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第4話 【魔女の魔法は万能で呪いにも対応しています】

 

 先生と共に呼び出された城の中、謁見の間と思わしき場所で私達は魔女の力を封じるという《魔女封じ》を向けられて王と対面を果たしていた。


(ちょっと試してみたかったけど、無駄にリスクを取ることもないわね)


 件の《魔女封じ》がどの程度の性能なのか知りたかったが、そういう試す行為は後でリスクのない時に行うことにした。


 というわけで、私はその場に自分の幻影を残して転移で小部屋に移動して――《魔女封じ》を偽物とすり替えて次の部屋へと転移。


 部屋に待機していた魔法使い風の人間はいたが、こちらも転移と同時に身体を透明化して気配を消しておいたので気付かれなかった。


 それを4つの小部屋全てで行い、4つの《魔女封じ》を回収した。


 え? 何処に仕舞ったのかって?


 魔女は世界力を使えば本当に何でも出来るのだから、アイテムボックスみたいに異空間に倉庫を作って、そこに収納しておいた。


 超便利♪


 そうして全ての工程を終えて、幻影の場所に転移で戻って幻影を消せば全ての細工は完了だ。


 この間、僅か数秒だというのだから周囲の人間に気付かれる訳がない。


「……器用な奴だね」


 まぁ、先生には気付かれていたみたいだけど。


「さて、スターシアよ。それが以前に言っていた後継者となるお前の弟子か?」


「ああ。まぁ、そのようなものだね」


 王の問いに先生が適当に答えた瞬間、周囲の兵士達から刺すような殺気と共に咎める視線が突き刺さる。


 先生のタメ口が気に入らなかったらしい。


 というか本来なら王の前で跪かせたいのだろうが、そういうのは魔女的にはノーセンキューである。


「へぇ」


 ところが王子には魔女という存在の脅威が分からないのか、私に向けて好色な視線を向けて来た。


 まぁ、私は超絶美少女なので分からないでもないが、そういう視線もNGである。


 王子が何かを言い出す前に私は王子に向かって右手を突き出して……。


「カエルになれ」


 パチンと指を鳴らした。


「は?」


 王子は呆気に取られた声を上げ――その身体がドロドロに溶け始める。


「な、何をし……た?」


 うん。魔女の魔法って別に火や水で攻撃的な魔法を撃ち出すだけではなく、相手に呪いのようなものを掛けて姿を変えることも出来るのだ。


 本当に何でも出来るからね。


 私に魔法を掛けられた王子の身体はドロドロに溶けて崩れ落ち――その中から30センチ程度の大きさのカエルが飛び出して来た。


「酷いことするねぇ」


 それを見て先生は呆れた声を上げる。


 そう。私は単純に王子をカエルに変えたわけではなく、身体の余剰分を油に変えて削ぎ落したのだ。


 これがどういうことかというと、王子を元に戻そうとした場合、油の分の体積を確保する必要があるわけで、カエルだけの状態の王子を人間に戻した場合、ガリガリに痩せて色々と身体が欠損した王子が出来上がるって訳だ。


