15. ワルド
15話目です。
世界樹の果実ワルドのお話です。
魔法の修行時間が終わり夕食となった。
本日の夕食も麦飯・焼き魚・薄い塩味の野菜スープだ。
エルフの村の食事事情は大いに改善しないといけないな。主に自分のために。
あぁ、味噌汁が飲みたい。白飯が食べたい。
「さて、お主の見たがっておったワルドを取ってきてやったぞ」
「これがワルドか」
大きさはメロンくらいだな。厚めの皮に覆われている。皮を剥くと葡萄に似たゼリー上の果肉が現れる。
種はないようだ。
しかし、ひと舐めで酷い目眩に襲われた。
これが魔素中毒いというやつか。
しかも、甘味の後に強烈な渋みえぐみが襲ってくる。
「妾にとっては、ただただ美味なのじゃがな。魔素の操作に長けたエルフでも生のワルドの魔素量は持て余し、中毒となってしまうのじゃ。しかも大量の魔素は唾液と混ざることで強烈な渋みとえぐみになるとドルフが言っておったの」
渋みとえぐみは魔素中毒から体を守る仕組みっぽいな。
逆に、ほどほどの魔素は、旨みにもなるという。
種族によって魔素に体が耐えられるかどうかの量が変わる。エルフでは旨みと感じる魔素の量も、他種族では、えぐみに感じるのだろう。
「それで、なぜドライワルドを作っているんだ?乾燥すると食べられるようになるのか?」
「ふむ、乾燥させたドライワルドは、魔素がある程度抜け、渋みとえぐみが抑えられるのじゃ」
なるほど、乾燥させるときに、魔素が抜けて魔素中毒がある程度抑えられる。さらに渋みとえぐみも少なくなると。なんだか、渋柿を干し柿にすると甘くなるのと似ているな。
魔素をなんとかできれば、生ワルドがヴィリジアンヴィレッジの特産品にできそうなのだが。
「アキラ、これ美味しいねぇ」
ソラちゃん!?
「ほう、ソラは食べても平気なのか」
そういえば、スライムは魔素を食べて生きているのだったな。
「ソラちゃん。ワルドの魔素だけを食べることできるかい?」
「できるよぉ」
ソラちゃんがワルド全体を包んでぺっと果実を吐き出した。
まずはひと舐め。目眩はしない。
次に一口。
「うまい!」
ぷるんとした食感に濃厚な甘味・爽やかな後味と鼻から抜ける香りが多幸感を醸し出す。魔素が抜けたことで、渋みとえぐみも消えた。
そして、生ワルドには、回復の効果があったようだ。体の疲れが全部吹っ飛んだ。
ソラちゃんのおかげでワルドが楓様やエルフ以外でも食べれるようになった。これを使ったデザートを作り出せれば、村の名物になりそうだ。
しかも、生ワルドは腐りやすいため、世界樹のあるこの村でしか食べられないスイーツとなる。
これなら、他の地域で真似されることもない。
「ほう、さすがはミコト様の使徒じゃな。神獣である妾をエロい目で見るだけはあるのぉ」
楓様が、ニヤニヤしながら迫ってくる。
よく考えれば、楓様は神様とやり合った九尾の狐。その気になれば俺なんて瞬殺される。
「いやぁ、ははは・・・・すぅみませぇんしたぁぁぁ」
見よ、これが「じゃぱにーずどげざ」だ。
「謝るということは、エロい目で見ていたことは否定せんのじゃな」
「ぐむむ」
「なんだか蒸し暑いのぉ」ふぁたふぁた
楓様が着物のふぁたふぁたする。たわわな果実の頂が見えそうになる。
見ちゃうよね。だって男の子だもん。
「くふふふ、本当にお主は面白いの」
『マスター、不潔です。』
あれ、メーティスさんが冷たい。
しかし男の子はですね。巨乳があったら見てしまう生き物なんですよ。
『・・・・ふぅ』
ものすごいため息。なんか切ない。
「冗談はそこまでにして、ドルフのところで言っておった特産品の目処がたったのじゃろう?」
「ああ。生ワルドが誰でも食べられるようになるなら、なんとかなりそうだ」
メーティスさん。
寒天の代わりになる海藻のようなものはあるかな?
