第二十話 あいつら
フェニスキの谷を後にしようとする怠惰と崩壊。その足取りは行きよりも軽く、二匹の間には安堵の雰囲気すら漂っていた。しかし、谷の出口が近づいたそのとき、不穏な空気が立ち込めた。
「崩壊、あれ……」
怠惰が低い声で言いながら指差した先に、一人の人影が佇んでいた。
薄暗い霧の中から現れたその人物は、黒い仮面で顔を覆い、左手には異様に大きなガントレットをはめていた。その手がゆっくりと動き、地面を軽く叩いた瞬間――人影は一瞬で二匹の目の前に現れた。
「初めまして。」
低く威圧的な声が響く。その男は仮面越しに怠惰と崩壊を見下ろした。
「私はメイカー、D.P.companyの幹部であるアンダーパーソンの一人です。」
一呼吸置いて、さらに冷酷で、丁寧な声で続けた。
「今日は――あなたたちを始末しに来ました。」
メイカーは宣言するや否や、怠惰を狙って左手のガントレットを振り上げた。その動きは速すぎて目で追えないほどだった。
「くっ……!」
怠惰が反応する暇もなく、巨大なガントレットが怠惰の胴体を捉えた。
ドンッ!
衝撃音とともに怠惰の体は宙を舞い、背後の岩壁に激突する。壁が大きく崩れ、怠惰はその中に倒れ込んだ。
「怠惰!」崩壊が叫ぶと同時に、メイカーの視線が崩壊に向けられる。
「お前も逃げ場はないぞ。」
冷ややかな言葉を放つメイカーに、崩壊は怒りを込めて叫んだ。
「この俺が、お前の思い通りになるとでも思うか!」
崩壊の四肢に力がみなぎり、地面が振動する。「崩壊」の力を解き放ち、周囲に破壊の波動を放出する。しかし――。
ゴオオオッ!
破壊の波動がメイカーを直撃するも、その黒い仮面の男には一切のダメージが見られなかった。
「その力……確かに強い。」
メイカーは微動だにせず、肩を軽く回して言った。
「だが、私のガントレットには効かない。」
崩壊は歯を食いしばり、さらに力を込めて攻撃を続けるが、メイカーは悠然と立ち尽くしているだけだった。
倒れ込んだ怠惰が何とか体を起こし、ぐったりとした声で言った。
「崩壊……力を使いすぎるな……! 何か方法を考えなきゃ……」
崩壊は振り向かずに返した。
「考えている暇はない。奴を止めないと、ここで終わるぞ!」
メイカーはそのやり取りを見て、不気味に笑った。
「絶望しろ。それがお前たちの運命だ。」
メイカーが再び左手を振り上げ、今度は崩壊を狙う。崩壊は回避を試みるが、ガントレットが放つ衝撃波が彼の体を捉えた。
「ぐっ……!」崩壊が膝をつき、苦しげに息を整える。
その瞬間、怠惰が弱々しく立ち上がり、小声でつぶやいた。
「……私の出番……かも……」
怠惰はふらつきながらも一歩前に出て、静かに言葉を紡いだ。
「メイカー……あんたみたいな勤勉そうな人にも……休む時間は必要だよね……」
その言葉に、メイカーの動きが一瞬止まる。
「何を言っている?」
「怠惰」の力がじわじわと広がり、空気が変わり始めた。
メイカーはわずかに顔をしかめたようだったが、すぐに笑い声を上げた。
「その力では、私には……」
突然、メイカーの体がふらつき始めた。
「なんだ……?」
彼の声が微かに弱々しくなる。
崩壊がその隙を見逃さず、力を振り絞って叫んだ。
「怠惰、やるぞ!」
怠惰と崩壊は、一瞬の隙をついて反撃の準備を整える。しかし、メイカーはまだ倒れていない。
「この程度では私はとまらない。」
ガントレットの光が再び強く輝き始める。
激闘は続く。フェニスキの谷の出口で繰り広げられる戦いは、怠惰と崩壊に新たな試練を突きつけるのだった――。




