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第18話 【長期間放置した駄目魔女を発掘する羽目になる】

 

 冒険者ギルドで帰還の報告をした後、私はティーナとリティスを連れて久しぶりに魔女の森にある先生の家へとやって来たのだが……。


「良い? 開けるわよ。心構えは良いかしら?」


「は、はい」


「?」


 私の台詞にティーナはゴクリと唾を飲み込んで覚悟を決めるが、事情が分からないリティスは困惑していた。


 うん。リティスを先生の家に連れて来たのは初めてなので仕方ない。


 そうして私は覚悟を決めて――扉を開いた。


「うわぁ~」


 家の中は予想通りに――というか予想以上にゴミの山となっていた。


「これは酷い。せんせ~、何処ですか~?」


 私はゲンナリしつつゴミを掻き分けて中に入るが、先生の姿が何処にも見当たらない。


「見当たりませんね」


「……くちゃい」


 ティーナも困惑しているが、鼻の良いリティスはゴミの匂いに顔を顰めていた。


 そうして私達が先生を探していると……。


「おぉ~い。こっちだ~」


 何処からか先生の声が聞こえて来る。


 その声の方へ向けてゴミを発掘しながら進むと……。


「なにこれ?」


 ゴミの山が崩れた場所に生き埋めになっていた先生を発見した。


「本当に何をやっているんですか?」


「うむ。これには深い事情があるのさ」


 そう言って先生が語り始める。


「その前に掃除しましょうよ。落ち着きません」


「……頼んだよ」


 その前に掃除をすると言ったら先生が他力本願なことを言って来た。






 掃除はかつてない程に大変だった。


「まさか魔女の魔法を掃除に使う日が来るとは夢にも思いませんでした」


「便利だね~」


「……先生にも出来るでしょう?」


「いや、それがさ。知っての通り魔女の魔法にはイメージが必要なんだが、あたしは自分が掃除をしている姿をイメージ出来なくて魔法が失敗したのよ」


「……馬鹿じゃないの?」


 私が来て以降、先生が自分で掃除をしなくなったのは確かだが、だからと言って自分が掃除するイメージを忘れるってどういう生活しているのよ。


「そもそも、私はちゃんと長期で来られなくなるから自分で掃除をして下さいと言っておきましたよね?」


「……あたしだって掃除をしようとは思ったさ」


「本当に?」


「ああ。あまりにも部屋がゴミだらけになっちまったから、仕方なく掃除をしようと腰を上げたんだ」


「それで?」


「ところが、その瞬間に凄く良い薬のアイディアが降って来てね。掃除を後回しにして調薬していた」


「…………」


 駄目だ、この魔女。


「薬が完成して周りを見たらやばいくらいにゴミだらけになっていて、これは流石に掃除をしようと思ったんだが……」


「が?」


「そう思ったら、また薬のアイディアが降りて来ちまったんだよ」


「……無限ループかよ」


 もう、それは単純に掃除をしたくないから現実逃避しているだけじゃない?


「そうして薬を完成させたら部屋の一角がゴミの山になっていた。これはもうあたしだけで掃除をするのは無理だと思って魔法を使って掃除しようとしたんだが……」


「イメージが出来なくて失敗に終わったんですね」


「そうそう。おまけにゴミの山が崩れて来て下敷きになって閉じ込められちまったのさ」


「……それこそ魔法で脱出すれば良かったのでは?」


「あたしもそう思ったんだが、暫く寝てなかったから急に眠気が襲って来て、どうせあんたが帰って来たら助けてもらえると思って寝て待ってた」


「……阿呆じゃないですか?」


 何処の世界にゴミの山の下敷きになったまま寝ながら救助を待つ魔女がいるのよ。


「魔女が不老不死じゃなかったら、そのまま圧死か衰弱死していましたよ」


「魔女で良かったよなぁ」


 この人、本当に駄目魔女だ。


「そんなことより腹が減った。何か作ってくれ」


「掃除が終わるまで大人しく待っていてください」


「へぇ~い」


 私は深く嘆息しながら掃除を再開した。


「お嬢、なんかお母さんみたい」


「……お願いだからやめて」


 こんな駄目魔女の母親とか普通に罰ゲームだから。






 掃除を終えてから料理を作ったら先生がガツガツと食事を食べ始めた。


「どんだけ食べていなかったのですか?」


「……知らん」


 保存の利く作り置きは全部なくなっているから、前に私が来てからも暫くは食事は出来ていたと思うが、それ以降は絶食していた可能性がある。


「先生が不老不死の魔女じゃなかったら、栄養失調で死んでいましたね」


「かもな~」


 この人、なんか益々駄目魔女化してない?


