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作戦会議

それから、希たちはカラオケボックスに向かった。


カラオケは楽しいけど、8人もいたらなかなか自分の順番が回ってこなくて暇じゃないのかな?


私はやっぱり2~3人でやるカラオケの方が好き。

クラスのみんなでカラオケに行った時も、歌っている人の方が仲間外れみたいな感じでおしゃべりばっかりだったな。


だが男性陣はこういうことに慣れているのか、自分が歌っていない時はギャーギャー騒いで盛り上げていた。

他の2人もそれに倣って楽しそうにしている。


希と友利さんも同じように振る舞ってはいるが、やはり心から楽しんでいる感じではない。


そんな2人を見て、男性陣の中でも割合イケメンの男が声をかけてくる。


「どうしたの?楽しくない?」


「そんなことないです」


「じゃあもっとリラックスして楽しんじゃおうよ!」


それから一つ二つ冗談を言って希と友利さんを笑わせる。


その様子は気遣いができているようにも見えるが、こういう場面に慣れているとも言える。

気配り上手か女たらしか、経験のない私には判別できない。


それからしばらくすると、女性陣がお手洗いに立った。

厳密にはあの2人がお手洗いに立つ時に希も誘ったのだ。

それを見て友利さんもついて行くことになった。


最後までナンパについて行くことに反対していた友利さんを誘わないあたり、この2人を私は好きになれない。


それはそれとして、これはいわゆる「作戦会議」というものだろうか。


私は、どうしようか迷った。

女性陣の話を聞くか、男性陣の様子を窺うかである。


その結果、私は男性の部屋に残ることにした。

女性の方は、後でもなんとかなるだろう。

何より私は、男性の方の本音を聞いておきたかった。


そうして私の耳に入ってきたのは


「なあ、誰がいい?」


「俺はあの佐久間って子かな」


「でもあの子堅そうじゃね?」


「そういうのを落とすのが面白いんじゃん」


「お前、また結衣ちゃんに怒られるぞ」


「この前はLINE見つかっちゃったからなあ。今度はうまくやるよ」


「懲りねえなあ」


……気配り上手ではなく女たらしの方だった。


しかも別に恋人がいるみたいだ。


信じられない。

こんな奴に希を任せるわけにはいかない。


ちなみに、ノリが悪いということで友利さんが一番人気が低かった。


ルックスだけで言ったら希が一番で友利さんが二番だと思う。

まあこれは主観が入り過ぎか。


何せ希は私の双子の妹だ。

だから絶世の美女ではあり得ない。


……それでも希はかわいいんだ!


いや、それどころではない。


希がこいつを気に入っていませんように、と思いながら女性陣の様子を見に行こうとしたら、すぐに戻ってきてしまった。

そのため、女性陣の「作戦会議」の様子は私にはわからない。


そして、女子が戻ってきた時に男性陣は変に広がって座っていた。

女子を間に座らせて、1対1で話そうという魂胆だろう。


希は、少し不安そうな顔になった。


だが、そこでフロントから電話がかかってきた。


友利さんは時計を見て


「あ、私もう帰らなくちゃ」

と言う。


元々友利さんのノリの悪さを疎ましく思っていた連中は止めもしなかったが、希もそこに乗っかった。


「じゃあ私も」


と言った途端、


「ええ、もうちょっといいじゃん」


の合唱となった。


だが、希はそこでは譲らなかった。

「ごめん」と言いながら友利さんと店を出る。


そうして店の外で希と友利さんと私はほっと息をついた。

二人とも緊張していたのだろう。


それから、二人は帰路に就いた。

その道すがら、友利さんは希に話しかける。


「今日はどうしたの?普段ならあんなのについて行かないでしょう?」


「何となく、ああいう経験も悪くないかなと思っただけ」


そう言って、希は目を伏せる。

それから、しばらく2人は無言で歩いた。


「桜井君のこと、まだ忘れられないの?」


友利さんが、おずおずと口にする。

言ってもいいのかどうか、さんざん悩んだ末の言葉のようだ。


「早く忘れたいと思ってる」


希がそう言うと、また沈黙が訪れる。

良い思い出だけなら、そんなことは言わなかっただろう。


でも、私のせいで希は桜井君にフラれてしまった。

その直後に亡くなった桜井君は、希の中に置いておくには重たすぎる存在になっているんだろう。


その時、時刻は17時30分を回った頃。

辺りは多少暗くなっているけれど、遊びたい盛りの高校生が帰るにはまだ早い時間だ。


だから、友利さんと希が「帰る」と言い出すとは思わなかったのだろう。

カラオケボックスで電話がかかってきた時、受話器を取った男子は当然のように延長を申し出ていた。

二人がそそくさと部屋を出た後、残された人たちは一瞬ぽかんとしてから「何あれ」「感じ悪―い」などと言い合っていた。


そして、希と友利さんは電車に乗る。

重たい空気の中、友利さんが希に話しかける。


「忘れたいから、他の男に目を向けようとしたの?」


希は、それに沈黙で答える。

希自身、それが正しいことだとは思っていないのだと思う。


「だからって……!」


友利さんが声を荒げそうになって、口をつぐんだ。

希の目に、涙が浮かんでいたからだろう。


「そんなに、焦らなくてもいいと思うけどな」


友利さんは、そういって窓の外に目をやった。


「ありがとう」


と希が答える。


死んでしまってから、私は何もできない自分にやきもきすることばかりだ。

何もできないからこそ、私ならどうするだろうと考えることが多くなった。

生きている時は考える前に行動していたからなあ。


でも、今の私は何も考えつかない。

友利さんと同じように、電車の外を眺めることしかできないんだ。



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