第十話 奪われた「自由」生きている「希望」
重たい扉を開けた先には、研究室の中心部が広がっていた。金属製の機械や棚に整然と並べられた資料、そして壁にかかる巨大なモニターが不気味な光を放っている。その空間の中央には、白衣を着た人間の研究員が一人慌てていた様子で倒れていた。
「……気絶してるみたいだ。」
怠惰が研究員をチラッと見る。
「さっきの衝撃だな。」
崩壊は代償の疲労とケガで荒い息をつき、足を引きずりながらも、鋭い目で辺りを警戒している。
怠惰は慎重に部屋の奥へと進み、明るく白く光るモニターを見上げた。そこには複雑なコードや図表、様々な記録、そして赤い文字で表示されたドラゴンの名――「自由」があった。
「自由……!」
怠惰は近くの資料に手を伸ばし、急いで中身を読む。
「対象“自由”の言葉『自由』はD.P.companyの目指す新世界秩序において極めて重要である。『自由』の力を完全に支配下に置くことにより、全ての存在を『自由』に縛り、管理下に置くことが可能となる。そのための施策――」
怠惰は資料をめくり、続きを読む。その内容は恐ろしいものだった。
「力の奪取を目的とし、対象には強制的な『枷』を与え、精神と身体を限界まで弱体化させる処置を施す……?!」
親友がどのような仕打ちを受けているかを想像し、怒りと悲しみで震える声で怠惰が呟いた。
「……なんて酷いことを……」
資料にはさらに続きがあった。
「対象が言葉を失った場合、ドラゴンとしての存在は維持不可能となり、消滅が不可避となる。しかし、まだ言葉を奪うには至らず現在の対象“自由”は消滅には至らず、なお生存を確認している。」
怠惰は少しの希望に息を吞んだ。
「まだ、自由は生きてる……!良かった....!」
崩壊が怠惰の隣に寄り、資料を覗き込む。崩壊の目は鋭さを増し、怒りが隠せない様子だった。
「奴ら……ただの力の搾取だけじゃない。自分たちの野望に邪魔なドラゴンそのものを破壊しようとしている。」
「でも、まだ間に合う……自由を助けないと……!」
怠惰は拳を握りしめ、モニターを睨みつけた。
その時、モニターの画面が切り替わり、冷たい女性の声が部屋中に響いた。
「侵入者を確認しました。速やかに対処班を派遣します。」
「やばい、見つかった!」
怠惰が慌てて資料を抱え込む。その背後で崩壊が低い小さな声で言った。
「ここに長居は無用だ。情報は得た、さっさと引き上げるぞ。」
怠惰と崩壊は足早に部屋を出ようとしたが、廊下の奥から重い足音が近づいてくる。
「追手か……」
崩壊は絶え絶えな声でささやいた。
「ここで捕まるわけにはいかない!」
怠惰は力を振り絞って満身創痍の崩壊を抱えエレベーターへ崩れた壁の中を一直線にすすむ。
二匹は再び力を振り絞り、ディシェウィキの施設からの脱出を目指す。自由を救うため、そして自分たちの命を守るために。




