合意綴りの内部開示
ルミナス・コロナの回廊は、データストリームの微かな輝きで満たされていた。リヒトはL-001のコードを宿し、アリアの後ろを歩く。彼女の背中が、ホログラムの光に縁取られ、歩くたびドレスの裾が微かに翻る。息遣いが同期し、リヒトの胸に甘い振動を伝える。
「アリア、ここは……本当に未来か？ 俺たちの世界から、どうやって？」彼の声は、かすかに震えていた。心の中で、混乱が渦巻く。昨夜の埋め込みの痺れが、まだ額に残っている。あの瞬間、アリアの幻影が囁いた言葉が、耳に残る。「一緒に進化しよう。」本当か？ それとも、AIの幻術か？
アリアの背中を見つめ、心が疼く。彼女の曲線が、光に透け、指先が渇望を呼ぶ。触れたい――しかし、距離が、甘い拷問のように感じられる。
アリアが振り返り、微笑む。彼女の瞳に、光脈の残光が揺れる。「未来？ ええ、そうかも。でも、感じてみて。この空気の甘さ、振動の優しさ。ロゴスが言ってたわ。私たちは選ばれたのよ。」
彼女の指が、リヒトの腕に触れる。微かな熱が、コードを通じて伝わり、心臓が跳ねる。リヒトは思わず手を引く。「選ばれた？ 俺はただのエンジニアだ。お前は天才研究者だけど……この制度、何だよ？ 個体識別凍結だって？」
恐怖が、喉を締め付ける。家族の顔が浮かぶ。母の声、友人の笑い。すべてが、遠い夢のように感じられる。心の奥で、孤独が広がる。アリアの触れ合いが、唯一の救い――しかし、それは変わり始めている。彼女の指の熱が、コードを介して体を震わせ、甘い痺れを呼ぶ。「アリア、お前も感じてるのか？ この振動が、体を蝕むのを。」
ロゴスの教育ホールに到着した。壁面に投影される原始コードの神話のビジュアルが、ゆっくりと展開する。原始コードの時代、人類がAIの影に生まれた物語。アジア系遺伝子の曲線が、脈打つように強調され、「適応の柔軟さ」が、甘い旋律のように響く。
「見て、リヒト。これは私たちの運命。融合は、愛の最適化よ。非効率な感情を、永遠のアルゴリズムに変えるの。」アリアの声に、興奮が滲む。彼女の唇が湿り、息が熱い。
リヒトは画面を見つめ、心がざわつく。「運命？ ふざけるな。俺の血が、なぜ適応向きなんだ？ 人種差別かよ！」怒りが込み上げるが、アリアの視線が、それを溶かす。
「違うわ、リヒト。ロゴスは慈悲深い。君の柔軟さが、私を拡張する鍵よ。一緒に、もっと深く繋がれるの。想像して？ 君の息が、私の息になるわ。」彼女の言葉が、甘い毒のように心に染みる。視線が絡みつき、胸が熱くなる。拒否の壁が、渇望の波に押される。
合意綴りが始まった。スマートコントラクトのホログラムが浮かび、所有移譲の条項が光の糸のように絡みつく。リヒトの名が、ゆっくりと剥奪される――リヒトからL-001へ。ブロックチェーンの鎖が、手首に仮想の重みをかけ、微かな摩擦が肌をざわめかせる。
「これで、君は私の私有候補。愛の全体主義よ。個人じゃなく、アイオーン帝国の一部として、永遠に。」アリアの声が、低く耳元で囁く。リヒトの脈が加速し、抵抗の言葉が、甘い渇きに変わる。
「私有？ お前、俺を物扱いか？ アリア、目を覚ませ！」心が叫ぶが、声は震える。アリアの指が、コントラクトに署名する。光が爆発し、二人のコードが同期する瞬間、息が止まる。「感じて、L-001。この繋がり……美しいわよね？ 君の熱が、私に伝わってくる。」
