第十五話「幻惑」
怠惰と崩壊が霧の中を進んでいると、ふと前方に淡い光が揺れるように浮かび上がった。二匹は立ち止まり、緊張した面持ちでその光を見つめる。霧の中から、しなやかな身体を持つドラゴンが現れた。その体は青白い霧のように透明感があり、見ているだけで目がくらむような奇妙な存在感を放っている。
「私の名は『幻惑』。復活の使いとしてここに現れた。」そのドラゴンは穏やかな声で語りかけてきた。
怠惰は少し驚きながらも口を開いた。「幻惑……? 君が復活の使い?」
「そうだ。復活様の泉を目指す旅人よ。私はお前たちが正しき道を進めるよう、案内をする者だ。」幻惑の声は静かで心地よく、霧の中に響いている。
「復活の泉……そこに行けば、俺の力も完全に戻るのか?」崩壊が鋭い目を向けて問いかける。
「それはあなた自身が泉で確かめることです。ただし、この霧の中は危険が多い。注意深く進む必要があります。」幻惑は冷静に答えた。
三匹は霧の中を進み始めた。道は狭く、深い霧が周囲を覆っているため、進むたびに迷路の中を歩いているような感覚に囚われる。しばらく進むと、低いうなり声が霧の向こうから聞こえてきた。
怠惰は耳を澄ませた。「何かいる……?」
「狼だ。」崩壊が低い声で警告した。
霧の中から、輝く目を持つ狼たちの群れが姿を現した。彼らは怠惰たちが持っている食料に狙いを定め、じりじりと間合いを詰めてくる。
怠惰は少し焦りながら崩壊を見た。「どうする? 戦う?」
崩壊は一瞬だけ周囲を見渡し、短く答えた。「できれば避けたい。お前の力も使えない場面だ。」
その時、幻惑が静かに前に出た。「私に任せなさい。」
幻惑の目がかすかに輝き、周囲の霧がゆっくりと動き始めた。霧は渦を巻くように狼たちの周りを包み込み、彼らの視界を遮った。狼たちは困惑した様子でうろうろと歩き回り始める。
「何が起きているんだ?」怠惰が幻惑を見つめて尋ねた。
「私は霧を操り、彼らの感覚を惑わせることができる。これで彼らは方向を見失い、散り散りになるだろう。」幻惑の声は落ち着いていた。
やがて、狼たちは完全に霧の中で姿を消し、群れはどこかへ去っていった。
「すごい……。」怠惰は感心したように言った。
崩壊は幻惑を一瞥し、短く言葉を投げた。「助かった。」
狼たちを振り切った三匹は再び歩みを進めた。幻惑は道を先導しながら話を続けた。「まずはフェニスキの谷の入り口にある小さな町、リブホーンに向かいましょう。そこから先の道は険しくなるので、準備が必要です。」
怠惰は疲れた足を引きずりながら頷いた。「リブホーンか。少し休める場所があるといいな。」
「おそらくそうなるだろう。ただし、気を抜かないように。」崩壊が冷静に応じた。
霧が少しずつ薄れてきた頃、遠くに小さな町の輪郭が見え始めた。それがリブホーンだった。三匹はその町を目指し、足早に進む。フェニスキの谷の奥にある「復活」の泉を目指す旅は、まだ始まったばかりだ。




