39. 温泉にフルーツ牛乳
今日1日の戦闘訓練は心身ともに疲れ切った。
食事の時間に世界樹の雫で回復しつつも、精神的な疲れは取れない。
物理戦闘訓練で汗もかいているので早々に体を洗って温泉に入る。
はぁ、生き返る。こういう時に自由に露天風呂に入れるのはこの世界に来てよかったと思うことの一つだ。
月が綺麗だ。今日は満月。お酒があれば月見で一杯といきたいところだな。
今の体は未成年なので、実際は飲めないんだけどね〜♪。
成人の儀式を受けたのだから、成人ってことでいいのかな?
そこは、郷に入れば郷に従う方向でいこう。
月見で一杯、花見で一杯。
花札の中までお酒が絡むのは、日本人の酒好きゆえなのだろうか。
温泉に入って気が緩んだのか、取り止めのないことが頭に浮かぶ。
花札は12種類の花や木がモチーフになっていて、それぞれ1月から12月を示している。確か1月は・・・なんだっけ?
『睦月のモチーフは、松です。鶴と松の絵柄は五光の一枚となります。』
さすがメーティスさん。花札についても抜かりなく存じておられる。
和風月名で回答するあたり、今の俺の心情にピッタリだ。
「睦月・・・いいね。ユニークスキル 撮影者 起動。換装 20−40mm F2.8」
右手にカメラが現れ、20−40mm F2.8が装着される。
「20−40mm F2.8 お前の名前は“睦月“だ」
その瞬間、20−40mmがほのかに光を放った。
『名付けの効果により、撮影者の隠された能力が開放されました。名付けしたレンズの武器化が可能になります。』
な、なんだって!?レンズが武器になる?撮影スキルにそんな能力があったのか。
それで、睦月はどんな武器になるのだろうか?
『睦月の武器フォームは、短剣です。発動条件は、被写体の撮影となります。必要撮影枚数は、マスターと被写体との力量差によって決まります。マスターと同等の力量の被写体の場合、撮影回数は1回です。なお、ピントの合っていない場合は撮影回数にカウントされません。』
つまり、撮影回数によって相手との力量差がわかる。その撮影回数をクリアすると武器化できるようになる。戦闘中に数回の撮影を要求される。そして相手が強ければ強いほどその回数は多くなる。
「いやいやいやいや、自分より強い相手を複数回戦闘中に撮影するとか無理だろ」
思わず言葉が漏れた。
『告、撮影回数をクリアし、武器化したレンズは、被写体の弱点属性を纏い、急所を攻撃することで100%の確率で被写体を殺傷することができます。』
つまり、無理ゲーをこなした後は一撃必殺の刃になる。超格上相手の唯一の攻撃手段となりえる。めちゃくちゃすごい能力だけど、俺の人生プラン上そんな格上とのバトルなんて想定外ですけど。
というわけで、ソラちゃんを1枚撮ってみる。
「ソラちゃん、こっち向いて」
「なぁに、アキラぁ」
パシャ。 #必要撮影回数残 999回
アレェ、ダイブカクウエダヨ。
そういえば、ソラちゃんはミコト様から各種耐性付与されてたね。魔法も使い放題。
神様のつけた耐性を1,000回の撮影で突き抜けられるというのは破格なのかなと思っておく。決っっっして、俺が弱すぎるんじゃね?なんて思ってなんかいないんだからね!
次、次だ。
換装 35−150mm F2-2.8
「お前の名前は如月だ」
如月は2月。花札のモチーフは梅と鶯だ。風流だね。
『如月の武器フォームは刀です。』
刀、キター♪───O(≧∇≦)O────♪
換装 睦月。
換装 如月。
これで、瞬時にレンズ交換ができるな。
如月でソラちゃんを撮影する。
#必要撮影回数残 998回
レンズを交換しても回数は共有されている。時間が経っても回数に変化がないということがわかった。一度武器化できると、換装で武器を切り替えられるということだな。ふむふむ。
思わぬレンズの武器化の検証で時間がかかってしまった。
忘れそうになっていたけど、もう一つ開放された能力がある。
そう、“スキルスロット1“。スキルのスロットなので何かしらを入れることができるというのは容易に想像できる。それから、1。1があるということは、少なくとも2はあるであろうことがわかる。これを使いこなすことで、強くなれる予感をひしひしと感じる。
それじゃぁ、メーティスさん、解説よろし
「遅いのじゃぁぁぁぁ」
バーーーンという効果音が聞こえそうな勢いで師匠が露天風呂に登場した。
「お主が早く湯から上がらねば、フルーツ牛乳とやらは飲めぬのであろう。それに風呂上がりに飲むのがうまいのじゃろう?もう待てぬ。妾も風呂に入るのじゃ!」
拝啓、エロ仙人様。ラッキースケベって本当にあるんですね。
すでに風呂に入れる状態の師匠がこちらに近づいてくる。「妾は美しい。恥じるようなことなど何もない」と言わんばかりに何も隠すことなく堂々とこちらにやってくる。目のやり場に困るという建前の元目を逸さんとする理性と脳内メモリを埋め尽くす勢いで記憶しようとする本能の勝負は1:9で本能の勝ちだ。
風呂桶で湯を汲み体を流す。
そして右足の指先からそっと温泉に入る。
「ふぅ。生き返るのじゃ」
この露天風呂はそこまで大きくない。大人が三人入ればギュウギュウという感じだ。
何を言いたいかというと、距離が近い!
濁り湯でよかったよ。いろんな意味で。
今は風呂から出られそうにない。
「時にアキラよ、本日の戦闘訓練はどうじゃったかの?」
「・・・魔力操作、体をめぐる魔素の循環が一番重要だとわかったよ」
師匠が普通に聞いてくる。
「そうじゃ。全ての基本であり、息をするように自然と循環できるようになれば、己の体をすべてコントロールできるようになるのじゃ」
師匠が意味ありげに、すべてを強調している。
視線は俺の下半身があるであろう場所を見ている。
・・・温泉は濁り湯。見えているはずはない。
平静を装っているがこんな状況で発生する生理現象はコントロールなんてできないし。
師匠がニヤニヤしながらさらに近づいてくる。
「その後の魔法戦闘訓練も物理戦闘訓練もよく頑張っておったの、どれ、褒美として、妾が背中を洗ってやろう」
耳元でそう囁かれる。その距離に顔があるということは、師匠の大きさがあれば、当然左腕に当たっているわけで・・・
ブシュー。
そこに透明人間がいたらきっと鼻血で人の形が見えるだろう。
レンズの名前をつけたり、長時間風呂に入った状態で、そんなことされたらもう無理だ。
大量の鼻血とともに俺の意識はブラックアウトしていった。




