巨壁 The Wall
モウー大陸
オーガの王国、西の森、人間の植民地との境。
グール侵攻より150年前
パーザンはガラペラス王の命令で連合軍に参加し、ここまで来た。
オーガ王の懸念はモウー大陸の西海岸を植民地化し始めた、ヨルペイアン大陸から来た様々な人間たち。先ずは数千の兵隊が上陸し、海沿いの各種族の亜人の小さな漁村と港を無慈悲に蹂躙した。
オーガ、オーク、ゴブリンの連合軍は迎撃したが、人間軍が持っていた新しい広範囲攻撃魔導兵器のせいですぐに壊滅状態に陥った。それでも小規模な軍事衝突が絶え間なく続いていた。
人間は個々では弱く、種族全体は短命だが、工夫が上手く、繁殖力も強い。
亜人の頂点に立つトロール族は人間を餌にするが、その分人間の報復攻撃が苛烈なため、最近トロールの共同体で人間狩り禁止の法律が決まったと聞いた。
パーザンは下品なトロールは嫌いだったが、侵略する人間をかみ殺してやりたい気持ちをよく理解していた。但し人間は自分たちにはよく似ていて、食べる気にならなかった。ほとんどのオーガも同様だった。
「隊長・・・人間の分隊がこちらに向かっている。」
今回の作戦で副長になったオークの戦士が報告してきた。
「わかった・・何匹だ?」
「5匹程度です・・・おそらく斥候隊でしょう。」
「変わった様子は?」
「特にありません。」
このオークの副長はよく働いてくれるし、機転も利く、名持ち(ネームド)ではないの残念だと思った。
「我々は肉体的優位だが、最近の衝突では人間が力を増しているので、副長、オーガ6体と君を含むオーク12体を集めろ、ゴブリンの警備兵20匹を後ろに配置しろ。」
「わかりました、隊長。」
数分後が森の中の小さな空き地に一時休息していた人間5人の前でパーザンが率いる部隊が現れた。
「降伏しろ、侵入者ども・・・我々の方が数的に優位だ。」
パーザンは威圧的な大きな声で話した。
5人は特に驚くこともなく、攻撃態勢を取ることもなく、亜人たちを見つめた。
彼らは重騎士や戦士のアーマーではなく、野戦用の戦闘服を着ていた。
「へえ・・・数的に優位ね・・・私はそう思わないな。」
人間にして身長が高く、筋肉質な体をした短い金髪の女性が返事した。
「我々を見て、恐怖を抱かないのか?」
「恐怖を抱く必要あるの?」
「人間の女よ・・・降伏しないなら容赦せぬ。」
「へえ・・・ならば降伏しないでおこう・・・」
女は笑顔を浮かべて、パーザンを真っ直ぐ見つめていた。
残りの人間4匹(雄2匹、雌2匹)は金髪女同様、笑顔を浮かべた。
「我はガラペラス王が主人、近衛隊、隊長、パーザンだ・・・冥土の土産として我が名を心に刻むがいい!!」
「面白いわ・・・私はシュパイン王国、特別亜人対策強化部隊、隊長、アマンダ・モンドーだ・・・名持ち(ネームド)狩りのモンドーだ!!」
この時はパーザンがまだ知らなかった。あの勇猛果敢の強化人間の女がこの戦争が終結した後、自分の女房になる運命だったことを。
滅亡した旧バネゾラ王国
モレカイポ湖沿い
世界最大魔石採掘場近辺。
最前線・連合軍モレカイポ基地
司令塔内
鮮血姫の到着より2日前。
同盟軍の司令官たちがパーザンを大きな宿舎に案内した。
彼に与えられたコードネームは巨壁だった。
宿舎の大きな扉を開き、ゆっくりと入った。
「なんだ・・・ただの弱いオーガじゃねか!!」
下品そうな灰色の肌と黒髪の若いトロールがパーザンを見て、大きな声を上げた。
「黙れ、クズ。」
長い銀髪の女性の高位精霊人がトロールを見ながら、罵った。
「君たち・・・止めにしないか?・・・ね?」
場違いのふわふわなオーラをした若い魔族が二人に向けて、話かけた。
二人はにらみ合ったが、すぐに落ち着いた。
「腐れ亜人同士、潰しあえばいい・・・」
チュウーエン労働者共和国軍の軍服を着た、筋肉質で角刈りの男性が呟いた。
「亜人風情が・・・」
ローシェオ連合帝国の軍服を着た、顔が傷跡だらけの2メートルの大男が更に追い打ちをした。
「止めにしないかと言ったんだが・・・ね?」
ふわふわのオーラが一瞬で得体の知れないどす黒いものに変貌した。
パーザンを含む、宿舎に居た全員が凍り付いた。
「おっとと・・失礼、やりすぎた・・・悪いね・・皆さん。新人が入ったので僕は皆さんを紹介しましょうか?」
全員は頷き、魔族の男性を見た。
「どうも・・先ずはね・・僕はジョイナス・ペリーコンだ、見ての通り、ごく普通の魔族だよ。魔王様の命令で参加した、特技などないし、この特攻・・失礼、この分隊の盛り上げ役に抜擢されたかな?・・・作戦でのコードネームは詐欺師だよ。」
ごく普通の魔族があんなどす黒いオーラを放たないとパーザンは思った。
「パーザン・モンドー・・・オーガだ。」
「へえ・・・あなたはあの有名なガラペラス王の剣を異名に持つ、元近衛隊の隊長だね?」
パーザンは思った、随分と久しぶりに聞いた異名。
「確かに昔はそう呼ばれました。」
「そうか、そうか、現役引退した上、追放されたと聞いてたので・・・会えて嬉しいな。」
それから褐色の肌、緑色の目、短い銀髪の優男の魔族が先に到着していた自分を含む8名の紹介を始めた。
日本語未修正。
ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。