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8か月後

私、宇佐美真が高校生活最初の日に交通事故で命を落として幽霊になってから、8か月が経った。

つまり双子の妹の宇佐美希は高校1年生の冬を迎えていることになる。

希は今年、実の姉である私と恋人の桜井君を亡くした。その時には少し危ない状態にもなったが、何とか持ち直して今は元気に学校に通っている。

私が「見守っている」と伝えたことが希の力になっていればいいのだけれど。

 

私は、希からあまり離れることはできない。

だからといって授業を聞いていてもつまらないので、昼間はぶらぶらしている。大体1000メートルくらいは離れられるみたいだ。

自由に動ければ外国なんかにも行ってみたかったんだけど、それでは私の存在理由が満たせないらしい。

希から遠く離れようとすると、本当に自分が消えてしまいそうな感覚になる。

だから私はずっとこの町にいるし、夜には希の部屋に戻ることにしている。

 

希に「部屋の扉を開けておいて」と伝えたのだが、きちんと守ってくれているから私は夜になるといつも希の横にいる。

私が希の自殺を止めた日から、希は部屋で独り言を言うようになった。

いや、それは少し語弊があるな。それは、私に向けての言葉だ。

私が見守っていることを信じて、希はいろいろな話を聞かせてくれるんだ。

私も、そんな時は希の正面に座るようにしている。

 

だけど希には私が見えていないから、不安になるのだろう。

何とか私に触れないかと、手で宙を探ってみる。でも、私に触ることはできない。

私は壁を通り抜けることはできないし、人にぶつかったら突き飛ばされるのに、触ろうとしても触れないのだ。

 

なぜだろうと考えてみたけど、私は星座みたいなものかもしれない。

例えば山羊座を形成する星が一塊の生き物だとしたら、壁をすり抜けることはできないだろう。

でも、山羊座に手を伸ばしても星と星の間の空間を手が通り抜けてしまう。

魂の重さが21gだと聞いたことがあるけれど、分子と分子の間が空いているから軽いのかな?

まあこれは私の仮説に過ぎない。

 

他に何か理由だったり原理だったりがあって、壁を通れないけど人が触れないということになっているのかもしれない。

ただ、見えている時に希が私を抱き締めてくれたことを私は忘れない。

なぜあの時は触れたのか、いくら考えてもわからないけどそんなことはどうでもいい。

あの感触を私は幸せに思うと共に、二度とあんなことがあってはいけないとも思っている。

私が見えたり、私に触れたりする時は、その人が死に近づいている時だから。

希には私の分まで幸せになって欲しい。

だから、私はあの時の幸福感を胸に抱いてこれからも存在していく。

 

それはそれとして、最近の希は私の写真に向かって話しかけるようになっている。

何もないところに話しかけるのはしっくりこないのだろう。

どうせ正面に座っていても目は合わなかったのだから、それで構わない。

私は、希の横でその話を聞いている。

 

桜井君が亡くなってからしばらくは辛い気持ちをこぼしてばかりいたけれど、少しずつ明るい話題が出るようになった。

学校での楽しい話や腹が立ったこと、友達と遊びに行ったことや部活動のことなど。

それらを聞いていると、私は少し安心する。

でも、時々希は涙を浮かべている。

私を思い浮かべているのか、桜井君を思い浮かべているのかはわからない。

でも、そんなに簡単に吹っ切れるものではないのだろう。

 

私は希に幸せでいて欲しいけれど、私のことを完全に忘れて欲しいとは思っていない。

それは寂し過ぎるし、そもそも不可能だろう。

もう8か月なのか、まだ8か月なのか。

16歳の女の子が双子の姉を思い出にするにはまだ早過ぎる。

 

そんなある日、希が友達と街に遊びに行くことになった。

電車で20分ほど揺られて辿り着くそこにはお店がたくさんあって、私も何回か行ったことがある。

陸上ばかりやっていても私だって女の子だ。

街で可愛いものを見ていると楽しいし、お店に寄って友達とおしゃべりをして時間を忘れたこともある。

 

希は、中学時代からの友人の友利さんと高校に入ってからできた友人2人に誘われたのだ。

友利さんはよく気が付く子で希に良くしてくれているので、きっと良い気分転換になるだろう。

あとの2人はよく知らないけれど。

 

そして、これは私にとっても無関係ではない。

希から一定の距離以内にいないと、おそらく私の存在は消えてしまう。

人間で言うところの「死」に至ってしまうのだ。

希から離れてみた時の苦しみは、まさに首を自分で締めているようなものだった。

だから、希が出かけるのなら私もついていかなくてはいけない。

 

私は、こういったことを把握するために希の予定を全部知っておかなくてはいけないのだ。

そう言えばこの学校は高校2年生の10月に修学旅行がある。

当然私はそれにもついていかなくてはいけない。

希から離れてしまったら、私の存在が危うくなる。

希が周りの人としている会話も聞くことになるが、それも仕方がない。

 

桜井君が亡くなった時の希との会話で、私は希から一定距離しか離れることができないということを伝え忘れてしまった。

それを伝えていたら、気の利く希は私の写真に向かってお出かけの予定を話してくれていただろう。

でも迂闊な私のせいでそれが期待できないから、普段から希の会話を盗み聞きしておかなくてはいけない。

 

そして、誰からも認識してもらえない私は希が遠出するのを楽しみにしている。

私には、それくらいしか日々の生活に変化がないのだ。

 

そうして、希が出かける日がやってきた。



感想が、感想が欲しいですう。つまらないというのでもいいのです。何か教えて下さい泣

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