50. 人助け
日が落ちる薄暗い闇の中1台の荷馬車がゴブリンに襲われている。
多少の腕に覚えのある冒険者が2人が必死に荷馬車を守っているが、他勢に無勢。
近づいてきたゴブリンを倒すので精一杯な様子。
気配察知で全容を把握する。
ゴブリンが30匹。ゴブリン同士の連携が取れていないのが救いだな。
彼らまでの距離は2kmくらいだろうか。
自分の荷物をギアナに預けて、全力でダッシュする。
ゴブリンは俺よりもだいぶ弱いので、睦月の武器化が可能だとメーティスさんが教えてくれた。もちろん、武器化する。
撮影者 発動
換装 睦月
起動
睦月が籠手に変化する。気絶させることが目的のグレーグリズリー戦とは違い、今回は殲滅戦だ。遠慮なく仕込み刃を出す。魔素を込めると刃が飛び出す仕組みだ。
2kmを1分で走破しつつ、道すがらのゴブリンを1撃で沈めていく。
人型の魔物を屠るのは初めてだが、ここで逡巡しては助けられるものも助けられなくなる。ここは、心を鬼にしてヒャッハータイムを楽しもう。
隠密も発動しているので、ゴブリンは死ぬ瞬間まで俺に気づかない。
周辺のゴブリンを屠りながら円を描く軌道で中心の馬車に向かう。
それにしても、睦月はすごいな。撮影して魔素を吸収するように、屠ったゴブリンの魔素を吸収している。屠るほど睦月が強化されていく。もう一つ。スキル故か、耐久力という概念が存在しない。刃こぼれもしない。撮影だけのスキルと聞いた時は絶望したが、今はかなりの強スキルだと思う。
全てのゴブリンを倒して、荷馬車に合流する。
「ありがとう。助かった」
「どなたか存じませんが、ありがとうございます。助かりました」
「いえ、通り道でしたので」
・・・・・・・
「あの、その顔は・・・」
俺の顔にはくっきりと平手打ちの跡がついている。
ギアナに「揉むぞ」と冗談をいったら、思いっきり引っ叩かれた。
かっこいい登場シーンが全て台無しだ。
くそう。
ズシン。地面が揺れる。
全てのゴブリンは倒したはずだが、なんだ?
気配察知でもゴブリン以外はいなかったはず・・・
目の前にいる襲われていた冒険者たちの顔が真っ青になっている。
「うし、うし」
牛?
いや大体わかってる。こういう場合のうしは後ろと言いたいが言えない状況であることくらい。お約束的展開だからね。
俺は、そっと後ろを振り返る。
後ろにいたのは黒いドラゴン。
「ブラ、ブラックドラゴンだ」
解説ありがとう冒険者Aさん。いい仕事です。
ゴブリンの死体に釣られてきた?ドラゴンが?
「懐かしい匂いがしたと思ったのだが、小僧お前は九尾の関係者か?」
ドラゴンから話しかけられる。
わー、師匠のオトモダチ案件だったわ〜。原因、俺でしたわ〜。
旅に出ていきなりドラゴンエンカウントとか、死ねってことですかね?
話ができるっぽいし、穏便に済んだらいいな〜という淡い期待と共に丁寧に回答しよう。
「はい、楓様の弟子のアキラと言います。ブラックドラゴンさんはどうしてこちらに?」
「ガハッハッハ、九尾のヤツの弟子か。それは面白い。奴が弟子をとるとはな。何にも興味を示さなんだ奴が・・・我もお主に興味が湧いたぞ。それでは、アキラよ。お主の力を試させてもらうぞ」
やっぱりね。そういう流れになるよね。
まあ、オトモダチ案件(良)の方向ぽいのでまだセーフだ。
ヤツの弟子か、それでは死ねってならなだけでもありがたい。
了承の意を込めて武器化した睦月を構える。
『告。対象がゴブリンからブラックドラゴンへ変わったため、武器化が解除されます。』
・・・嘘だろ。
とりあえず、葉隠でダーシュにもらった忍者刀を構える。
「来い、小僧」
「行きます」
魔力操作で、魔素の循環を最大限に引き上げ、忍者刀にできる限りの魔素を込める。
ここまでやると、大岩がまるでバターかのように簡単に切れる。
普通に切り掛かっても対応されるだけなので、高速で動きながら
できるだけ弱そうな部位である首を狙う。
冒険者A:「ドラゴンと戦うなんて無茶だ」
冒険者B:「き、消えた」
やばい、冒険者AとBのモブ力が高すぎて気が散る。
ドラゴンの視界から瞬脚を使って逃れる。
隠密を発動させて、少しでも気配を消す。
ブラックドラゴンが息を吸う。
「おい、お前ら、全力で逃げろぉ」
ブラックドラゴンの攻撃を引きつけるために荷馬車とは別の方向に全力で移動する。
ブレスが俺に襲いかかる。
撮影者、起動。
換装 如月。
ブラックドラゴンのブレスを躱したあと、カメラを向けて一枚目を撮影する。
逃げ回りながら魔素表示はONで画像を確認する。首と顎のちょうど境目あたりに魔素が濃く溜まっている。どうやらそこが弱点のようだ。
「我のブレスを避けるか。良いぞ」
俺は、最大強化した忍者刀で弱点となる部位を切り裂く。
ピキッ。
「グオォォォォォォ」
ブラックドラゴンさん?様子がおかしいですよ?
