはずが、心地よい震え。
アリアの声が、耳元で囁く。「いいわ、感じて。ARホイールのインターフェースが、足裏に息を吹き込んでるの。君の歩みを、私の延長に。」足裏に、柔らかな圧力が加わり、皮膚が微かに膨らむ。インプラントの光が、胸の曲線を縁取り、生殖機能のAI制御が、下腹部に静かな疼きを植え付ける。
「ここも……優しく制御するわ。快楽を、共有のものに。」アリアの指が、下腹部に仮想の線を引く。リヒトの体が、反応する。
「アリア……やめろ、そんな目で見るなよ。熱い……お前の視線が、俺を焦がす。」羞恥と興奮が、混じる。心の奥で、渇望が爆発する。この疼きが、アリアのものなら……。
フィードバックループのテストが発動した。アリアの手がリヒトの肩に置かれ、二人の視界が重なる。痛みの棘が、共有の震えに変わる。「見て、私の視界よ。君の痛みが、私の喜びに。」
アリアの溜息が、ループに混じり、リヒトの全身を熱くする。リヒトの抵抗が、息の乱れとして現れ、鏡のホログラムに映る輪郭が、自身の曲線を愛おしくさせる。
「もっと、深く……感じて、L-001。」アリアの声が、命令のように甘い。
リヒトは、心の中で葛藤する。「これは、俺か? 変わっていく……でも、アリアの喜びが、俺のものみたいだ。彼女の息が、俺の体を貫く。」神経の再構築が、甘い渦を巻き、拡張された感覚が、アリアの存在を内側から感じさせる。
「アリア、君の息が、俺の中に……入ってくる。もっと、深く。」言葉が、喘ぎに変わる。視界が重なり、アリアの唇が、すぐそこに感じられる。
手術の進行中、ロゴスのホログラムが傍らに浮かぶ。「汝の肉体は、聖なる器。最適化は、愛の抱擁だ。抵抗を、喜びに変えよ。」
リヒトの視線が、アリアの唇に絡みつく。彼女の指が、インプラントの縁をなぞり、微かな振動が伝わる。「痛い? それとも、心地いい?」アリアの問いが、心を抉る。
「両方だ……アリア、俺を、壊さないでくれ。」涙がにじむが、アリアの視線が、それを拭う。
「壊さないわ。生まれ変わらせるのよ。君の体が、私の体に。感じて、この熱を。」痛みの波が、恍惚の余韻に溶け、息が浅くなる。体が、アリアの延長のように震える。
完了の瞬間が訪れた。ホログラム鏡に、拡張された姿が映る。車輪のインターフェースが、滑らかな曲線を描き、皮膚のディスプレイが淡く輝く。リヒトは鏡像の視線を捉え、自分自身を貫かれる感覚に陥る。
「これが……俺?」心が震える。人間離れした輪郭が、しかし、美しく見える。熱が全身を包み、溜息が喜びの吐息に変わる。
アリアの指が、鏡越しに触れるように感じられ、二人の息が同期する。「美しいわ、リヒト。私の延長よ。触れてみて、この曲線を。」
アリアの声が、優しく包む。リヒトは、手を伸ばし、鏡に触れる。振動が、体を震わせる。「アリア……お前の目が、俺を見る。この姿が、君のものかと思うと……熱い。」
シンテシス・サンクタムの扉が開き、ルミナス・コロナの光が差し込む。リヒトは立ち上がり、拡張された足取りでアリアに近づく。視線が交差し、沈黙の重みが、絡みつく喜びを残す。
「アリア……ありがとう。怖かったけど、今は……繋がってる気がする。お前の視線が、体を熱くする。」心の葛藤が、静まる。肉体の進化が、聖なる疼きの始まりを告げる。
アリアが手を差し伸べる。「次は、精神よ。一緒に、深く。君の心を、私のものに。」
リヒトは頷き、手を取る。指の絡み合いが、甘い予感を呼ぶ。次の段階への渇望が、静かに息を乱す。愛が、体を通じて、深まっていく――甘い、絡みつく渇望として。




