47. 最終試験
さて、準備は万端整った。
これから、旅立ちの前の最終試験に挑む。
師匠からの最終試験
グリーンウッドの森のグレーグリズリーの討伐
攻撃の回数は3回まで
気絶させるのみで殺してはいけない
亀の甲羅は外さない
という条件を満たすと修行完了となる。
師匠と共にグリーンウッドの森に到着した。
村長の娘のギアナが一緒にいるのが解せない。
そういや、昨日帰ってきていたな。
グレーグリズリーは森の最奥の洞窟の入り口を棲家にしている。
この洞窟はトリプレットデザートへ繋がっていて、 ブラック黒狼とベラド達の通ってきた経路だ。転移魔法陣以外で神の頂すなわち天獄魔封域へ繋がる唯一の経路だ。
グレーグリズリーは、かなり強い。ブラック黒狼では絶対に倒せない。グレーグリズリーの眠っている横をこっそり通ってきたらしい。
そんなグレーグリズリーが今目の前に立ちはだかっている。
「始めるのじゃ」
「よし、行ってくる」
魔素の循環速度を上げて思考を加速させる。
足に魔素を溜めて全力で踏み込む。
「瞬脚」
一瞬でグレーグリズリーの懐に入り右手に魔素を溜めて一撃。
を放つ前に、グレーグリズリーの右腕が俺を迎撃する。
咄嗟に、左前に半歩に踏み込み頭を下げてグレーグリズリーの右腕を躱す。
左手に魔素を溜めて、グレーグリズリーの右の脇腹に左フックを叩き込む。
「固い!」
グレーグリズリーの毛皮は相当固い。
今できる最大の強化での一撃が全く効いていない。
「しまった」
グレーグリズリーの左腕による振り回しを右手を曲げてガードする。
その場で回転して力を逃す。転身。
バックステップで距離をとる。
一撃を使って今の攻撃力ではグレーグリズリーには通らない。
普通の攻撃ならば、可能性があるとすればあの技を使う。
速度は俺がわずかに上回っている。力は圧倒的にグレーグリズリーに分がある。
瞬脚、右手に魔素を溜めたまま、グレーグリズリーの振り回す腕を避ける。
「このような攻撃、当たらなければどうということは、ひぇ・・・危ねぇ」
いつかかっこよくこのセリフを言ってやる。と思っていたけど、ちょっと早すぎたようだ。油断よくない。
グレーグリズリーの攻撃を躱す、躱す、躱す。
使えるのはあと2撃。人で言うところの鳩尾部分に強烈な一撃を叩き込むための隙を窺う。
「グオォォォォォォ」
グレーグリズリーが苛立っているのがわかる。
今まで以上に力の入った大ぶりの右腕が振り下ろされる。
「ここだぁ」
渾身の一撃を放った隙をついてグレーグリズリーの腹部に右の掌を沿わせる。
両足に溜めた魔素を一気に解放し、腰を起点に回転力と魔素を一気に右手に伝える。
さらに、右手に溜めた魔素を掌から放出するように突き出す。
「葉隠流体術・鎧通し」
衝撃を鎧の中に通し、内部から破壊する体術。鎧通し。
もちろん、技名を叫ぶ必要はない。叫ぶ必要はないが、叫んだ方がかっこいいのだ。
これは仕方ないと思うのだよ。
完璧に決まったこととグレーグリズリーが動きを止めたことで、俺は完全に油断した。
左からの意識がいの一撃。
息ができない。追撃が迫ってくる。
なんとか躱す。右腕の攻撃を喰らった左の脇腹が痛む。
残心。攻撃が終わった後もその心を残すこと。武道の心得の一つ。
今日身をもってその重要さを理解した。
攻撃を躱しながら、体勢を立て直す。
鎧通しをぶち当てたことで、グレーグリズリーの怒りゲージがMAXになり、うざいハエからぶっころ対象へ格上げされた。そのせいで、怒涛の攻撃を躱し続ける羽目になった。
Aランク冒険者パーティを瞬殺して、俺Sランク超えてるんじゃね?とか思っていた過去の自分を殺したい。グレーグリズリーなんて直訳したら灰色熊。魔獣とは言えバジリスクとかコカトリスみたいなザ・魔獣というより、動物寄りだと思う。そんな魔獣を避けてコソコソと横をすり抜けてきたブラック黒狼を馬鹿にしてたけど、自分の認識が間違ってました。ほんとごめんなさい。てか、人間弱すぎだろ〜〜〜。
あってよかった思考加速。これだけ考えてても0.1秒も経っていない。
さて、攻撃を躱しながらどうやって試験をクリアするか考える。
今回の試験は、殺すことではなく倒すこと。忍者刀を使えば殺すことはなんとかできそうだが、それは失格となる。なんとか一撃で気絶させる方法を考えないといけない。だが、相手は、葉隠流体術・鎧通しでも怒らせただけだ。それ以上の一撃をどうにか叩き出さないといけないのだが、どうしたものか・・・。
グレーグリズリーの攻撃が大ぶりなのでなんとかなっているが、このままだと何もできずに終わってしまう。どうする。どうするの俺〜。
