第二十九話 狩りの時間
夕暮れの赤い光が廃工場跡を照らしていた。崩壊した施設からなんとか脱出した怠惰と崩壊は、外の光景に息を飲んだ。
「こんなに人が集まるなんて...」怠惰は驚きながら呟いた。
ニアダフスクの薄暗い街とは対照的に、廃工場周辺には大勢の野次馬が詰めかけていた。彼らは口々に不安そうに話している。
「何が起こったの?」
「D.P.companyの仕業なのか?」
だが、そんな騒ぎの中で異質な存在が一つ。怠惰は気配に気づき、視線を向けた。
気絶したD.P.companyの職員たちの傍らに、悠然と立つ黒い仮面をかぶった男。左腕には新しい大きなガントレットが輝いている。
「メイカー...!」崩壊が低い声でその名を呼んだ。
メイカーは野次馬たちには目もくれず、怠惰と崩壊に視線を固定したまま不敵な笑みを浮かべた。
「この爆破で死ななかったとはな。貴様ら、随分としぶとい。」
怠惰は岩の破片まみれの体を震わせながら立ち上がる。
「俺たちを消し去るなんて、そう簡単にはいかないさ。」
メイカーは小さく鼻を鳴らした。
「ならば、私が直々に貴様らを始末しよう。今回は逃がさんぞ。」
怠惰が身構える間もなく、メイカーの左腕が紫色のオーラをまとい、信じられない速さで突っ込んできた。
「また『神速』か!」怠惰が叫ぶ。
その言葉通り、メイカーの動きは目にも留まらない速さだった。怠惰は回避に集中するが、ガントレットの一撃が彼の肩をかすめ、崩れたがれきに叩きつけられる。
「くっ...!」怠惰は痛みに顔をゆがめながらも立ち上がった。
崩壊がすかさず前に出て、地面を崩壊させてメイカーの足場を崩した。しかし、メイカーは難なく跳び上がり、崩壊の不意を突く形で拳を放った。
崩壊の鎧のような鱗が砕ける音が響く。
「ぐっ...!この男、前より力が増している...!」崩壊は歯を食いしばった。
「崩壊、一旦引け!」怠惰が叫んだ。
「だが!」崩壊が反論しかけたが、怠惰は鋭い声で続けた。
「俺が囮になる。その間に策を考えるんだ!」
怠惰はメイカーの視線を引きつけるように動き、挑発的な笑みを浮かべた。
「速いだけが取り柄か?それで俺たちを倒せると思うなよ!」
挑発に乗ったメイカーは再び神速の動きで怠惰に迫る。だが、怠惰は足元の瓦礫を使ってメイカーの視線を一瞬そらし、攻撃をかわした。
「崩壊、今だ!」
その瞬間、崩壊がメイカーの背後に回り込み、全力で地面を崩壊させた。メイカーは足元を失い、一瞬バランスを崩す。
「やったか...?」怠惰が期待を込めて呟く。
しかし、メイカーは不敵に笑いながらガントレットを地面に叩きつけ、瓦礫を一掃した。
「貴様らの力では私を倒すことはできん。」
「このままでは埒が明かない...!」崩壊が怠惰に目配せをする。
怠惰はうなずき、二匹は息を合わせて一斉に退却を開始した。メイカーは追撃を試みるが、怠惰と崩壊は巧みに建物の陰に身を隠しながら距離を取った。
「次は必ず仕留めてやる。」メイカーは捨て台詞を残し、その場を去った。
怠惰と崩壊は暗がりの路地裏でようやく足を止め、荒い息をつきながら顔を見合わせた。
「また、奴に一矢報いることができなかった...」怠惰は悔しそうに拳を握った。
崩壊は肩を叩きながら冷静な声で言った。
「だが、今回わかったこともある。メイカーの力には弱点があるはずだ。それを見つけるまで諦めるな。」
怠惰はその言葉に力を得て、うなずいた。
「次は必ず倒そう。奴を、そしてD.P.companyを」
その瞬間...