さっきまで理知的であったブラックドラゴンが今は怒り狂っている。
どうしてこうなった?
『告、マスターの攻撃により、最も強度の低い鱗“逆鱗“に傷をつけることに成功しました。それにより、ブラックドラゴンがバーサーク状態へ移行しました。なお、武器化に必要な撮影枚数はあと14枚です。』
メーティスさん。それ攻撃する前に教えて欲しかったよね!
文字通り竜の逆鱗に触れたというやつだ。
やばい、やばい、やばい。
さっきよりも動きが早い。しかし、バーサーク状態なので、単調な動きだ。
これなら、避けられる・・・が、避けるので精一杯。
撮影なんてしている余裕がない。
「ちょっと、どうなってんのこれ。なんでブラックドラゴンと戦ってるのよ!!」
ギアナ。今は解説している余裕がない。それから離れとけ。
ブラックドラゴンの攻撃を躱す。躱す。
・・・・・・・
「くっ。リミッターを解くしかないか・・・」
妄想乙とか言うのやめてください。
厨二病患者発見とかもいらないから。
「制限解除」
魔素の循環速度と循環量の第一制限を解除する。
俺は、体の負担を増やすため、師匠から魔素循環を常に制限されている。
常に負荷をかけることで体を強化し続けるということらしい。
ついでにとそれぞれの制限には重力を増す効果も付加された。
どんだけ鬼だよ。と師匠に抗議したら「お主のためじゃ」と殴られた。
アクセルで大体250kg相当の重力と魔素制限25%の負荷になる。
それを解除することで、移動速度・攻撃力・防御力・思考加速が大幅に強化される。
しかし、この出力に体が悲鳴をあげているのも事実。師匠からは、よほどのとき以外は使うなと厳命されている。
これで、少し余裕が出た。
換装 睦月
撮影カウントの条件
目にピントが合っていること。
写真に全体の8割が入っていること。
なお、被写体が画面の中で小さすぎる場合はカウントせず。
なので、どデカいブラックドラゴンを近くで撮影するには広角レンズが必要になる。
そこで、俺は睦月にレンズを切り替えて、20mmでブラックドラゴンを撮影する。
13、12、10・・・
カウントが飛んだ。
『告、構図、被写体のサイズ感、陰影等が一定条件をクリアした場合、クリティカル判定となります。複数枚の写真としてカウントされます。』
クリティカル判定。写真がいいと枚数が稼げるシステム!!
いや、待て、こんな極限状態で構図や被写体のポージングにも気を配れと?
クソ仕様ぶっ込んでくるなよ。いや、カウント速度アップなので、やり込み要素と見るべきか・・・
5、3、2、1・・・0
来た。換装 如月
起動
如月の武器フォームは忍者刀。短剣サイズから日本刀サイズまで刀身が伸縮する。
短いほど攻撃力が高くなる。
日本刀フォームでブラックドラゴンへ切り掛かる。
ブラックドラゴンの腹部が切り裂かれる。
なんとなく、このドラゴンさんは悪いヤツではなさそうなので、ちょっと衝撃を与えて、正気に戻ってもらおう大作戦だ。
ここは、かっこいいセリフでも言ってみますか。
「準備は整った。さぁ、ラストダンスの時間だ」
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