58. ガンザス
師匠の蹴りが腹部に突き刺さり目が覚める。
師匠の分体の寝相は非常に悪い。
「師匠、起きて」
「アキラか。おはようなのじゃ」
ボサボサの髪を溶かして、固く絞ったタオルで顔を拭いてあげる。
まるで、小さな妹の世話をする兄の気分だ。
「おはよう。師匠。朝飯行くか」
昨晩、ミコト様からもらった弥生と卯月を使いたい欲求に駆られるが、まずは腹ごしらえだ。
俺たちはギアナと合流し、朝食にする。
朝食はハムエッグに固いパンと薄い塩味に気持ち程度のスパイスが入ったスープ。
パンはスープにつけて食べると柔らかくなるから食べやすい。しかし、あまり美味しくない。
「葉隠の料理が食べたいのじゃ」
それには激しく同意するよ。
とりあえず腹もふくれたし、砂漠に向かう。
砂漠側の関所でガンザスと合流する。
ガンザスは2頭のラクダを連れており、一頭には大量の荷物が積んである。
「おい、小僧。その軽装で砂漠に挑むつもりなのか?」
「ああ、気にしないでくれ、水も食料もちゃんと持っているから」
そう言って、レッドルースターの肉を取り出してみせた。
「ど、どこから出した?」
「葉隠流の忍術の秘技だ。気にしなくていい」
実際は、ソラちゃんの神空間収納から出しただけだが、アイテムボックス持ちがほぼいない世界で、この能力は隠しておくべきだ。
元近衛騎士団長とはいえ、昨日会ったばかりのガンザスをそこまでは信用できない。
「暑くなってきたら、日陰を作って休憩にする。ダンジョンまではおおよそ3日。夜の間は魔物が活発になるが、距離を稼ぐためにできるだけ移動する」
「OK。砂漠は初めてだから、ガンザスに任せるよ」
「では、出発だ」
王都から出てしばらくは植物がちらほらみられる。
本格的な砂漠に入るのは午後かららしい。
歩きながら、ガンザスに魔法のランプが盗まれた状況を確認する。
「ガンザス、季節外れの降雨の儀式というのは珍しいことなのか?」
「ああ、俺が近衛騎士団に入隊した頃から聞いたことがないな」
「じゃあ、なぜ宰相はこんな時期に降雨の儀式を?」
「俺も詳しくは知らないが、リーカという神様を信仰しているリーカ教団が関わっているらしい。4ヶ月前に、トリプレットデザートで奇妙な病気が広まったんだ。最初は手足の痺れを訴える人が数人現れた。それから、熱のような症状の者が出始めた。大抵の人たちは自然に回復したが、2ヶ月前あたりから、重篤化する者も現れ始めた。そんな折にこれらの症状が魔法のランプによって引き起こされているという情報がリーカ教団からもたらされた」
「急だね。そんなに怪しい集団を信じたのか?」
「確かに怪しいが、リーカ教の司祭が重篤化した城下町の人たちを治療して回ったため、その情報を信じるものが増えていったんだ」
「なるほど、誰も治療できない未知の病を治療して回ってれば、信頼もされるか・・・ますます怪しい気もするが」
「そうだな。確かに怪しい。そして、1ヶ月前に王女様がその病を発症した」
「なるほど、未知の病、それを唯一治療できる司祭、そして王宮の重要人物の発症。その原因を魔法のランプに溜まった魔素のせいとする。すると、ランプに溜まった魔素を消費するために、季節外れの降雨の儀式を行うことになったということか」
「よくわかったな。その通りだ」
確かに、王女様の原因不明の病は過剰な魔素が体を蝕んでいるものだった。
なので、俺の撮影者で撮影することで、多少改善した。
その原因が魔法のランプに溜まった魔素のせいであるというのはなきにしもあらずなのか?しかし、特定の個人だけが影響を受けるというのも解せない。
「王女様だけが魔素に蝕まれたことについてはなぜかわかっているのか?」
「ああ、俺たちもそこに疑問を持った。魔法のランプが原因なのだとすれば、城中の者たちが魔素に蝕まれてもおかしくはないからな。なぜか王女様1人だけが発症したんだ」
「リーカ教団の司祭が治療はしたのか?」
「ああ、リーカ教団の司祭が診察したところ、今までの病とは比べ物にならないほど病魔に侵されているため、魔法のランプの魔素を使って原因を取り除くしかないと言い出したんだ」
「それが、季節外れの降雨の儀式の理由か」
「ああ、しかし、今の時期に降雨の儀式を行うと、作物の栽培に必要な時期に降雨の儀式ができなくなる。すると、不作になり国民が飢えることになってしまう」