あ、そういえば、レンズの武器化すると、相手に通じる一撃を放つことができるはずだ。これにかけるしかない。
バックステップを繰り返し、距離をとる。
「ユニークスキル 撮影者 起動。換装、睦月」
焦点距離は40mm F値は2.8だ。奴の全体が収まる位置に移動。
グレーグリズリーにカメラを向けてピントを合わせる。
瞳にピントが合ったことを示す緑の四角が現れる。
「1枚目」
撮影結果が表示されるのを確認する暇はない。
『武器化に必要な枚数は残り3枚です』
このグレーグリズリーに対して、睦月を武器化するのに必要な撮影枚数は5枚。
どうやら前回の撮影もカウントされているようで、今の撮影を含めて後3枚。
距離を離しても、すぐ向かってくる。
躱す、逃げる、なんとか距離をとり、撮影する。
目にピントが合ってないとカウントされない。目にピントが合うということは、奴がこっちを向いているということ。つまり、全力の攻撃がこちらに迫っているということだ。撮影はものすごい隙だらけになる。ピントが合うまでのわずかな時間さえもどかしい。撮影したらすぐさま回避行動をとる。
「当たらなければどうということはない」
『残り2枚です。』
避ける。避ける。撮影する。
『残り1枚です。』
避ける。避ける。撮影する。
『睦月の武器化が可能になりました。武器化のキーワードを設定してください。』
え、急に?今じゃないとダメですか?
えーっと、えーっと。
「起動」
手に持っていたカメラと睦月が一瞬輝き、瞬時に形状を変える。
睦月の武器形状はガントレット。刃が飛び出てくるタイプのガントレットである。
黒をベースに青の差し色がかっこいい。拳には突起があり、格闘でも使える武器だ。
今は、仕込み刃は使わず、ぶん殴るために使う。
「待たせたな。こいつがお前をぶっ倒すための切り札・・・のわぁ」
そやね。相手は熊ですもの。決め台詞を待つというお約束を守るモブ敵ではないということだ。こういう時はさ、かっこよく決めさせてくれてもいいじゃないですかぁ。
避ける、躱す。
うまく、グレーグリズリーを誘導、渾身の一撃を誘いその一撃を大木へぶつける。
バキバキと音を立てて折れていく大木。渾身の一撃を大木にかました奴は一瞬硬直する。
「葉隠流体術・狐砲」
鎧通しは内部に衝撃を通す技だが、こちらの狐砲は0距離から足、腰、体の捻りを解放し、身体中の魔素を拳の一点に集めてグレーグリズリーの背後を撃ち抜くように腕を突き出す。それと同時に睦月から黒い雷撃がグレーグリズリーを襲う。
「グォ・・・・」
今度は油断はしない。睦月を装備したまま構える。
「それまでじゃ」
師匠がグレーグリズリーの側により、回復させる。
「無理をさせたの。獅子丸」
獅子丸?
「し、師匠さん。獅子丸さんとはどういう・・・」
「おや、言っておらんかったか?獅子丸は妾のペットじゃ。神の頂と下界をつなぐ魂の洞窟を守護させておる。この前の、なんじゃったかのブラック何ちゃらは面白そうだったので通させたのじゃ」
あはん。そうですよね。あの実力でブラック黒狼たちが村に辿り着けるわけがないと思ってたんだよ。獅子丸はめちゃくちゃタフだし。
「獅子丸は、ドルフやアマンダ達と同じように妾の魔素を分け与えておるからの、そんじょそこらのグレーグリズリーとはわけが違うぞ。その獅子丸を1撃で仕留めたのじゃ。お主は合格じゃ。葉隠流忍者を名乗って良いぞ」
・・・・・・・・・
疑問・驚愕・納得いろんな感情が頭の中をぐるぐる巡ってでた答え
「葉隠流忍者・影野明、身命を賭してミコト様の依頼を完遂いたします」
片膝をついて、師匠に誓う。
「うむ。頑張ってくるのじゃ」
「妾もついて行きたいのじゃがな」
師匠がぼそっと何か呟いた。
「え?師匠、何か言いました?」
「なんでもないのじゃ」
なぜ俺は吹っ飛ばされているのか? 解せぬ。
「アキラくん。だいぶ強くなったねぇ。それなら私も守れるね。というか、私がいない間に村を激変させた元凶を1人で下界に行かせられないし」
何やら、ギアナの中で俺はやらかし認定されているようだ。
それは、ギアナが帰ってきた時の絶叫は見ていて楽しかった。
追加された料理を食べては驚き
コーヒーを飲んで絶叫して、
キャンプ道具を見て絶句した挙句、自転車を見て気絶した。
目を覚ました後、これは全部売れると騒ぎ出し、その後、全部の写真を撮らされて多量に印刷させられた。
ちなみに、隠れ里テーマパーク案を提案したところ、あっさり採用。
ヴィリジアンヴィレッジは深緑の隠れ里、葉隠に戻ることになった。