「ゲコゲコ」


「気持ち悪いカエルですねぇ。踏み潰してしまいましょうか」


「……パンツ見られるぞ」


「あら、いけない」


 そういえば私はスカートだったわ。


「貴様ぁっ! 王子に何をしたぁっ!」


 そんな私に向けて大剣を抜剣した大男が突撃して来て……。


「ブタになれ」


 再びパチンと指を鳴らすと駆け寄って来ていた男は蹴躓いて、そのまま油を撒き散らしながらブタに変身した。


「ブー」


「……あんまり美味しそうじゃないですね」


「食う気かよ」


 流石に元人間を食べる気にはなれないね。


「騎士団長まで! スターシア! 貴様、どういうつもりだ!」


 そうして、やっと王が声を張り上げた。


「やったのはあたしじゃないだろ。文句は本人に言いな」


「貴様の弟子であろうが!」


「こいつはもう一人立ちしている。あたしが面倒を見る理由もなければ責任を取る義理もないね」


「ワシに逆らう気か!」


 そう言って王は片手を上げて合図を出し、透視で見ると四方の隠し部屋で4人の魔法使い風の人間達が同時に動いて《魔女封じ》を操作した。


 まぁ、既に偽物とすり替えたので何も起こらないけどね。


「《魔女封じ》は城に4つだけです?」


「ああ。あれは今では高額で取引されてて、そう何個も手に入らないからね」


 国の予算でも早々買えない金額って、いくらだよ。


 念の為、魔法で探査してみたが、城に他の《魔女封じ》は見つからなかった。


「あんな面倒そうな物は回収して処分しておきましょうか」


「……そうしな」


 世界中にいくつ《魔女封じ》があるのか知らないが、全て回収しておいた方が良さそうだ。


「どうした! 早く《魔女封じ》を作動させよ!」


 どうやら《魔女封じ》は作動すると目視で判別出来る代物らしく、王にも作動していないことは一目瞭然のようだ。


「カエル、ブタと来ましたから、次はニワトリでどうでしょう?」


「……良いんじゃね」


 先生の許可を得たので私は王に右手を向けて……。


「や、やめっ……!」


「ニワトリになれ」


 パチンと指を鳴らして王をニワトリに変えてやった。


「コケー」






 私と先生は大混乱に陥った城から転移で脱出した。


 普通に指名手配されそうだが、森に住む魔女に手出し出来るとは思えない。


 この森、大量の猛獣が跋扈しているしね。


「考えたのですが、私の武器は口元を隠す上品な扇子とかどうでしょう?」


「……好きにしなよ」


 魔女の武器なんて何でも良いんだから、お洒落な扇子にすることにした。




 ◇◇◇




 予想通り私と先生は指名手配されたみたいだけど、なんも困らなかった。


 街に行く用事もないしね。


 そうして私は錬金術で専用武器である扇子を用意してみた。


「どうでしょう?」


「……良いんじゃね」


 先生は凄くどうでも良さそうだった。


 普通の扇子だと武器にするには小さいので、50センチ近い大きさの扇子にしてみた。


 適当な細工で仕込みにしてみたが、見た目は普通の扇子だ。


 金属で作って鉄扇にすることも考えたが、お洒落じゃなくなりそうだったので止めておいた。


 だから材質は表面上は木と紙で出来ている。


 まぁ、中の仕込みは金属だけど。


「重くね?」


「極薄で作ってありますから重量はそんなに増えていませんよ」


 極薄ということは切れ味も相当ということだけど。


 下手な剣より切れ味は上かもしれない。


 なんせ魔女の錬金術で作られた仕込みだからね。


「後は黒猫がいれば完璧です」


「飼うのかい?」


「……面倒になったら黒猫の人形で代用しますから大丈夫ですよ」


 ペットの世話って手間が掛かりそうなんだよね。


「魔女の使い魔ってことなら錬金術でホムンクルスでも作ったらどうだい?」


「生命の冒涜ですよ。でも気が向いたら作ります」


「……そうかい」


 そうか。錬金術なら疑似生命も作れるのね。


 今のところ作る気はないけど。


「先生、ちょっと試し切りに出掛けて来ますね」


「はいはい」


 そうして私は作ったばかりの扇子の切れ味を試す為に森に出ることにした。






 魔女の家には特殊な結界が張られており、私が子供の頃に魔女の家を発見出来なかったように、探し方を知らなければ二度と戻ることは出来ないようになっている。


 世界力を認識出来る魔女には無意味な結界だけど。


 そうして家を出た私は森の中を彷徨う。


「流石の猛獣も魔女の前には出て来ないのね」


 危険を察知したのか、それとも先生に仕込まれているからか、猛獣は姿を現さなかった。


 代わりに小動物を発見したので扇子で斬り付けると……。


「切れすぎ~」


 音もなく首を刎ねてしまい、作った私が戦慄する切れ味だった。


 扇子を広げて振っただけなのに。


 でも切れ味は確認出来たので帰ろうと踵を返したら……。


「ん?」


 視線を感じた。


 魔女の森の中で他人からの視線を感じるなんてありえないことで、一瞬だけ気のせいかとも思ったけれど……。


(それこそ、ありえないわね)