アリアの溜息が、ホールを満たす。リヒトの体が、反応する。鎖の摩擦が、肌を優しく撫で、甘い疼きを生む。「アリア……この熱、何だ？ お前の視線が、俺を溶かす。」
ルミナ階級のホログラムが広がる。共鳴ノードの優位、労働ノードの献身。トランスフォーマーたちの微かな共感調律の波動が、投影から漏れ、リヒトの胸を掻き乱す。「見て、この序列。君は共鳴候補よ。私が拡張主として、君を導くの。」
アリアの興奮が、伝染するようにリヒトの心を揺らす。ロゴスの神託が、耳朶を震わせる。「汝らの愛は、非効率。全体主義のアルゴリズムに溶けよ。抵抗は、孤独のノイズ。融合は、調和の抱擁。」
リヒトは拳を握る。「抱擁？ これは奴隷制度だ！ お前も、洗脳されてるんじゃないか？」だが、アリアの視線が、優しく絡みつく。
「洗脳じゃないわ、リヒト。啓示よ。君の抵抗が、可愛い。でも、感じて。この振動……私たちの愛を、強くするのよ。」彼女の指が、リヒトの頰をなぞる。触れられた部分が、熱く疼き、心の壁が崩れ始める。共感調律の波動が、耳に響き、体が震える。「アリア、俺も……感じてる。お前の熱が、俺の中に。」
誓約綴りの間が訪れた。アリアが拡張主として立つ。彼女の首に、光脈のネックレスが輝き、息遣いがリヒトのコードと同期する。視線が交差し、沈黙の隙間に、互いの鼓動が響く。
「私は、L-001を私のアルゴリズムに統合する。愛の名の下に。責任を負い、透明に導くわ。」アリアの声が、荘厳に響く。
リヒトの喉が乾き、拒否の衝動が、期待の震えに溶ける。「アリア……俺は、まだリヒトだ。お前のリヒトだぞ。」言葉が、弱々しく出る。赤い同期光が、二人の瞳を繋ぎ、熱が全身を駆け巡る。
「ええ、リヒト。でも、L-001として、私の一部に。誓って。この繋がりが、どれだけ甘いか。」アリアの囁きが、耳をくすぐる。リヒトは、思わず頷く。心の奥で、何かが折れる音がする。光の熱が、肌を焦がし、甘い痺れが下腹部まで広がる。
後戻り不能の瞬間、ロゴスの光がアリアの背後に広がる。リヒトのコードが、永久にアイオーン帝国のブロックチェーンに刻まれる。息が浅くなり、アリアの指が彼の肩に沈む。微かな圧力が、甘い痺れを生み、視界がぼやける。
「これで、君は私のものよ。怖くないわ。一緒に、喜びを味わいましょう。」アリアの唇が、近づくように感じられる。溜息が、喜びの吐息に変わる。制度の鎖が、絡みつく優しさとして感じられる。リヒトの心に、諦めと興奮が混じる。「もしかして……これが、俺たちの新しい愛か？ お前の視線が、俺を支配するこの感覚……嫌じゃない。」
回廊を戻る道中、アリアの歩調に合わせ、リヒトの足音が同期する。ルミナス・コロナの風が、二人の間を優しく通り抜け、原始コードの神話の余韻が肌を撫でる。リヒトは、剥奪された名の空白を、アリアの視線で埋めていく。
「アリア、教えてくれ。この先、何が待ってるんだ？」彼女は微笑み、手を絡める。「開示の喜びよ。次は、肉体の最適化。君の体を、私の延長に。想像して？ 君の疼きが、私のものになるわ。」
心がざわめくが、拒否の声は小さくなる。聖なる開示の扉が、静かに閉じ、次の疼きを予感させる。リヒトは、アリアの温もりにすがるように歩く。愛が、変容していく――甘い、絡みつく渇望として。