だんだん読めてきた。
王女を救うための儀式は国民を苦しめることになる。それを阻止するためにAランク冒険者のアラジンが魔法のランプを盗んだというのが真相っぽい。
「宰相は、王女様の命が最優先だと儀式を強行に進めていた。それに心を痛めておられた王女様が儀式を阻止して欲しいと俺に頼まれてな」
王女様は自分の命よりも国民を大事にする人のようだな。
いい国じゃないか。宰相のジャファルが少し気になるが、一番怪しいのはリーカ教団だよな。
「アラジンと共に魔法のランプの奪取計画を実行したのが、約1ヶ月前のことだ」
あ、犯人いたよ。
そりゃ、警備の責任者とAランク冒険者がグルになれば盗むのは容易だよね〜。
「それで今アラジンは?」
「今から向かうダンジョンの奥で魔法のランプを守っている」
「それを今俺に伝えたということは、ガンザスたちの仲間になれと言っているように聞こえるけど」
「話が早くて助かる」
「それで、昨日の酒場で話しかけてきたのか」
「冒険者登録でいきなりAランク入りした冒険者に、本気でダンジョン攻略されたら困るからな」
ガンザスはそう言って笑った。
今の話を聞いて、魔法のランプを宰相に渡すのはよく無さそうだけど、冒険者の最初の仕事を放棄するのもな・・・
よくよく考えると、王女様の過度の魔素蓄積を解決できれば、宰相も魔法のランプで儀式をする必要がなくなる。すなわち、アラジンもガンザスも魔法のランプを隠す必要がなくなるわけで、俺の依頼も遂行できる。もしくは、魔法のランプと王女様の病気が関係ないことがわかればいいというところだな。
「OK、一旦、魔法のランプの奪回は保留にするよ。その代わり、王女様の病気の原因とその回復方法を一緒に探して欲しい」
「願ってもない。こちらからお願いしたいほどだ」
ガンザスがこちらに手を差し出す。
俺もその手を握る。
「腹が減ったのじゃ」
師匠の一言に苦笑いのガンザスを尻目に、俺は昼食の準備を始めた。
レッドルースターに、塩・胡椒・クミン・コリアンダー・ターメリック・唐辛子の粉をまぶしてよく揉み込む。15分ほど置いておく。
その間に、折りたたみの焚き火台を組み立てて、炭火を起こす。
ちなみに、スパイスと炭は王都で手に入れた。もちろん、粉末になる前の実も購入して、葉隠のフクさんに送っておいた。葉隠に帰ったらカレーを作ろう!
だいたい、これだけスパイスが揃っているのに、塩味が薄いため、この国の料理はあまり美味しくないんだよな。
とか思いながら、串に刺したレッドルースターを炭火で焼いていく。
スパイスの匂いが腹にくるな〜。
マントをそこらの棒を立ててタープとして使い日陰を作っておく。
これで、快適な食事が楽しめるな。
「おい、俺らは、砂漠を旅しているんだが・・・」
「うまい食事は譲れないんだよ」
レッドルースターの焼ける匂いにつられたのか、レッドテールスコーピオンが岩陰からわらわらと出てきたのを忍者刀で突きさして倒していく。
こいつらもうまいってころらしいけど、ちょっと抵抗があるんだよな。
海老だと思えばワンチャンいけるか・・・
「このサソリも数が集まるとBランク冒険者が苦労するレベルなんだがな。Aランク冒険者の実力があるのは間違いないらしいな」
「まあ、ね」
俺は、レッドルースターのタンドリーチキンが焦げないように串を回してはサソリを殲滅していく。
ガンザスがサソリの尻尾を切り分けて処理してくれた。
それを全てソラちゃんの神空間収納に格納する。
お昼ご飯、硬めのパンにタンドリーチキンが完成。
「それじゃ」
「「「いただきます」なのじゃ」」
「おい、このスライム喋ってないか?」
「うちのソラちゃんです!とっても可愛いんですよぉ」
「ソラだよぉ」
「親バカがでおった」
「お、おう、そうか。よろしくな」
さて、タンドリーチキンのお味は・・・・
「「「うまい」」」
レッドルースターの肉汁が溢れて、スパイスが旨味を引き立てる。
パンが硬いのがちょっとイマイチだが、味は悪くない。
炭火で焼いているので、皮がパリパリだ。この香ばしさがたまらない。
「これは、うまいな。酒が欲しくなる。いや、おかしいだろ。俺たちは今砂漠を旅してるんだぞ。こんな・・・」
ガンザスが混乱している。
とりあえず、ダンジョンまでこんな感じで進めたらいいなぁ。