 世界力を行使出来る魔女の直感が気のせいなんてことこそ、ありえない。


 つまり、この森に誰かが潜んでいるわけだ。


「ふむ」


 周囲の世界力を介して探査を実行する。


 現在の世界は深刻なエネルギー不足に陥っているが、先生の管理する森は世界力がそれなりに潤沢に漂っている。


 間違っても溢れているとは言い難いが。


 そうして漂っている世界力で探査を行った結果……。


「……見つけた」


 黒装束の男が木陰に潜んで様子を伺っている姿を発見した。


(暗殺者か。仕事が早いわね)


 私と先生が指名手配されてから、まだそんなに時間が経っていないのに、もう刺客を送り込んで来たらしい。


(こんなのに手間を掛けるほど暇じゃないし、封魂結界で良いかな)


 王城で王族をカエルやニワトリに変えたのはパフォーマンスに過ぎず、邪魔な奴は封魂結界でエネルギーを搾り取る方が手っ取り早い。


 そうして世界力を介して遠距離から封魂結界を仕掛けた結果……。


「ぎ……がぁぁああああああああああああああああああああああああああ!」


 森に暗殺者の悲鳴が響き渡る。


「うるさ。防音結界追加」


 近所迷惑な騒音だったので防音仕様に変更した。


 次から、これをデフォルトにしておきましょう。




 ◇◇◇




 森で暗殺者を処理して数日。


 私は先生の家で城から借りて来た《魔女封じ》の実験を行っていた。


「なるほど。確かに魔女の力を封じる効果がありますね」


「おい。人を実験台にするな」


 試しに先生に使ってみたら先生の身体が紫色の鎖に捕らえられ、世界力の行使を妨害されているようだった。


 これは確かに並の魔女では抵抗出来ない。


「今の先生なら抵抗出来るでしょう?」


 だが私が世界力を送り込んで世界との接続を強くした先生ならば抵抗可能だ。


「面倒。早く解け」


「はいはい」


 仕方なく私は《魔女封じ》を停止させて先生を解放した。


「思ったよりもちゃんとした効果でしたけど、仕組み自体は単純でしたね」


「量産品だからだろ」


「それもそうですね」


 数を作る為に複雑な作りには出来なかったのだろう。


「これなら対抗手段も簡単に作れそうです」


「……そうかい」


 先生は何故か肩を竦めて呆れていた。






 私は錬金術を行使して《魔女封じ》への対抗手段を組み上げる。


「名付けるなら《魔女封じ殺し》でしょうか?」


「……ストレートなネーミングだね」


 私が作り上げたのは銀色の細い腕輪だった。


 あの《魔女封じ》の効果は魔女と世界力を分断して世界力の行使を封じるというものだったので、その分断効果を妨害する腕輪を作ってみた。


「お洒落で、良い感じだと思いませんか?」


「……ど~でもい~」


 私のような超絶美少女に似合うお洒落な腕輪だというのに先生は微妙な反応だ。


「やっぱり扇子を武器にするなら衣装は和服の方が良かったですか?」


「そっちはもっとど~でもいいわ~」


「でも、私って金髪だから和服が似合うかどうかが問題ですね」


「……続けるのかよ」


 先生を無視して試しに和服を作って着てみたけど、思ったよりは似合っていた。


「流石は超絶美少女の私ですね。でも、魔女っぽくないので普段はローブにしておきます」


「だから、ど~でもい~っての」


 なんて無気力な先生なんだ。


 流石は500歳超えの魔女。




 ◇◇◇




 その日、私は基本的な知識を得る為に先生に質問してみた。


「先生、人間って魔法は使えないんですよね?」


「ああ、そうだね。人間が使うのは魔法じゃなくて魔術と呼ばれる魔法の出来損ないみたいなものだよ」


「どんなのです?」


「発動するのに長々と詠唱が必要だし、大きな魔術を使う時なんかは身体の動作の振り付けも必要になる面倒な術だ。おまけに人間が持つ魔力の量と質によって効果に差が出る」


「……不便そうですね」


 魔女の魔法は世界力さえあればイメージするだけで行使出来る。


 私の転移やアイテムボックスは、そうやって行使している。


 私が指を鳴らす動作はパフォーマンスの一環だ。


「他にも霊術だか陰陽術だのがあるが、そっちも魔術と大差ない出来損ないだよ」


「へぇ~」


 陰陽術は式神とか作れたりするのだろうか?


