41. 修行加速
次の日、俺はスキルスロットについて師匠達に話した。
そしてすぐさま話したことを後悔することになった。
この日を境に修行は“愛の鞭“という名の地獄と化す。
スキルスロットは、強制的に同じ動きを強いる。なので、教える側としては非常に効率が良い。間違いを指摘する必要がなくなるのだ。
一方、教わる側は体の負荷を全く考えることなく同じ動きをさせられる。すなわち、体が無意識にかけているリミッターを全く無視して、死ぬ一歩手前まで追い込まれる。
その手順はこうだ。
魔力操作の修行では、①師匠がギリギリ俺が耐えられそうな見本を見せる。→②スキルスロットで同じ魔素循環を強制的に実行。→ ③体が悲鳴を上げて倒れる。→④ 世界樹の雫で強制回復。→ ⑤魔素の経路が広がる。→①に戻る。
昨日の午前中は、自分で魔力で魔素を制御していた時は、試行錯誤を続け、一度、体が悲鳴を上げて倒れたら終わりだった。それが、スキルスロットのお陰で5ループ。
つまり、効率5倍。
魔法戦闘不能訓練や物理戦闘訓練も似たようなものだった。
魔法戦闘訓練は、魔素の特性を理解することに重点が置かれている。
それでも、魔素をどのように動かせば魔法となるのか体で感じることで実感として理解できる。
氷魔法は火魔法と反対の動かし方をする。
火は魔素を回転させ加速させることで熱を発生させる。氷は逆に魔素を回転させながら減速させていく。すると徐々に熱が失われる。マイナスに突入したところで、氷のエフェクトを纏わせる。ちなみに、0度付近で保持すると、周囲の空気に含まれる水分が凝縮され、水を作り出すことができる。風を操作し空気を循環させれば、大量の水を得られる。
風魔法は、空気を魔素で操作し真空を作りだし飛ばすことができる。
土魔法は、土を魔素で操作するというシンプルなものだ。
後は、その組み合わせで様々なことができるようになる。
その最たるものが雷魔法だ。これを使うには、氷と風と土魔法を組み合わせることで
実現する。非常に小さな氷の粒を生み出し、振動させることで、マイナス電荷を生み出す。落とす場所は、土と氷の摩擦でプラス電荷を発生させる。絶縁体である空気の抵抗を電圧が上回ったとき、溜まった電荷が一気に流れる。すなわち雷が発生する。
自分だけでこれを制御しようとすると頭がパンクしそうになる。
それをスキルスロットは全自動でやってくれる。スキルスロットはきっと魔法をセットするのが正解なのだと思う。
物理戦闘訓練、ダーシュの訓練が一番エグい。
まずは、柔軟が地獄だった。
そこは、師匠が後ろから「押してやるのじゃ、えいっ」とやって背中でおっぱ○の感触を楽しむイベントが発生すべきだと思うのだが、現実は、動画に沿って強制されるご褒美なしの苦行だった。何度が間接が外れた。
運営に改善を要求したい。なお、運営ってなんだよという真っ当なご意見は受け付けない。
柔軟の後は、基本の型をトレースする。目で追えない速度での型の練習。
自動で動くとはいえ、自分の体で体感し、繰り返して覚えこませる。
単純作業を延々と繰り返す。体力が尽きても、世界樹の雫で回復して継続。
基礎が固まると応用だ。ダーシュとの戦闘訓練。その一部始終を撮影しておき、ダーシュの動きをトレース。再度、手合わせ。2人でパルクール合戦。ダーシュの動きをトレースするたびに、派手な動きが増える。そしてそれに対応するようにダーシュのギアが上がる。という具合で訓練が進んでいく。
もちろん、師匠たちは鬼ではないので休憩はある。
休憩時間中、フクさんとは次に何の料理を作るかを話した。
次の目標は豚骨ラーメンだ。醤油が無くても作れそうというのが理由だ。
その他、パスタ、うどん、そば、焼き鳥、焼肉、すき焼き、鍋、焼きそば、お好み焼き、たこ焼き、チャーハンと思いつく限りの料理を提示して、質問に答える。
もちろん、メーティス先生のお力をお借りしたのは言うまでもない。
直近での劇的な改善は、パンだ。フクさんにパン酵母について話した結果、ライアさんに話が伝わりすぐさま見つかったと連絡がきた。そして、アルタが届けてくれた。柔らかいパンができるようになると、村がざわついた。ダリアさんというエルフがパン作りに名乗りをあげた。村にパン屋ができる日も近い。
ダーシュには、自転車やテント、寝袋、折りたたみテーブルとチェア。焚き火台について話をした。
確か、森で狩りをする際にどうやって寝泊まりするのか?と聞いたのがきっかけだった。答えはシンプル。たき火をして地面に寝る。
夜露は?とか夏どうするの?とかいろいろ聞いたが、気にしても仕方のないものだと答えが返ってきた。
アイテムボックス持ちはほとんどいないとは言え、一人用の持ち運べるテントなどは需要があると思うのですよ。こちらもダーシュが試作し始めているので、楽しみである。
あーーー、魔物どうすっかなぁ。強い魔物の糞とかを塗っておけば・・・それは嫌だな。師匠に相談してみよう。
そして、諸々の訓練の後、精神的な苦行が待っている。
温泉に入ると、もれなく師匠がついてくる。
「精神を鍛えるのじゃ」と言って手をワキワキしながら襲ってくる。
はたから見れば、バカップルがイチャイチャしているように見えるが、その先がないのでただただ辛い。
その・・・処理は、まぁその・・・自家発電である。
もちろん、温泉上がりには約束したコーヒー牛乳も作った。コーヒー豆の乾燥には魔法をフル活用。焙煎は深煎りで牛乳に合う苦目にした。師匠はめっちゃ世界樹の雫を足してた。苦かったらしい(笑)
ちなみに、フルーツ牛乳やコーヒー牛乳、もちろんコーヒーもフクさんのレパートリーに加わった。
特筆すべきは、ビリジアンビレッジにまさかの喫茶店爆誕したことだろう。ライゾーというフクさんの弟にあたる人がコーヒーにとりつかれてしまったのだ。乾燥、焙煎、抽出のすべてにこだわり、さまざまな味を生み出している。サイフォンについても根掘り葉掘り聞かれたし、水出しコーヒーってものあると言ったら目の色が変わっていた。ダーシュの工房へ通い自ら道具を作っているらしい。
恐るべし、コーヒーの魔力。
パンとコーヒーの朝ごはんが出てくる日が楽しみだ。
そんなこんなで、約一月が経った頃、村に人間達がやってきた。




