55. ギアナの商売
私は、ギアナ。このトリプレットデザート王国と葉隠を往復して行商をしている。
いつもは1人で往復しているのだけど、今回はアキラ君と一緒に帰ってきた。
出会って1ヶ月しか経っていないが、彼がきてから葉隠の里が大きく変わった。
アキラ君は、見たこともないような料理やキャンプ道具なるもの、折りたたみ自転車という道具まで作り出している。
ライゾーおじさんとダリアおばさんがコーヒーとパンにのめり込んでいるのも驚いた。まるで別人だった。
もう一つ変わったことといえば楓様。ほとんど九尾稲荷大社から出てこなかった楓様が、アキラ君がきてから毎日のように里に顔を出し、楽しそうにアキラ君で遊んでいた。
彼にはこの世界を変える力があると私は見ている。アキラ君の作り出す商材は非常に魅力的だ。それ以上に、彼を野放しにしてはいけないと商人の勘がつげている。
その勘に従い、アキラ君の度に同行することにしたのだけど、この3日間で怒涛のイベントラッシュ。そして今、トリプレットデザートで3本の指に入る商会のトップであるククリさんと向かい合っている。
「ヴィリジアンヴィレッジ、いえ、今は元の葉隠の里でしょうか、そこで作られる道具や食材を専売で輸入させていただく。その際の売り上げの10%をギアナさんへ支払う。そして、転移陣の利用料が50%で使わせていただくということでよろしいでしょうか?」
「ええ、それで合ってるわ」
「これが契約書です。間違いなければ、お互いにサインを」
・・・・
「これで契約成立ですね。あそこでゴブリンに襲われていなければ、このような機会は得られなかったのですね。人生なにが起こるかわからないものですね」
「ええ、本当に。まさかブラックドラゴンと出会って、仲間になるなんて・・・」
「アキラさんの度量の広さには驚かされますね。相当な強さをお持ちのようで、行商の際には彼のような方が護衛を引き受けてくれたらと思ってしまいます」
「はははは」
なぜか乾いた笑いしか出ないわ。
「彼は、冒険者ギルドに冒険者登録に行ってるのですよね。彼ならすぐに高ランクの冒険者になれると思います。そういう方に投資しておくのも商人の務め。あなたのようなお美しい商人が側におられるのですから彼は幸せですね」
美しいなんてそんな本当のことを・・・うふふ。
「私も冒険者へ投資しておりまして、この王都唯一のAランク冒険者のアラジンというのですが、この数ヶ月連絡が取れなくなっているのです」
「ええ?あのアラジンに?」
「アラジンをご存知ですか?」
「もちろんです。この国でアラジンを知らない人はいませんよ。貧民街から冒険者として身を立てて、この国一の冒険者になった英雄譚は酒場でも人気です。生ける伝説じゃないですか!まさかククリさんがパトロンだったなんて」
「彼は、とても義に熱く、誠実な男です。現在、冒険者登録を10歳からできるようになったのは、彼の提案によるものなのです。何より貧民街の子どもたちのことを思っている。そんな彼が1ヶ月も連絡が取れず、貧民街にも顔を出していない」
「何かに巻き込まれた・・・。とククリさんは考えられているのですね?」
「そうなのです。そして、アキラさんにアラジンの捜索をお願いできないかと考えているところです」
そういう依頼は冒険者ギルドの領分だと思うのだけど、冒険者に直接依頼する場合、冒険者ギルドを通せない理由があると考えるのが妥当ね。私にも一つ心当たりがある。
1ヶ月前の「魔法のランプ盗難事件」
とある冒険者によって季節外れの降雨の儀式の最中に魔法のランプが盗まれた。
その犯人とされる冒険者がアラジンだった。当時、冒険者ギルドNo1のアラジンが王宮の神器を盗んだというニュースが衝撃を持って民衆に広まった。
その後、アラジンの所在がわからなくなった。
「私も、商人の伝手を使って探しているのですが、その手がかりすら見つからないのです。エースもビーツも方々を当たってくれているのです。私はアラジンが理由もなく神器を盗むとは思っていません。彼はこの国の英雄なのです」
弱き人々の依頼を率先して受けるAランク冒険者。
アラジンの人気は非常に高い。そして、バドゥール王女と恋仲にあるというのは、市政の間の噂話として人気が高い。そんな彼を慕う庶民は多くいる。その評判が邪魔だと考える者がいるのも必然だと思う。
「わかりました。アキラ君に伝えておきます。その際の報酬はこのくらいでいかがでしょう」
「妥当な金額ですね。さすがは、ギアナさん」
(こちらの想定金額の上限をついてきますか・・・このくらいでなければ、依頼するに値しませんからね。)
・・・・・・・・
・・・・・
・・・
ククリ商会を出て私は冒険者ギルドに向かう。
「やあ、ギアナさん。アキラさんたちは王宮に呼ばれて行ったよ」
「ええっ!?ちょっとエース。それどういうこと?」
カクカクシカジカ
「はぁ。どうしたらそういうことになるのよ」
「いやぁ、桔梗さんはアレだし、登録したての冒険者に絡むのは、なんというか洗礼みたいな者だしね。ヌイセマカも空気読めない奴だからなぁ」
あいつはあいつで、たまーには役に立つこともあるんだぜ。とエースとビーツ。
「それで、アラジンについて教えてくれないかしら?」
「ああ、アラジンさんについてだな。わかっていることはそんなに多くないぜ」
「そうだな、街の中にはいないだろうな」
「俺たちで虱潰しに探したけど見つからなかった」
「森側も形跡なし」
「森なので全部は調べきれていないが、あっちは関門があるからな。アラジンが通った形跡はなかったんだ」
「疑わしいのは、砂漠の奥のオアシスにある遺跡のダンジョン。しかし、砂漠を1人で突っ切るのは、いかにアラジンさんでも難しいだろうな」
「それじゃ、アラジンがどこにいるか・・・」
「ああ、見当もつかない」
冒険者・商人の情報網は広い。それでも見当がつかないということは、誰も知らないような場所にアラジンがいるのか、それともすでに・・・。
アキラ君と連絡が取れない以上、私は独自にアラジンの情報を集めることにしよう。