『はい、天の湖にある天狗草の煮汁で代用可能です。』
さすがはメーティスさん頼りになる。
「楓様、天狗草を用意して欲しい」
「ふむ、天狗草とな。スープにとろみをつけるための乾燥させた水草じゃな。台所にあるぞ」
「それじゃ、ワルドを使ったスイーツを作ってみるか」
「よかろう。妾も付き合うのじゃ。ときにアキラよ。そろそろ楓様と呼ぶのはやめよ。師匠と呼ぶのじゃ」
「はい、師匠」
「ふふ。それで良いのじゃ」
楓様、いや師匠がめちゃくちゃ嬉しそうだ。
尻尾がふさふさ揺れている。
とにかく、試作品を作ってみる。
食堂から台所へ皆で移動する。
材料は台所で全部手に入った。
まずは寒天づくりから。
乾燥させた天狗草、レモンのしぼり汁、水を鍋に入れて煮込む。
レモンはグリーンウッドの森に自生しているらしく、名前もまんまレモンだった。
天狗草を煮込んでいる間に、生ワルドの半分を綺麗な布でくるみ絞って果汁だけにする。
これも煮詰めていく。どうやらヴィリジアンヴィレッジには砂糖がないらしい。
そこで、生ワルドの果汁を濃縮させて甘味の元にする。
天狗草の煮汁を布で濾し、煮詰めた生ワルドの果汁と混ぜ合わせる。
粗熱が取れたら、コップに汁を注いで、生ワルドの実を一口大に切って入れる。
あとは、冷蔵庫で冷やせば・・・
って冷蔵庫なんてないじゃないか。
もう少しで生ワルドゼリーができるのに。
困っていたら、師匠が声をかけてきた。
「お主、どうしたのじゃ?」
「あとは、これを冷やすだけなんだけど、どうやって冷やそうかなと困ってたんだ」
「なんじゃ、そんなことかの。ほれ」
師匠が手を振ると、氷の塊がどんと机の上に現れた。
俺は、氷の塊を細かく砕いて、コップをその砕いた氷の中に入れる。
師匠が、熱が逃げないように、風魔法で氷の周りに真空の層を作る。
そのまま、2時間キープして、寒天が固まるのを待つ。
その間に、師匠、俺とソラちゃんの順で露天風呂に入ってきた。
ちなみに、亀の甲羅は風呂では取っていいことになった。
さて、生ワルドゼリーの試食だ。
「妾から食べるのじゃ」
パクリ。
「は〜ん。なんじゃこの食べ物は!!口に入れた瞬間、濃厚なワルドの甘さが広がり、次にレモンの酸味が後味をさっぱりとしてくれる。そして冷たくてプルプルの食感がたまらぬ。温泉上がりには最高のスイーツじゃな」
師匠がうっとりと尻尾をふりふりパクついている。
神獣だけど、見た目が超絶巨乳美女な上に、温泉でうっすらピンク色の肌で唇を舐める姿。
いとなまめかしです。
ユニークスキル撮影者起動
手元にカメラが現れる。焦点距離40mm F2.8で
とても美味しそうにゼリーを食べている師匠を撮影する。
パシャ。
「ほう、それがお主のユニークスキルか。面妖じゃのぉ」
「ああ、俺のスキル撮影者といって、映像を記録して、写真て言うんだが、こうやってあとで見ることができる」
「おぉ、妾が写っておる!これが写真かの。なんとも面白いスキルじゃな。しかし、撮影とはなんとも言えぬ快感があるのじゃな」
?? 師匠が快感?なんだろうね。これは後で検証する必要がありそうだ。
しかし、今は生ワルドゼリーだ。
俺も実際に生ワルドゼリーを食べてみたが、思った以上の出来の良さだった。
特産品、いや名物と呼んだほうがいいかな? 試作品第1号としては合格点だと思う。
もちろん、生ワルドゼリーの写真を撮ることにする。
師匠に、光魔法で灯りをつけてもらい、ちょっと机の上の配置を整理する。
氷の中に埋められたコップが3つ。その後ろに、半分に切られたワルドの実を置く。
手前のコップ一つにピントを合わせ、後ろの2つはある程度ボケている状態。
奥のワルドは、形がわかるかわからないか程度にボカす。
設定としては、焦点距離35mmのF値が4にした。F値を少し絞ることで、ピントの合っている範囲を広めにして生ワルドゼリーがきっちり見えるようにする。
構図を変えながら何枚も撮影した。
明日写真を見せながら、ドルフさんたちにも食べてもらおう。
今日は料理アンドテーブルフォトです。
テーブルフォトは、ある程度近づいて撮影するため、背景がボケやすく、F値の小さいレンズで撮影するとメインの料理の一部にしかピントが合っていない写真になりやすいです。狙っている場合はOKですが、もう少し、料理全体にピントを合わせたい場合は、少しずつ絞っていくといいです。
生ワルドゼリーは夜に作ったため、光を足しましたが、
昼間、窓際などで自然光で撮影するといい感じに撮れますよ。
スマートフォンでも同じですので試してみてください。




