56. ダンジョンにいくことになりました。
「なに、簡単なことじゃ。こやつにダンジョン攻略を依頼すれば良いのじゃ」
師匠、やめてください。こんなところでそんなことを言ったら・・・
「聖女様の御付きの者だな。お前は強いのか?」
「いえ、そんなことは・・・」
「こやつは強いぞ。なんせ登録初日でランクA冒険者になった男ぞ。フフフ」
「Aランク!?」
「それは本当か?」
「登録初日でAランクなどあり得るのか?」
ざわざわ
ほら、ざわざわするじゃない。
「今はそんなことを確認しておる場合ではない。この者がダンジョンを攻略できる可能性があるということが重要じゃ」
ああ、ダンジョン行く流れが出来上がっていく〜
しかし、聖女様こと桔梗が一緒にいればたいていのことは簡単に解決するからな。なんせブラックドラゴンだし。
「私は、バドゥール王女様の容体と結界を維持ずるためにここを離れられません。ダンジョンの攻略はあなたに任せますわ」
聖女づらで桔梗がそう言って、耳元で囁く
「我が行っては面白くないであろう?それに気になることもある。我はこちらを受け持とう。そして、」
そう言うと、おもむろに俺の胸に手を置くと、
「もっと面白くしないと・・・な」
一瞬俺の体が光った。そして、いつもより体が重い。魔素の流れも悪くなった。
「我もお主が強くなるために力を貸してやろう。九尾のがつけておる制限の上に我の制限をつけておいた。これで、いつも通りに動けるようになれば、お主はもう1段階上の強さを手に入れられるという寸法だ」
「寸法だじゃねーよ」
要するに重り倍増、魔素の循環速度が半減している。なので、現状俺の機動力は25%。弱くなってるじゃねーか。なんの罰ゲームですかね?
「それでは、アキラ、ダンジョン攻略を頼みましたよ」
くそ、聖女のフリが板につき始めているのがムカつく。
師匠だけでも振り回されているのに、ブラックドラゴンにまで振り回されるとか・・・、そもそもの話、神様に振り回されているんだった。今更だな。
だったら、全力でダンジョン攻略とやらを楽しんでみるとするか。
俺と師匠はダンジョン攻略の準備をすると言って街に戻ることにした。
支度金として10,000Gを用意してくれた。
砂漠といえば、日中暑くて夜間は寒い。
そして、一番対策すべきは日差しだ。肌の露出が致命的となる。
日中は極力移動せず、日没まじかから夜行動することになる。
そして、大量の水が必要だ。1日あたり1人5リットルの水を確保する。
ダンジョンまでの距離はラクダで3日ほどかかるらしい。
ダンジョン攻略に3日かかるとして、帰りの分を用意すると。
1人45リットル。師匠の分を合わせて90リットルだ。
ソラちゃん? 食事はするけど、基本魔素があればOK
そういう意味だと師匠も魔素を使った分体なのでOKなのだが、多分、妾も飲みたいのじゃ!とか言って俺の水が取られるのが目に見える。
それから、食料。トリプレットデザートでは、鶏肉が主流である。
レッドルースターというCランク冒険者であれば難なく倒せる鶏の魔物の肉が安く手に入る。レアな肉としてはブラックルースターというBランク冒険者相当の実力がいるが、その分美味な鳥の魔物もいる。最高級ランクとしては、コカトリスの肉もある。Bランク冒険者が5人がかりでようやく倒すことができる魔物で、石化の能力を持つ。その肉は旨みが強く、塩を振って炭火焼きにするだけで絶品らしい。なかなか手に入らない上に命懸けの討伐となるため、ほとんど流通していないということだ。
他にも、大型のトカゲの魔物であるバジリスクや洗面器大の蠍であるレッドテールスコーピオン。牛ほどのサイズのファティッシュスコーピオン。そして砂漠の食物連鎖の頂点に立つサンド=ラグという巨大ミミズがいる。
どれもうまいらしい。サンド=ラグを食べた両方の意味でのツワモノがいたということに驚いた。
後は、ダルと呼ばれるいろんな豆があった。残念ながら大豆はなかった。
一旦、ソラちゃんに神空間へ収納してもらう。
一通りの買い物を終えて、宿屋の食堂でギアナを待つことにした。
「黒髪に黒目たぁ珍しいな。よう坊主、誰か待ってるのか?」
左目が傷で開かない厳つい顔のおっさんが話しかけてきた。
「ああ、連れが用事で出ているのさ」
「おう、そうか、じゃあ一杯奢らせてくれや」
「酒は飲めない」
「ガハハ。みりゃわからぁ。おめぇさん、この街は初めてだろ?王都ではミントティーってのが流行ってるんだぜ。それにちっちぇえお嬢さんもいるしな」
「で、俺になんのようだ?」