「ふぅ~、食った食った」


 そうして私の作った食事を全て平らげて一息吐いた先生は……。


「ところで、なんか1人増えてないかい?」


「……今更ですか」


 やっとリティスに気付いたようだった。


「それで?」


「私の可愛いメイドさん2号です」


「……ツラは兎も角、チチはあんまり大きくなくね?」


「母親が爆乳だったので将来性に期待出来ます。出会った頃はAカップでしたが短期間でDカップにまで成長しました」


 この間、リティスの胸囲を測ったら目出度くDカップになっていた。


「あんた、どのくらい大きければ満足なのさ?」


「Gカップが理想ですね!」


「……もうちょっとです」


「……頑張る」


 あと少しのティーナは自分の胸を触りながら決意の表情を見せ、リティスはもっと大きくすることを誓っていた。


「あんたのはどうなったのさ?」


「ふっ。一足早く目標に達成です♪」


 ティーナには悪いけど、私の方が先にGカップに到達である。


「……重くないのかい?」


「とっても重いですけど、とても満足感のある重みです」


 私は自前のおっぱいを下から支えるように腕を組んで爆乳を主張する。


「ふぅ~。大きいと肩が凝って大変だわぁ~」


「……すげぇ自慢気」


 なんと言っても念願のGカップだからね。


「そんなに爆乳ばかり揃えてどうするのさ」


「……左右から爆乳に挟まれて眠りたい」


「…………」


 私が夢を語ったら何故か先生は残念な物でも見るような目で私を見ていた。


「やっぱりお嬢様は先生の御弟子なのですね」


「そっくり」


「「どういう意味かな!」」


 私は、こんな残念魔女とは違うんだけど?


「あたしは、こんな残念魔女とは違うよ!」


「…………」


 先生も同じことを思っていたのが凄く嫌だった。






 これからはもっと短いスパンで様子を見に来ると約束して先生の家から自宅に戻った。


「無駄に疲れたなぁ~」


 再び男に偽装した俺は肉体的にではなく精神的に疲れてグッタリしていた。


「大変でしたね~」


「疲れた~」


 俺だけでなく、ティーナとリティスも疲れたようだ。


 残念魔女の相手は疲れるよね。


 少し早いが、今日はもう休むことにした。




 ◇◇◇




 翌日、たっぷりと休んだ俺は思った。


「そう言えば、もう緊急でやることはなくなったな」


 直近の目標がなくなったことを。


「旦那様、勇者は放置でよろしいのですか?」


「勇者には特別な能力はなかったみたいだし、聖王国にはいつでも転移出来るようにしてあるから大丈夫だ」


 当初に思っていた主人公にありそうなチートは持っていなかったようだし、潜在能力が高いと言っても……。


(脳筋に仕上げたから俺の正体には辿り着けないだろうな)


 聖女も力を失ったし、俺にまで辿り着ける可能性はほぼ皆無だ。


「今の勇者に頭を使えとか言ったら頭突きでもしそうな雰囲気だったしな」


「確かに……」


「ぷぷ。お馬鹿だ」


 ぶっちゃけ、頭を使うことが苦手な獣人のリティス以下だ。


「それでは暫くの間は勇者のことは放置でよろしいですか?」


「そうしよう」


 だが、そうなると本格的にやることがなくなる。


 まぁ、暇を持て余すようならおっさんのところに行って仕事を受けてもいいかもしれない。






 とは言っても喫緊でやることがなくなったというだけで、出来ることがない訳ではない。


 具体的に言うとティーナの魔術にはまだまだ成長の余地があるので訓練を施して伸ばしてやるとか、リティスに足りない実戦の勘というものを身に着けさせる為に強い奴を探しに行くとか。


