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出会い

私は、ただ見ていることしかできない。


あれから希は、二股男と連絡を取り合うようになっている。


二股男の名前は守口秀介。


あの日から今日で4日になるが、毎日ラインのやり取りをしている。

それほど長いラリーではないが、ちょっとした挨拶みたいなものを毎日続けている。


これは様子を見ているんだろうか。


希の様子には、変わったところは見られない。

ラインが来たからといって大喜びするわけでもなく、だからといって迷惑そうな素振りをするでもない。

普通の友達からラインが来た時と同じような態度で返信をしている。


ただ、それは私が見ていることを意識しているからかもしれないので内心はわからない。

とりあえず、今のところは希の方から先に連絡をすることはない。


そして、私への報告の中にも二股男……守口さん(一応年上なので敬称は付けておく)の話は出てこない。


このままただの友達で終わってくれますように、と私は祈った。


だが、そんなことが叶うはずもない。

相手は希のことを気に入っているのだ。


次の日の連絡で、二股男の守口さんは希を誘ってきた。


「もし日曜日暇だったら水族館についてきてくれない?」


私は、希が断ってくれることを祈った。

でも、また私の祈りは通じなかった。


希は少し嬉しそうな表情で承諾の返事を送る。


希も、少しずつ守口さんに惹かれつつあるんだろうか。


そうして、希が守口さんとデートをする日がやってきた。


もちろん私もその後をついて行く。

希から離れることができない、などという事情がなくても私はついて行っただろう。

何せ、今は誰からも見られる心配がないのだ。

2人のすぐ後に引っ付いて会話を聞くこともできる。

少し罪悪感はあるけれど、それくらい希が心配なんだ。


守口さんは、とても爽やかな風貌で現れた。

高校生の自分から見ると、やっぱり大人っぽく思える。


両親や教師のような完全な大人とは違う、キラキラしたものも感じられる。

それは両親や教師が恋愛対象に入らないからだろうか。


同級生の男子と比べても、守口さんは余裕があって魅力的だと思う。

二股男だと知らなければ、私も応援していたかもしれない。


でも。


この男との関係が深まれば、希は泣くことになる。


私は、それを何とかして阻止したい。

だが、幽霊である自分に何ができるだろうか。


いくら考えても答えは出てこない。

とりあえず、2人のあとをつけて様子を窺うことしかできないんだ。


それはとてももどかしいけれど、できることをやっておかないと後悔するかもしれない。

そんな気持ちで、2人の会話に耳を傾ける。


やはり守口さんは女慣れしているのか、話題が豊富で聞いているだけで楽しい。

希も、楽しそうに笑っている。

これは女性が惹かれてもおかしくない。


だが、だからこそ私の中で焦りの感情が大きくなる。

何とかしないと希が傷ついてしまう。


私は2人の会話を聞き漏らすまいと、かなり近づいて歩いていた。

自分の姿は見えないのだからと、周りを気にせず二人の真横を歩いたりしていたのだ。


そうすると、前から来た人にぶつかってしまった。

21g(まだ量ったことはないが魂の重さが21gだという説がある)の私は、簡単に跳ね飛ばされてしまう。


そして、そんな私に


「大丈夫?」


とぶつかった相手が声をかける。


「すみません」


と私は反射的に返事をする。


——そんなバカな。


どうして私が見えているんだ。

私は茫然とその男性を見上げた。

そして、その男性も私を妙な顔で見つめている。


「あの、スカート……」


と男性が目を背けながら口にする。


ハッとなって自分の姿を見ると、ぶつかって尻もちをついた私のスカートはややはしたない様子になっていた。


私は慌てて「ごめんなさい」とつぶやき立ち上がる。

恥ずかしくはあったが、今の私はそれどころではない。


「私が見えるんですか?」


「うん?何か君、変だね。ぶつかった時の感触もおかしかったし」


人にぶつかったらそれなりの衝撃があるものなのに、21gの私との接触はかなりの違和感だっただろう。

でも、この人は私の存在を受け入れてくれている。

この機会を逃す手はない。



「私、幽霊なんです」


と、希は自己紹介をした。


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