5. ガウスにやってきました。
5話目です。
やっと異世界に到着しました。
気づいたら、俺は林と草原の境目に立っていた。
空は、青く晴れていて、白い雲がいくつか見られる。気温も春先のような暖かさだった。
街中とは違った草木の匂いが充満している。
「確か、最初に向かう場所は、世界樹に守られた村“ヴィリジアンヴィレッジ“だったよな」
独り言だ。誰が聞いているわけでもないが、なんとなく口から出ていた。
そういえば、世界樹の麓にあるから、世界樹を目指して進めばいいとミコト様は言っていた。
草原の先には湖が広がっている。視線を右に向けると、世界樹が見えた。
「でかっ!」
思わず声が漏れる。これは仕方ない。根本に小さく家らしきものが見える。多分、あれがヴィリジアンヴィレッジという村だろう。根っこの高さと家の高さが同じくらいに見える。パッとみたところ、東京スカイツリーは余裕で超えてそうな大木だ。さすが世界樹。スケールが違う。
世界樹のおかげで、目的地は簡単に見つかった。
さて、次は、自分の確認をしないといけない。
「ステータス オープン!」
・・・・・・・・・・・。
何も出てこない。さも異世界転生したらこれでしょう的なドヤ顔でやってしまった。これは恥ずかしい。
1人でよかった。そんなに簡単にステータスなんて見れない仕様なんですね。
これは、ここで入念に色々と確認しておいた方がよさそうだ。人前でやらかしたら恥ずかしくて死にたくなりそうだし。
「まずは、持ち物の確認だな」
格好は、死んだ時のままだな。13歳になっているので、多少だぶついているが、捲れば問題ないか。
そして、スリング鞄がある。中には、財布、スマートフォン、鍵、モバイルバッテリー、ティッシュにハンカチが入っていた。カメラとレンズはなかった。これは、スキル化されたからだろう。
スマートフォンはもちろん圏外。スマートフォンが使えて無双するぜヒャッッハー!とはならないようだ。
財布も中に入っているのは日本円。この世界で使えるはずもないな。
鍵は、キーフォルダーとして使っていた小さな十得ナイフが付いている。
「十得ナイフは、使えるかもしれないな」
まぁ、何もないよりはマシ程度ではあるけどね。
そう思って、鍵から取り外し、ジャケットのポケットに入れようとした。
「うぉ」
ポケットの中にマシュマロのように柔らかく、ひんやりとした感触があった。
忘れてたよ。魔改造スライム3号君だ。
そっと手に取ってみた。
手のひらサイズのわらび餅?水万頭?そんな感じだ。
つんっと触ると、ぷるんと揺れる。なんという柔らかさ。
何回か、つんつんと触っていると、嫌だったのか、触手みたいなのにペチンとやられた。
動いた!ちょっと可愛い。
「確か、解析・鑑定を持っているんだっけ?あと、神空間への収納と物理攻撃耐性と魔法攻撃耐性だったかな」
どうやって使うんだろう?というか、意思の疎通ができるのだろうか。
「魔改造スライム3号君。解析・鑑定」
魔改造スライム3号君がうっすらと光った。
なんか、解析・鑑定できてるっぽい。しかし、それだけだった。
鑑定できても、内容がわからなければどうしようもない。
これは詰んだのではないだろうか?
いや、待て待て、きっと念話なんていう素敵スキルをゲットした暁には、鑑定無双をかましてくれるに違いない。
心を強く持つんだ。神空間スキルだってある!
そう、アイテムボックスよりも便利で、無尽蔵に収納できる素敵空間。これが使えれば、それだけでいい。
「魔改造スライム3号君。これ神空間に収納してみて」
家の鍵をそっと近づけてみた。
シュワシュワ・・・
だめだ。溶かして取り込んでいらっしゃる。
神様、ミコト様。やっぱり、意思がなければ、スライムはスライムでした・・・orz
膝を着き、両手を前に、顔が項垂れたorz体勢に。まさか、こんな体勢をする日が来るとは。
まだだ、まだ負けてない。
世紀末覇者からものすごい波動を浴びせられた一子相伝の継承者が、連れの女の子から名前を呼ばれたかのように立ち上がる。
「ふおぉぉぉぉぉ」
もはや、テンションがおかしなことになっているが、ここで絶望したら負けだ。天に帰ることになってしまう。
そう、俺にはユニークスキル「撮影者」があるんだ。
まぁ、撮影できて、映像を保存できるだけのスキルなんですけどね。
別に、魔王を倒せとか、ドラゴンを討伐せよと言われているわけではない。
この世界をちょっと文明開花させればいいのだ。そういう意味では、写真の撮れるスキルはある意味チートスキルではないだろうか。
だってユニークじゃん。撮影者じゃん。ミコト様、日本の転生もの大好きじゃん。そうであってくれ。
なんとか、心を立て直し、持ち物一式と魔改造スライム3号をカバンの中に一旦入れて、次は自分のスキルの検証をすることにした。
まずは、どうやってスキルを発動させればいいかだな。
撮影者発動。もちろん口には出さない。
すると、右手に、SOMYのコンパクトなフルサイズカメラの2型とTOMRANの20−40mm F2.8とそっくりなカメラが現れた。ただ、違うところと言えば、バッテリーと記録メディアを入れる部分がないことだろう。メーカー名も消えている。まぁスキルで出したものだし、バッテリーで動いていたら、それは非常に困ることになる。充電なんてできないしね。記録メディアも読み出せる機器なんてものはないはずだから、あったところでという話なのだ。
「カメラも出てきたし、とりあえず撮影してみるか」
そう呟いて、俺はカメラを構えた。
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ついにガウスにやってきました。
ちなみに、名前の由来は、写真用のオールドレンズです。
オールドレンズには、レンズの構成に名前がついていることがあります。
その中の一つが「ガウスタイプ」です。正確には「ダブルガウス」と呼ばれる光学系になります。
ダブルガウスタイプは、絞りをはさんで、前後に同じ枚数のレンズがあり、前後対称という特徴があります。
3枚ー3枚の全6枚のものがスタンダードです。
対称系のため、前3枚で発生した色が後3枚で同じように減り写真に余計な色が出にくくなります。
安価な50mmF1.8のレンズは、現在でもその系統を踏襲しているものがあります。興味が湧いたら、カメラメーカーやレンズメーカーのHPに断面図が出ていますので、見てみてください。