 そういう出来ることはあるのだが……。


(見事に俺自身のことがなんもない)


 その場合メインとなるのはティーナとリティスであって俺ではない。


 そう思っていたのだが……。


「頼もう!」


 唐突に家の外から大声が響いて来て思考を中断した。


「なんだ?」


「おっきい声だね」


 俺は困惑しただけだが、耳の良いリティスは耳を抑えて顔を顰めている。


「お客様でしょうか?」


 昼食の準備をしていたティーナも何事かと姿を現す。






 とりあえず外の様子を確認してみると、そこには5人の人影があった。


「あんたが噂のAランクか!」


 その内の1人が俺に気付くと大声で叫ぶ。


 さっきの声の主はこいつのようだ。


「何か用か?」


「俺達は各地を旅してまわっている冒険者パーティ《大地の集い》だ!」


「そ、そうか」


 実を言えば固定の拠点を持たずに各地を転々として活動する冒険者というのはそれ程珍しくはない。


 一箇所に留まるよりも色々な国や地域に行った方が多種多様な依頼を受けることが出来るし、割の良い仕事にあり付けることもある。


 寧ろ、俺のように固定の拠点を持って活動する冒険者の方が珍しいくらいだ。


 基本的に冒険者というのは結婚などで引退するまで各地を旅してまわる冒険家なのだ。


 だからウチを訪ねて来たパーティみたいなのは珍しくはないのだが……。


「種族がバラバラの混合パーティは珍しいな」


「よく言われる!」


 大声で叫ぶ男は人間のようだが、他はエルフ1人、ドワーフ1人、獣人1人と……。


「精霊種か? 初めて見た」


「……よく言われます」


 亜人と呼ばれる者の中でも更に珍しい精霊を宿した人種――精霊種だった。


 彼女は水のような透明な肌をしているのでウンディーネだろうか?


「ふむ」


 察するに人間の男は神官、エルフの女性は魔術師、ドワーフの男は重戦士、獣人の男は格闘家、そして精霊種の女性は――なんだろう?


