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エピローグ 【絶望する3匹】

 


「……退屈だ」



 狭い地下の部屋に身体を拘束されて閉じ込められた男――竜王がポツリと呟く。



 正直な話をすれば力を延々と奪われ続ける状況に彼は直ぐに慣れた。



 常に異常な脱力感に襲われ、回復する傍から根こそぎ奪われる不快感を感じるが、それも時間と共に慣れた。



 慣れないのは何もすることなく、何も出来ないことに対する退屈だ。



「業腹だが……あの女は正しかった」



 部屋を移される前に少しだけ話した異界の神との会話。



 これから1000年の退屈が待っているのだから今の内に話せるだけ話しておこうという提案は――正しかった。



 事実、竜王が思い出しているのは異界の神と交わした会話の内容だけだ。



「あの女は……どうなったか」



 それ故に異界の神がどうしているのかも気にかかるが……。



「はっ。考えるまでもなかったな」



 考えるまでもなく彼と同じ状況――つまり地下の狭い部屋に拘束されたまま力を延々と奪われる毎日を過ごしているに決まっている。



 それを思い、竜王はまだ絶望していない。



「まだ、か」



 言葉にしつつ自嘲する。



 まだ絶望していないということは、いずれ絶望するということだ。



 つまり時間の問題。



 それに彼は気付いている。



「最近、独り言が増えたな」



 誰もいないのに1人で喋ることが増えた。



 これはつまり、寂しいということの無意識の行動であり、喋る必要がないのに喋らずにはいられないくらい孤独を感じているということだ。



「異界の神めが。いるなら返事をしろ」



 返って来る筈のない返事を期待して、居る筈のない相手に話し掛けてしまう。



「どうしてこうなった」



 図らずも、それは閉じ込められた異界の神の口癖になっていた言葉だ。



「直ぐに3匹目が来ると言ったではないか。3匹目は……まだか?」



 本来であれば神か、神に匹敵する存在を数える時は《柱》を単位に使う。



 なのに竜王は自然と自分を《匹》という家畜のように数えてしまっていることに自覚がない。



 単純に先に異界の神が言っていたから、それを無意識に真似ているだけなのだ。



 それは小さなきっかけだが、竜王に家畜根性を植え付けるには十分過ぎるきっかけだった。



 そして悲しいことに普段の竜王なら気付けたことに今の竜王は気付けない。



「早く、助けに来い。なにをグズグズしているのだ」



 そうしてついには手下にしていた魔女が助けに来る筈だという都合の良い妄想までしてしまう始末だ。



 あの魔女は竜王の目の前で人形にされたというのに都合の悪い事実には目を瞑り、都合の良い妄想に逃げることでしか絶望から逃れる術がなくなっていたのだ。



「まだだ。まだ、まだワシは絶望しておらんぞ」



 こうして独り言を呟いてしまうのはとても悪い傾向だ。



「まだ……まだ?」



 何故なら無意識に呟いた言葉が自分の耳に入って、気付かなくても良いことに――気付きたくない現実に気付いてしまうから。



「まだということは、いずれ絶望することが決まってしまっているかのようではないか」



 もう既にカウントダウンは始まっていて、残りの数は決して多くないということに。



「嫌だ。ワシは……あやつのようにはなりたくない。あやつのようには……」



 そうして、また独り言で気付きたくない事実に気付いてしまう。



「ああ、そうか」



 竜王は気付く。



 気付いてしまう。



 無意識に異界の神を見下して、自分は異界の神よりも上なのだと思い込もうとしていたということに。



 だって、そうしなければ矜持が保てない。



 無意識に異界の神を見下し、自分の方が偉いのだと思い込むことによってちっぽけで無意味な矜持を守っていたのだ。



 これが虚勢だと気付いてしまったら、絶望に反抗する術を失ってしまう。



「異界の神。聞いているのか異界の神。返事をしろ。早く……助けに来い」



 こうして竜王は絶望に落ち、異界の神と同じ位置にまで落ちた。



「どうして……こうなった」



 そして異界の神と同じ口癖を延々と呟き続けるのだった。





 ◇◆◇





「聞いているのかい、竜王」



 一方で異界の神も最後の話し相手だった竜王と妄想の中で話していた。



「ははは。ボクが悪かったよ。ボクが悪かったから……返事をしてくれよ」



 とはいえ妄想は妄想。



 おまけに神の精神は無駄に頑丈だから簡単に正気を失うことも出来ない。



 そもそも正気を失えるような優しい余地を残してくれるような魔女ではないので、神でなくても正気を失うことなど出来ない仕様だが。



「うぅ、ボクが悪かったから。反省したから、もう許してくれよ。なんでもするから……助けてぇ」



 今の異界の神なら、ここから出る為なら――助かる為なら冗談抜きで何でもするだろう。



 それがどんな屈辱的なことであろうとも、どんなに倫理観に外れた行いだろうとも、ここから出て助かる為なら出来る。



 何故なら既に異界の神は――堕ちていたから。



 惜しむくらいは異界の神の容姿が魔女の好みからは大きく外れていたことだろう。



 邪魔だからと言う理由で小さくした胸が一番致命的だが、同じく邪魔だから短くした髪も好みではないし、なにより自分の趣味で子供のような身長にしていたことがそそられない。



 魔女はロリコンではないので子供っぽいという時点でストライクゾーンから外れてしまうのだ。



 もしも異界の神の容姿が魔女のどストライクの容姿だったのなら、ドエロいことと引き換えに助け出される未来もあったかもしれないが――残念ながら、そんな未来は来ない。



「あはは~。竜王君は楽しいなぁ~」



 結果、異界の神は狂って壊れた――ふりをしながら自分の心を必死に誤魔化すことしか出来なかった。





 ◇◆◇





「違う。こんな筈はない」



 絶望した3匹目は聖女と呼ばれていた女だった。



 彼女は聖女の力を失って以降、自分の部屋に引き籠って必死に否定を繰り返していた。



 何を否定しているのかって?



 勿論、自分が聖女の力を失った事実を。



 そして今までの自分が間違えていたという現実を。



「わたくしは聖女。わたくしは聖女なんだから!」



 必死に自分は聖女なのだと言い聞かせて自分に暗示を掛けようとする。



 だが、そんなことをしても聖女の力は戻らない。



「あの魔女め! 悪しき魔女め! よくもわたくしを……!」



 自分の力を奪った魔女を激しく罵るが、その魔女が実は何もしていないことには気付けないし、世界が全力で魔女を守っていることからも目を逸らす。



 そして延々と無意味なことを撒き散らすことしか出来ない。



 だから気付けない。



 実は彼女の聖女の力は、失ったのではなく一時的に封じられただけだということに。



 聖女の資質は本当に貴重で、世界も彼女から力を取り上げるのは惜しいと思って直ぐに力は戻すつもりだった。



 実は聖女が力を取り戻す方法は至極簡単なことだった。





 今までの行いを反省して、これからは世界の為に働くことを誓えば良い。





 たったそれだけで聖女は力を取り戻すことが出来た。



 なのに聖女は気付けない。



 今まで生きて来た常識が彼女を縛っているから、自分の信じていた常識を捨てることが出来ないから。



 世界は力を取り戻す方法を伝えているのに、それに耳を塞いで聞こうとしないから。



「神様、お願い!」



 世界ではなく神に祈ってしまうから。



 神なら、とある悪辣の魔女に地下室に閉じ込められて延々と力を奪われている哀れな存在になり果てているのに、そんなものに縋っている聖女は気付けない

※まだ半端な状況ですが、ここで一旦締めたいと思います。

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