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第十二話 前を向け


薄曇りの空の下、怠惰と崩壊はフェニスキの谷を目指して歩みを進めていた。枯れた草が風に揺れる音だけが響く中、怠惰の足取りはいつになく重かった。


「怠惰、お前、歩くペースが遅いぞ。大丈夫か。」

崩壊が振り返って声をかけると、怠惰は曖昧に頷くだけだった。その顔は曇り、どこか遠くを見つめているようだった。


「……どうした?」


崩壊の問いかけに、怠惰は立ち止まった。そして、ポツリと呟いた。


「……ごめん、崩壊。ちょっとだけ、休んでもいい?」


その声は震えていた。怠惰はその場に座り込むと、青い鱗を揺らして肩を震わせ始めた。


「……ごめんね……でも……もう……」


とうとう耐え切れなくなったように、涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。


「親友が捕まって……怖い……悲しい……毎日戦ってばかりで……」

怠惰は言葉を詰まらせながら、これまで溜め込んでいた思いを吐き出した。


崩壊は黙って怠惰を見つめていた。その赤い瞳には、どこか遠い記憶を思い返すような色が浮かんでいる。


「……無理もないな。」


崩壊が低い声で呟いた。


「お前はこれまで、平和な日常を生きてきたんだろう?戦うことも、失うこともなく。」


怠惰は顔を上げ、涙を拭いながら崩壊を見た。


「でも、いきなりこんな旅をすることになったんだ。親友を助けたい一心で。それで泣くのは当たり前だ。」


崩壊はゆっくりと怠惰のそばに歩み寄り、その場に座り込んだ。


「ただな、怠惰。この旅の目的は、お前の大切な親友を救うことなんだろう?まだ親友は生きている。絶望するには早すぎる。」

「お前は親友のために立ち上がった勇敢な奴だ。」


崩壊の言葉に怠惰はじっと耳を傾けた。その青い身体はまだ震えていたが、少しだけ背筋を伸ばしたようにも見えた。


「泣きたければ泣けばいい。だが、足を止めるな。前を向け。」


その言葉には、崩壊自身の経験に基づく重みがあった。どれほど辛くとも、進むしかない。それが崩壊の選び続けてきた道だった。


怠惰は瞳を閉じ、小さく深呼吸をした。そして、震える声で答えた。


「……そうだね。」


涙を流す瞳はまだ潤んでいたが、その中には少しだけ光が戻っていた。


「ありがとう、崩壊。」


怠惰は再び立ち上がった。歩みは遅かったが、一歩ずつ確実に前に進んでいく。


崩壊はそんな怠惰の後ろ姿を見ながら、自分の胸の奥に残る傷を思い出していた。彼もまた、かつては恐怖と悲しみの中で足を止めかけたことがあった。


「……まだ救える。」


崩壊は自分に言い聞かせるように呟き、怠惰の後を追った。二匹のドラゴンの旅路は険しいが、共に歩むことでその道は少しだけ明るさを増していく。さっきまで曇っていた空は晴れ始めていた。


フェニスキの谷まではまだ遠い。しかし、怠惰と崩壊の歩みは止まることはなかった。青と黒、対照的な二匹の背中が夕暮れの空を背景に静かに進んでいく。その先に待つものを信じながら。

最近筆がのってきたので、たまに1日二話でるかも、基本1日一話で行きます。

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