第七話 情報のフック
ディシェウィキの賑やかな表通りから離れ、怠惰と崩壊は薄暗い裏路地へと足を踏み入れた。道は狭く、湿った空気とほのかな薬品の匂いが漂う。高層ビルの陰に隠れたこの場所は、街の明るい顔とは全く異なる顔を持っていた。
「ここに情報屋がいるのか?」
怠惰は周囲を警戒しながら、崩壊に問いかける。
「ああ、ああいう場所はいつの時代も情報の巣窟だ。俺たちが必要としているものを知る人間が必ずいる。」
崩壊がそう答えると、一軒の小さなドアの前で立ち止まった。
「ここだ。」
ドアには看板も何もないが、崩壊は迷いなく中へ入る。
店内は薄暗く、棚には雑多な小物や紙束が乱雑に置かれている。奥のカウンターに座る男が、怠惰たちをじろりと一瞥した。痩せた体に色褪せたシャツを着たその男――フックと名乗る男が、くたびれた笑顔を浮かべる。
「おや、珍しい客が来たな。……それもドラゴン二匹とは。」
「D.P.のビルについての情報を求めてきた。」
崩壊が低い声で言うと、フックは口元を吊り上げて立ち上がった。
「なるほど、なるほど。だがな、情報はタダじゃない。」
怠惰は何も言わず、そっと人間用の財布を取り出すと、中から二万円ほどをカウンターに置いた。
「これでどう?」
フックの目が細まり、彼はその金を素早く手元に引き寄せた。
「いいだろう、特別に教えてやる。」
フックは怠惰と崩壊に近づき、低い声で話し始めた。
「施設の地下に実験室がある。D.P.の連中がいろいろとやってる場所だな。ただし、そこに行くには専用の出入口を使うしかない。その出入口は……」
フックは路地裏の地図を取り出し、ある一点を指さした。
「ここにある。地下へのエレベーターだ。だが、厳重に警備されていて、簡単には近づけない。狙うなら、警備が交代する午後7時だ。その時間帯は監視の網が少し緩む。」
「午後7時……」
崩壊がその時間を確認すると、怠惰は緊張した面持ちで地図を見つめた。
「わかった。ありがとう。」
怠惰が礼を言うと、フックは再び薄笑いを浮かべた。
「いいってことよ。ただし、俺の話が誰かに漏れて、俺の命が危なくなったら……覚えておけよ。」
店を出た二匹は、裏路地の陰で一旦足を止めた。
「午後7時か……それまでどうする?」
怠惰が尋ねると、崩壊はしばらく考え込んだ。
「作戦を立てる必要がある。俺たちだけで潜入する以上、無駄な動きは許されない。施設の構造を予測して動きを決めておくべきだ。」
「うん……でも、崩壊。」
怠惰は少し躊躇いながら言った。
「もし警備と戦わなきゃいけなくなったら、さっきみたいに『崩壊』の力を使うの?」
崩壊は目を伏せ、一瞬の沈黙の後、低い声で答えた。
「必要ならば使う。しかし、あの力は俺自身にも負担が大きい……。できるだけ避けたい。」
その言葉に怠惰は頷き、二匹は路地裏を離れ、夜までの時間を作戦を練ることに費やすことにした。
ディシェウィキの街は、夜が近づくにつれて賑わいを増していく。午後7時が近づく中、怠惰と崩壊は、静かにその時を待っていた。裏路地の闇が深まる中、二匹の決意もまた深まっていく。
ディシェウィキ:人口200万人 世界的にはそこまで大きい都市ではない。