「ああ、冒険者ギルドで、今日試験を受けていきなりAランクになった冒険者がいるって聞いてな。そいつが黒髪黒目の坊主だって話だ。興味本位で話しかけてもバチは当たらねぇだろ?」
「別に、俺はAランク冒険者になりたかったわけじゃねぇよ」
「そう言うなよ。お前さん、ダンジョンに行くんだろ?」
「な、」
「フハハ、素直すぎるぜ。もう少しポーカーフェイスってやつを覚えた方がいいぜ」
「ふあぁぁ」
師匠が退屈して眠そうだ。
「あそこには、盗まれた魔法のランプがあるって話だ。その魔法のランプは、ある呪文を唱えながら擦ると中から魔人が現れて、なんでも3つ願いを叶えてくれるんだってよ。3つ願いを叶えた魔神は解き放たれ、世界が滅亡するっていう。まぁおとぎ話なんだがな」
「で、その願いはいくつまで叶えられてるんだ?まぁ、想像はつくけどさ」
「察しがいいな。2つすでに叶えられている」
「しかし、毎年魔法のランプを使って降雨の儀式ってやつが行われてるんだろ?それじゃ話が矛盾するじゃないか」
「そうだな。魔神に願えばそうなる。しかし、魔法のランプに蓄えられた魔素を使って儀式魔法を行う分には問題ないのさ」
「あんた、妙に詳しすぎないか?」
「そう言うところだぞ。素直すぎる。目の前の相手に疑ってますって言っても何も変わらないさ。ま、信じる信じないはお前さん次第ってやつだ」
「でな、1ヶ月前に、急に宰相が季節外れの降雨の儀式をすると言い始めた。で儀式の途中で魔法のランプが盗まれた。Aランク冒険者アラジンによってな」
「それを俺に教えてあんたは何がしたいんだ?」
「まぁ、なんだ、俺を一緒に連れて行かねぇか?」
「嫌だね。怪しすぎる」
「まぁ、そうだわな」
俺のことを素直すぎるというが、このおっさんも大概嘘つけないタイプに見えるけどな。
「あら、珍しい人と一緒にいるのね」
「ギアナ」
「近衛騎士団長、ガンザスさん?」
「元、だ」
「なるほどね。だからダンジョンに一緒に行きたいってわけだ」
「ま、そう言うことだ」
頭をポリポリと掻くガンザス。
察するに、儀式の際に会場を警備していたのは近衛騎士団だったのだろう。
その騎士団長が元になってるってことは、魔法のランプを盗まれた責任を取らされたと考えるのが妥当だろう。で自分の力で魔法のランプを取り戻したいと言うそんな感じだな。
「OK、そう言うことなら一緒に行こうか。アキラだ」
「ありがとよ。坊主、いやアキラだな。遅くなったがガンザスだ」
ガンザスと俺は明日の正午に王都の砂漠側の門で待ち合わせることになった。
「あー。お腹すいたわ。でアキラくん。君壮大にやらかしてくれたみたいね」
「いや、俺のせいじゃなくて、桔梗が・・・」
「シャラーップ。・・・・なんてね。ブラックドラゴンを仲間にした時点でしょうがないと思ってたけどね。じゃあ現状を教えて欲しいな」
俺は、ギアナと情報交換する。
謎は3つ。
・なぜ宰相は季節外れの降雨の儀式を実施したのか?
・人望の熱いAランク冒険者のアラジンがなぜ魔法のランプを盗んだのか?
・王女の過剰な魔素の吸収は本当に魔法のランプのせいなのか?
その全ては、ダンジョンで魔法のランプを手に入れれば解けるのだろうか?
相談した結果、ギアナは王都へ残り季節外れの降雨の儀式の謎について情報を集めることになった。王女の過剰な魔素の吸収については桔梗が動き始めている。
そうなると、情報交換できる術が必要になる。
「ソラちゃん。ギアナに分体をつけられる?」
「いいよぉ」
ぷよんぷよん。
「きゃあ!私のソラちゃん!ずっと欲しかったんだ」
これで、ギアナと離れていても情報交換ができる。
あとは桔梗だな
『あー、あー。テス、テス。ただいまマイクのテスト中。アキラよ聞こえますか?私は今あなたの心に直接話しかけています。』
うわ。びっくりした。
『何やら我と話したそうな気がしてな。』
「どうやって念話を・・・」
『お主に制限を施した時にちょちょッとな』
もうなんでもありじゃん。制限のおかげですげー動きづらいし。
『王女の件は我に任せよ。そして、ギアナ。そちらの情報が集まり次第宮殿に来るのだ。』
なんで、ギアナとも話せるんだよ。
『ソラ分体:ギアナの通信回路をハックされています。遮断しますか?』
メーティスさんがしれっとすごいことをおっしゃられている。
ハックしましたとか。桔梗ヤバすぎだろ。今は都合がいいけどさ。
方針が決まったところで、明日に備えて寝ることにした。
え、部屋?もちろんギアナとは別々ですよ?
師匠は、もちろん、一緒ですけど何か?