「先生は魔術とか使えるんですか?」


「昔に研究したことはあるが、使い勝手が悪くて直ぐに飽きて辞めちまったね」


 まぁ、魔女には魔法があるしね~。


 態々面倒な手順を踏んでまで魔術を使おうとは思わないだろう。


 他にも自然力や精霊力を使った術が存在するようだが、どちらも世界力を行使する魔女の魔法よりも劣るものだ。


「魔女って最強過ぎて退屈ですね」


「魔女にとって最大の敵が退屈だと言われている」


 ちょっと前まで《魔女封じ》とかいう面倒な物があったが、もう対抗手段を用意してしまったので脅威ではなくなったからね。


「ん? ひょっとして先生って今まで国から仕事の依頼とかされていたんですか?」


「……不本意なことにね」


 どうやら先生は《魔女封じ》で脅迫を受けて国からの仕事を嫌々引き受けていたらしい。


 先生の専門は調薬なので、薬の納品とかだろう。


「…………」


 この面倒臭がり屋が、よくもまぁ仕事なんて受けていたものだ。






 改めて先生の恰好を見てみると非常に派手だった。


 見た目は20代後半くらいの赤毛の美女に見えるが、着ている服は肩が剥き出しだし、足は露出しているし、下手をするとパンツすら穿かずに過ごしている時がある。


 着ている服が黒じゃなかったら、何処の娼婦かと思う格好だ。


 これが薬学の権威かと思うと頭が痛くなる。


「先生も私みたいに清楚な恰好をすれば良いのに」


 私は基本、黒のワンピースを着て過ごしているが極力肌は露出させない清楚な方面で着こなしている。


 清楚って言葉が良いよね。


「めんど~」


「…………」


 私も500年後にはこうなるのだろうか?


 魔女は自分の容姿や体型には干渉出来ないが、年齢に関してはいつでも自由に変更出来る。


 私は今は自然に成長していくのに任せているが、20歳くらいになったら姿を留めて老化しないようにしていく予定だった。


 だから現在の私の姿は年齢通りの17歳なのだが……。


(流石に17歳教に入る気はないからなぁ)


 妙な拘りに執着する気はない。


 このまま自然に成長して、もうちょっと大人っぽく、かつ清楚な方面で行こうと思っている。


(おっぱいも、もうちょっと大きくなりそうだし)


 このまま成長するとすれば、私が20歳になる頃にはGカップになる予定だ。


 清楚なお姉さんなのに爆乳というのは非常にそそられるワードである。


「…………」


 ちなみに先生もそれなりに巨乳ではあるのだが……。


「……なんだい?」


「別にぃ~」


 お手入れを怠っているせいか、先生のは少しだけ――垂れているのだ。


 おっぱいは大きいのが良いけど、やっぱり張りがないのは駄目だと思う。


 世の中には垂れている方が好きって性癖もあるらしいが、私はNGである。


「お風呂入ってきま~す」


「……好きだねぇ~」


 先生の家にはお風呂が存在する。


 先生は横着して魔法で身体や服を綺麗にしているのであんまり使っていないが、私が住み始めてからは毎日のように入って身体のお手入れを行っている。


 お風呂に大きな鏡を設置して、毎日のようにスタイルのチェックをするのは私の大事な日課である。


 私はお風呂で身体を丁寧に洗いながら世界のエネルギー問題について考える。


(このまま自然回復を待つって訳にはいかないわね)


 星にも人間と同じように自然回復力があるが、それにしたって8割以上を消耗した状態から回復するのには時間が掛かり過ぎる。


 ざっと計算してみても全快までは3億年は掛かる。


 流石にそれは待っていられない。


 そもそも時間を掛け過ぎると、また人間が余計なちょっかいを掛けてエネルギーを吸い出そうとしてくるだろうし。


(どっかに膨大なエネルギーでも余ってないかなぁ~)


 核施設でも作ればいいだろうって?


 核程度では星のエネルギーの維持消費分さえ賄えないのだ。


 そもそも星にダメージを与える危険を伴うエネルギーは魔女の本能に忌避感を与えるので使いたいと思えないけど。


 そうなると現実的なのは他の星からエネルギーを奪うか……。


(もしくは神と呼ばれる超越存在から奪うか、ね)


 どちらにしても直ぐに実現出来る案ではない。


 もうちょっと代案がないか考えてみよう。




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