107. ヘリアーレイク王国へ
葉隠の里とトリプレットデザート王国との交流が軌道に乗ったので、俺たちはミコトのお願い通りヘリアーレイク王国を目指すことにした。葉隠の里を出て南西へ向かって進む。
ヘリアーレイク王国は、巨大な湖であるヘリアーレイクの側に王都がある。そして王都の周辺には貴族が治める領地があり、さらにその周辺には大小様々な村が点在している。葉隠の里からヘリアーレイクの王都へ向かうには、砂漠から続く荒野をひたすら歩いていくことになる。
「歩くのに疲れたのじゃ」
荒野は尖った石が多すぎて自転車は不向きなので、カメラで撮影しながら、歩いて進む。そして、半日ほど進むと師匠が文句を言い始めた。
「アキラ、肩車するのじゃ」
「え、師匠、ちょっと」
師匠が俺の体をよじ登ってくる。ちび師匠は5、6歳くらいの容姿なのでどうしてもわがままを聞いてしまうな。楽しそうにぴょんぴょん跳ねる師匠をみているとまぁいいかなと思ってしまう。
「おい、狐の。ちょっとアキラにくっつきすぎじゃないか?」
「良いではないか、黒いの。この姿じゃと、アキラがとても優しくて楽しいのじゃ」
「ダメだ」
桔梗がそう言って師匠を抱え上げて、フェンリルのシロの上に乗せる。
「歩くのに疲れたのならシロに乗せて貰えばいいだろ」
「ワン!!」
シロが元気よく吠える。
「アキラがいいのじゃが、シロで我慢するのじゃ」
「ソラもシロに乗るよぉ」
ああ、出来上がってしまった。もふもふのシロにぷにぷにのソラちゃんと美幼女?が乗っている。これは可愛いの三重奏。はぁ、癒される。俺が顔のニヤニヤをなんとか隠そうとポーカーフェイスを気取っていると、目の前に2人の男が岩陰から飛び足してきた。
「おい、テメェら。ガキがペット連れてなんしとーとや」
「ヒュー。兄貴、こっちにはちかっぱ別嬪がおるばい」
あれ、これ博多弁?ということはここは修羅の国・・・なのか。
現れた2人は黒色のモンスターの皮で作ったベストとズボン。腕には棘のついたリストバンド。兄貴と呼ばれた方はオールバックのヘアスタイル。舎弟っぽいヤツは頭のサイドを刈り上げたヘアスタイル。モヒカンでいらしゃる。 “ヒャハー、汚物は消毒だぁ“って火炎放射器ぶっ放してるのがしっくりくる方々が目の前にいる。異世界まじ半端ねぇ。
「なんばしとーとやっち聞いとったい」
「えーっと、こんなところで何をしているのかと聞いているということですか?」
「さっきからそー言っとろーが!」
持っているロングソードを肩に担いで兄貴と呼ばれた方が聞いてくる。人を見かけで判断してはいけないとちゃんと応えてみよう。
「ヘリアーレイクの王都へ行くところです」
「お前らみたいなガキだけで王都へ行けるわけなかろーもん。おい、シロウ」
「へい、兄貴。こっから先は危なかけん。一旦俺らのアジトへきんしゃい」
あれ?なんというか、思ってた流れと違う。ここは、きゃーって師匠がなって、俺が離せーってなる展開だと思ったのだけど。実はいい人達っぽい?
その時、遠くで馬の蹄の音が聞こえてきた。
「やべー、奴ら追いかけてきよった」
「兄貴、どうすると?」
「こいつらをほっとけんやろ、戦うしかなか」
「でも、あいつらには」
察するに、この2人は何かしらの奴らから逃げていて、俺たちを見つけて放って置けなくて声をかけてきたという感じだ。そして、俺たちのために追っ手と戦うつもりのようだ。
「えーっと、お兄さん」
「気にすんな。お前らみたいなガキを守のは年上の役目やけん」
ダメだ。俺はこういう熱い人、嫌いじゃない。
「俺も戦います」
「怪我しても我が治してやる」
それに、桔梗もやる気のようだ。両手の指をボキボキっと鳴らしている。
「妾は見ておるのじゃ〜♪」
やっぱり師匠は師匠だったか。
「シロ、師匠とソラちゃんを守って」
「ワン」
そうこうしているうちに馬に乗った20人ほどの鎧を着た人達が近づいてきた。
「我はヘリアーレイク王国第13師団隊長クザンである。カタハ村のケンとシロウだな。残っているのは貴様ら2人だけだぞ。ふはっはっは」
隊長と思わしき奴が馬上で嘲笑する。
「ん、知らんガキどもがいるな。奴隷として売れそうじゃないか。今日は最高の日だな」
関係ないけど、この隊長は標準語なんだな。
「貴様、村の、村の人達をどげんしたとや」
ケン(兄貴)がロングソードを構えて叫ぶ。馬上の隊長はゲスな笑みを浮かべている。
「もちろん、殺しはしないさ。王都で奴隷として働いてもらわなけりゃいけないからなぁ。まぁ使えない年寄りとクソガキどもは殺しちまったがな。はっはっはっは」
「隊長、あの女はどうします?」
「ああ?決まってんだろ。捕まえてお楽しみだ」
ケン(兄貴)が怒りで震えている。
「クソが、俺らを舐めとったらぼてくりこかすぞ」
うん、言葉はわからんが、言いたいことはわかった。
「兄貴、俺もやるばい」
シロウと呼ばれているモヒカン男は声も足も震えている。普通に20対2だとそうなるよな。俺も攻撃体制に入ろうとしたその時、追っ手の乗っている馬が急に立ち上がり、全員振り落として散り散りに逃げていく。
何が起こったかと思って振り返ったら、桔梗と師匠がすごい顔で睨んでいた。どうやら、怒っているのは俺だけではなかったようだ。馬は野生の本能で、怒っている桔梗と師匠がやばいと感じとって逃げていったということだろう。
「いててて、なんだ」
「おら」
落ちた兵士にケンがロングソードを叩き込む。シロウも落馬した兵士を切り倒す。ケンとシロウはなかなかの剣の使い手のようで、敵が体勢を立て直す前に2人倒すことができた。だが、まだ18人残っている。
「やってくれたな。貴様ら許さんぞ」
隊長が呪文を唱え始める。
「いと気高き炎の精霊よ、我が剣に宿りて敵を倒す一助となれ」
魔法剣士という奴だろう。さすがは隊長格。性格はクズだが、実力もあるようだ。ケンとシロウは燃える剣を見て驚きで固まっている。このままでは、まずい。
「奴隷はたくさん確保した2人くらいここで始末しても問題ない。死ね!!」




