第二十三話 イワユリ
怠惰と崩壊は巣穴の最深部にたどり着くと、巨大な女王アリが目に飛び込んできた。女王アリは周囲に生気を漂わせ、その体からは小さなアリが次々と生まれている。周囲を大量のアリたちがせわしなく歩き回り、見張りのような動きを見せていた。
「崩壊、あれが女王アリだね……!」怠惰が息を呑むように言う。
「そうだな。だが、正面突破は無理だ。うまく気づかれずにあのドラゴンを救い出すしかない。」崩壊は冷静に巣の中を観察しながら答えた。
最深部の中央には、ぐるぐる巻きにされた緑色のドラゴンが横たわっていた。その姿は弱々しく、糸で拘束されて動けないようにされている。
「よし、あのドラゴンを助けるんだ。」崩壊がそっと前脚を動かし、怠惰に合図を送る。
二匹はアリの隙を見つけ、慎重に巣の奥へ進む。物音を立てないように、怠惰は呼吸を抑え、崩壊は「崩壊」の力を最小限に抑えて女王アリの注意を引かないようにした。
怠惰がそっと糸に近づき、力を込めてその繊維を裂く。糸は予想以上に頑丈で、一筋縄ではいかない様子だった。
「崩壊、少し手伝って!」怠惰が小声で呼びかける。
崩壊が前脚で糸を引き裂くと、ついに緑色のドラゴンが解放された。その瞬間、女王アリが気配に気づいたのか、大きな触角を動かしながら振り向いた。
「急げ!」崩壊が声を上げると、怠惰は解放されたドラゴンを引きずるようにして巣の出口を目指して走り出した。背後では、アリたちが一斉に追いかけてくる音が響いていた。
「崩壊、どうしよう!追いつかれちゃう!」
怠惰が焦る中、崩壊が冷静に答えた。
「ここで止まるわけにはいかない。巣の外まで逃げ切るんだ!」
崩壊が「崩壊」の力を発動させ、巣の中の岩を崩してアリたちの進路をふさぐ。その間に怠惰はドラゴンを引きずりながら外へと飛び出した。
巣の外にたどり着くと、怠惰は解放したドラゴンの様子を確かめた。そのドラゴンは緑の鱗に覆われ、葉っぱのような姿をしている。怠惰の手を借りて立ち上がると、疲れ切った様子で小さな声でつぶやいた。
「ありがとう……助けてくれて……私はイワユリ。草原でお昼寝してたら、アリにエサと間違われて捕まっちゃったの。」
怠惰はイワユリの言葉に驚きつつも、優しく微笑んだ。
「イワユリさん、無事でよかった!でも、大丈夫?どこか痛くない?」
「大丈夫だよ……本当にありがとう。お礼に私の家に案内するね。少し遠いけど、そこならきっと休める場所があるから。」
イワユリは足元のおぼつかない様子ながらも、優しい笑顔を浮かべて怠惰と崩壊に感謝の意を伝えた。
三匹はアリの巣から遠ざかるように歩き始めた。イワユリの案内で進む道は穏やかな草原に続いており、空には柔らかな夕日が輝いていた。怠惰は足取りを軽くしながら、イワユリに話しかけた。
「イワユリさんの家ってどんなところなの?」
「とても静かで、草木に囲まれた場所だよ。私たちの力で植物が育つから、少し変わった雰囲気かもしれないけど、きっと気に入ってもらえると思う。」
崩壊は周囲を警戒しながらうなずいた。
「ここまで敵もいないし、少し休むにはいいかもしれないな。」
三匹はイワユリの家を目指し、草原の風に吹かれながら少し寄り道をして歩みを進める。疲れた体に優しい空気が染み渡り、束の間の平和を感じながら――。
イワユリ:この世界で葉竜と呼ばれる種類のドラゴン。
四足歩行でそこまで大きくならない、体に葉緑体を持っており、光合成ができるため、ご飯をたべなくても光があれば生き残れる。群れで暮らす。




