第九話 代償
白く無機質な廊下を進んでいく怠惰と崩壊は、微かな音を頼りに慎重に歩を進めていた。緊張が張り詰めた空気が漂う中、ふと二匹の前に不自然に頑丈そうな扉が現れた。
さっと角に隠れて様子を伺うと、扉の前には重装備の警備員が二人立っており、その装備からして並の侵入者では突破できそうにない。加えて、二人とも鋭い目を光らせており、隙を与えない佇まいだった。
「……あの扉の向こう、間違いなく重要な場所だ。」
崩壊が低い声で言う。
「だね。フックの言ってた実験室かもしれない。」
怠惰も同意しながら、扉の前の警備員たちをじっと見つめた。
「さて、どうする?」
怠惰は少し悩んだ末、自分の力を試してみることにした。警備員たちが気付く前に、小さく囁くように「怠惰」の力を解き放つ。
「さあ……だらけて、休もう……」
目に見えないだらけた力が、周囲に漂い始める。怠惰の力に触れた者は眠りや気怠さに襲われ、何もかも放棄したくなるはずだった。だが――。
「……何も起きてない?」
怠惰が首をかしげる。
目の前の警備員たちは微動だにせず、むしろ彼らの目はより鋭く光り、職務への忠誠心を体現しているかのようだった。
「どうやら、奴らはお前の力の範囲外の存在らしいな。」
崩壊が冷静に分析した。
「勤勉すぎて効かないってこと?」
怠惰は焦りながら呟いた。
その時、警備員の一人が微かな音からこちらに気付いたようだ。
「侵入者だ!警報を鳴らせ!」
警備員が叫ぶと同時に、廊下中に鋭い警報音が鳴り響き、施設全体に緊張が走った。
「やばい!」
怠惰が目を見開く。その瞬間、周囲の扉が次々と開き、警備用のドラゴンが現れ始める。それらは金属の装甲をまとい、冷たい目で怠惰たちを睨みつけていた。
「崩壊、どうする?」
怠惰は怯えた声で崩壊に助けを求めた。
崩壊はその場にじっと立ち尽くし、何かを考えているようだった。しかし、状況は待ってくれない。迫りくる敵の気配に、怠惰は息を飲む。
「もう時間がない。扉の向こうに行かなければ情報は得られない。」
崩壊は一歩前に出ると、冷たい声で続けた。
「怠惰、後ろに下がれ。ここは俺の力を使う。」
「でも、それを使うと……!」
怠惰が止める間もなく、崩壊は低く唸りを上げ、全身から黒い光を放ち始めた。それはどんどん強さを増し、空気を震わせる。
「崩壊の力よ……全てを砕け!」
その叫びと共に、黒い光が全方位に放たれる。重装備の警備員たちは吹き飛ばされ、ドラゴンたちは次々にバラバラになり、辺りは崩壊そのものの光景と化した。
しかし、その代償は大きかった。
光が収まると、崩壊は地面に膝をつき、息を切らしていた。その姿は傷だらけで、体からは血が流れ落ちている。
「崩壊!」
怠惰が駆け寄る。
「大丈夫だ……早く進め……時間がない……」
崩壊は弱々しい声でそう言うと、扉の方を顎で指し示した。
怠惰は迷ったが、崩壊の言葉に従い、扉を押し開けた。
扉の向こうには、さらに冷たい空気が漂う空間が広がっていた。奇妙な機械が並び、床には規則正しい線が引かれている。そこはまさしく、フックが言っていた実験室の中心部だった。
怠惰は背後を振り返り、ボロボロの崩壊に視線を送った。
「崩壊……無茶しないで。」
崩壊はかすかに笑みを浮かべた。
「俺に言うな。お前も、気を抜くなよ。」
二匹は、さらに奥へと進む決意を固めた。その先に何が待っているのか――それを確かめるために。
警備の人間の装備:索敵ゴーグル 暗視また、音に反応して通知をしてくれる。
対ドラゴンアーマー ドラゴンからの斬撃、光線などのあらゆる攻撃に対応している。
ビームライフル ビームが放てる。連射でき、少し敵を追跡する。