「精霊種の役割は見た目から分からないな」


「うふふ。私はパーティ全体のサポートを担当しているわ」


 精霊種の女性が指を一本立てると、そこに水が集まっていき――パーティ全員に水の膜が張られる。


 どの程度の防御性能かは知らないが、色々な攻撃を軽減することくらいは出来そうだ。


 これで5人の種族と役割は把握出来たのだが……。


「それで、何の用だ?」


「俺達と勝負してくれ!」


「…………」


 答えは明確に返って来たのに、回答は意味不明のままだった。


「それだけで分かる訳がないだろう」


「あいて」


 獣人の男が人間の神官の頭を軽く叩いてから俺達に向き直って代わりに説明を始める。


「俺達は各地を回って武者修行をしている。各地で噂を集めて強い奴を探して挑戦して回っているんだ。この地に来て聞いた噂は最年少でAランクに昇格したあんたの話だった」


「……誰に聞いたんだよ」


 どう考えても犯人は1人しか思い浮かばないんだけど。


「この街のギルドマスターだ」


「だろうと思ったよ!」


 あのおっさん、人のことをペラペラ喋りやがって。


「それで、どうだろう? 俺達と手合わせ願えないか?」


「ふむ」


 おっさんの所業は気に入らないが、こいつらの挑戦を受けることに否はない。


「ちなみにそっちのランクは?」


「こちらは全員がBランクだ。Aランクへの昇格資格は持っているが、いかんせん帝都は遠くてな」


「……だろうな」


 実際、ここからだと馬車で2ヵ月も掛かった。


「手合わせを受けるのは吝かではないが、何処でやるんだ?」


「広いところならどこでも良い。必要ならギルドの訓練場を借りられるように手配してある」


「手際良いな~」


「慣れているからな」


 まぁ、各地で武者修行をしながら手合わせの相手を探しているという話だったからな。


 今までに何度も同じことをして来たのだろう。


「出来れば人目がない場所が良いな」


「それなら街の外に良い場所を見つけてあるから、そこにしよう」


「街に住んでいる俺より詳しそうだな」


「習慣で、新しい街に着いたらそういう場所を探すのが癖になっているんだ。何処が勝負の舞台になるか下見をしておかないとね」


「……なるほど」


 如何にもベテランって感じだ。






 そうして俺達は彼らの案内で街の外へと向かうことになった。


「旦那様、どうして彼らの提案を受けたのですか?」


 その途中、ティーナが疑問に思っていたであろうことを聞いて来た。


 彼ら5人が先頭を歩き、俺達3人が付いて行くという形だったから話を聞かれる心配がないと思ったのだろう。


「俺達も連携の訓練はして来たが、実際にパーティ対パーティで戦った経験はないからな。相手はベテランみたいだし、俺達の連携がちゃんと通用するのか確かめるいい機会だ」


「なるほど」


 ティーナは納得したが、実のところを言えば俺達以外に異種族でパーティを組んでいるのが珍しかったので、もう少し話を聞いてみたいと思ったということの方が大きい。


 人間以外には差別的な国もあるし、色々な国を旅して武者修行をしているという彼らもかなり苦労している筈だ。


 なにより種族的に仲が悪い筈のエルフとドワーフが一緒に居るというのは、どういう経緯があったのか知りたい。


 後、単純にドワーフとか精霊種は初めて見たので、どういう種族なのかを聞いてみたい。






 そうして彼らに案内されたのは、街の近くなのに広くて閑散とした広場だった。


「へぇ~。街の近くにこんな場所があったのか」


「どの街にも意外とこういう穴場があることは珍しくないさ。それを見つけるにはちょっとしたコツが居るけどな」


 基本的にリーダーを務めるのは声の大きい人間の神官だが、解説役などは獣人の格闘家が務めるようだ。


 意外と気さくだし話し上手なので適材適所なのだろう。


 逆に言うと彼ら以外は殆ど喋らない。


 無口と言うよりは仲間以外とは喋らないのが普通という感じだ。


 これは今までに色々なことがあって自然とこうなったということなのだろう。


(世知辛いねぇ)


 きっと信頼出来るのは仲間達だけという暗黙の了解が彼らの間に出来てしまっているのだろう。


「それじゃ始めようか! 準備はいいかい!」


 現場に到着したからか、喋るのを獣人の彼に変わって人間の神官が引き継ぐ。


 俺は既に木剣を手に持っているし、後は2人の準備なのだが……。


「問題ありません」


「うん。おっけ~」


 ティーナは愛用のリボルバーに暴徒鎮圧用にと用意した非致死性の弾丸を篭めており、リティスは拳に普段愛用しているものとは別の非殺傷用のナックルを装備していた。


 どちらも模擬戦用にと俺が――というか魔女が用意したものだが、これらは攻撃の威力を下げるのではなく、命中と同時にダメージを麻痺に変える効果が付与されている。


 うん。攻撃を受けても死なないが死ぬほど痛いし痺れる効果があるということだ。


 相手が殺す気で来るかどうか知らないが、こちらは戦闘終了後にも話を聞きたいので装備の試しを兼ねて非殺傷武器で相手をすることになった。


「…………」


 俺の木剣だけはいつもの木剣だけど。


 これだけは材料が特殊なので簡単に予備を用意するという訳にはいかないのだ。


 しかも貴重な材料を使って非殺傷武器を作っても、なんだか微妙に思えたので単純に魔力を篭めて切れ味を上げない頑丈な木剣にして参戦である。


「それでは、このコインが地面に落ちた瞬間を開始の合図とする!」


 そう言って人間の神官が懐から無地の金属製のコインを取り出した。


「…………」


 一瞬だけドワーフがコインを見てニヤリと笑った気がしたので彼の作品の1つなのかもしれない。


「行くぞ!」


 そう言って人間の神官が持っていたコインを空高く放り投げた。




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