第三十二話 『希望』
光の中で、怠惰は自身の体が新たな力に満ちていくのを感じていた。それはただの力ではなく、温かく、穏やかで、どこか懐かしい感覚を伴うものだった。
「この力...僕は、できる...!」
気づけば、怠惰の口には白く輝く剣が握られていた。それは言葉では言い表せないほど神聖で、美しい光を放つ武器だった。その剣を振るうイメージが頭に浮かび、怠惰の体は自然に動き出した。
「これで...終わらせる!」
目の前のメイカーに向かい、怠惰は剣を振り抜いた。その刃は一瞬でメイカーの左手を切り落とし、ガントレットが地面に落ちて砕け散る。
「貴様...!」
怒りの声を上げたメイカーの体が突然硬直した。その瞬間、ニアダフスク全体が白い光に包まれた。
その光はただの閃光ではなく、街全体を包み込むように優しく広がり、焼け野原となっていた土地に変化をもたらした。荒廃していた地面には次々とアイリスの花が咲き誇り、傷ついていた人々の体がみるみるうちに治癒されていく。
「これは...何なんだ...?」
怠惰も、崩壊もその光景に目を奪われた。メイカーもまた、その異常な事態に困惑していた。
「なんだこの力は...!?」
憎悪に満ちたメイカーの声が響く。彼は怠惰と崩壊を睨みつけ、再び手を空へかざした。
「貴様らを絶望の底に叩き込んでやる!「隕石の地獄!」
砲台が再びエネルギーを収束し始めた。しかし、怠惰は焦る様子もなく、剣を握り直し、静かに呟いた。
「浄化」
その言葉とともに、怠惰の剣が再び強烈な白い光を放つ。その光はメイカーの放とうとしていたビームを完全にかき消し、逆に彼自身を包み込んだ。
「ぐああああああ!」
メイカーはもがき、叫び声を上げるが、光は彼の全身を浄化するかのように覆い尽くし、そして――
彼の体は跡形もなく消え去った。
戦いが終わるとともに、ニアダフスクには平穏が戻り始めていた。街の住民たちが少しずつ姿を現し、光に包まれた街を呆然と見つめていた。アイリスの花が揺れる中、怠惰と崩壊はしばらくその場に立ち尽くしていた。
「怠惰、お前...一体どうやったんだ?」崩壊が尋ねる。
怠惰は剣を見つめながら、少しだけ微笑んだ。
「わからない。ただ、この力は僕たちが進むためのものだって...そんな気がしたんだ。」
崩壊は深く息をつき、ふと空を見上げた。
「これでメイカーは消えた。けど、D.P.companyを潰せたわけじゃない。ここからが本当の戦いだな。」
怠惰は静かに頷いた。
メイカーとの激闘が終わり、ニアダフスクに平穏が戻った。
怠惰と崩壊は、次の目的地を考えながら夕暮れに染まる街を歩いていた。
「これから、どうする?」崩壊が口を開いた。
「情報がないと動けないが、どこか手がかりを見つけないといけない。」
怠惰は剣を見つめ、何かを考え込むようにしていた。その剣は白く輝き続け、まるで次に進むべき道を示しているかのようだった。
その時――
怠惰の頭の中に突然響く声があった。それは深遠で神聖な響きを持ち、耳ではなく心に直接語りかけてくるようだった。
「死者の国へ来なさい。あなたたちを導いてあげましょう。」
怠惰は驚いて立ち止まり、周囲を見回した。
「い、今の声、聞こえたか?」
崩壊は首を振りながら、眉をひそめた。
「いや、何も聞こえなかった。お前だけか?」
怠惰は深呼吸し、声の言葉を繰り返した。
「『死者の国へ来なさい』...そう言われたんだ。僕たちを導くって。」
崩壊は少し考え込んだ。
「死者の国か...確か北の遠い地に、そう呼ばれる場所がある。あそこは生者と死者の境界と言われ、霊的な存在が集まる地だ。」
「行ってみるしかない。」怠惰は剣を握り締めながら、決意を固めたように言った。
「何か重要な手がかりがあるかもしれない。」
崩壊はうなずき、空を見上げた。
「道は険しいだろうが、俺たちには時間がない。行こう。」
ニアダフスクを後にした怠惰と崩壊。二匹は寒さが厳しくなる北の地を目指して歩き始めた。空気は徐々に冷たくなり、周囲の風景も荒涼としたものへと変わっていく。
旅の途中、怠惰は声の主が誰なのかを考え続けていた。その声には威厳と優しさがあり、どこか懐かしい響きがあった。
「死者の国か...一体何が待ち受けているんだろう。」怠惰は呟くように言った。
「わからないが、慎重に進もう。あの場所には生者が踏み入るべきではないと言われているからな。」崩壊が警戒するように答えた。
そうして二匹は、死者の国への旅路を歩み始めた。




